第29話 夕飯
「お疲れ様でっしゃろ?、この部屋でお休みしてください」
天狐にそう言われて三人くらいなら余裕で入れる部屋に通され、時間も時間なのですぐに夕飯が配膳された。
所狭しと並べられる和風の料理。
「………くっーー………このーー」
………味はいいのだが箸に四苦八苦しているイヴ、まぁ基本手で食べるか、ナイフとフォーク、それかスプーンで食べるのがここら辺の常識だから使えなくても不思議じゃあるまい。
「イヴさん、箸はこうやって使うのでーーー、あれ、ひ、久し振りだからむ、難しい………」
「……………クリスも………使えないじゃん………プッーー」
「あ、アハハハ、やはり慣れない食器は扱いが困難です、ねぇ、ハルーーー………」
クリスはドヤ顔でイヴに箸の使い方を教えようとするも彼女も扱えない事実にイヴは無表情の嘲笑を浴びせる、クリスは笑って誤魔化し俺に同意を求める。
「うん?、まぁ〜慣れないうちは使うの難しいよなぁ〜、あ、これうっまーー、こっちもうまいな〜醤油によく合う」
「………………」
「………………」
俺の様子にポカンと間抜け顔を晒すイヴとクリス。
「うん?、どうした二人とも?」
「え、いやよく箸を使えますね?」
「…………すごい………」
「うん?、あーー、昔立ち寄ったジパングで覚えた」
「え?!、た、確かあそこは鎖国……だかなんだかで余所者は入れないのでは?」
「ところがどっこい、連れ添いにジパング人がいてな、なんとか入れたんだ」
「は〜〜、なるほどぉ〜」
「……………ふーーん…………」
二人は納得する。
「むぅ、ハルにできて私にできないはずがありません!!このーー、それーー、とりゃーー」
クリスは奇妙な掛け声とともに箸でおかずを取ろうとするもうまく持ち上げられない。
「難しい〜、コツとか教えてくださいよハル〜」
「親指と人差し指と中指で持つんだ」
「…………なるほど………こう持つのか………」
「おっ、イヴ、上手いぞ、そうそう、そうやって持つんだ」
涙目になりながら俺にアドバイスを求めてくるクリス、大雑把な助言をする。
その助言を横で聞いていたイヴは箸の持ち方を矯正に成功………だが。
「こうっーー、ですか?」
「違う違う、あーー、もう、こう持つんだ」
「へっーー?」
肝心のクリスの箸の持ち方は汚く、見かねた俺は後ろから箸を正しい握り方に直す。
「ほら、こうやって、指のここ辺りに挟んで動かすんだ」
「て、ててててを握りリリリリリ」
「…………クリス?、聞いてるか?………」
「そそそそ、そんな、たしかにハルのことはちょっと良いなぁ〜とか思ってましたけど、ささささすがにいいいいきなりそれはちょっとダダダだだ大胆すぎと言うかなんと言うか………」
「おーーーい、クリス?、きこえてますかーーー?」
「竜の状態じゃなく人に戻ってからな考えなくも、いやいややっぱり竜でもハルなら…………へっーーー?、あ、はい、きききこえてます!!」
「で、箸の持ち方、わかったか?」
「え?、あっ、はっーーはい!!バッチリです!!」
「………ま、それならいいんだけどよ」
「あっーー………」
疑問に思いながらも俺はクリスから離れる、すると彼女は少し名残惜しそうな声を出す。
「なんだ?………やっぱりお前、俺の話聞いてなくてまだ説明して欲しいんじゃないだろうな?」
「い、いえいえそ、そんな事はありませんよ!!」
「………ふーーーん、本当かな」
「せ、聖女が嘘をつくわけありません!!」
「………それもそうか」
なんか無駄に説得力があるセリフに納得してしまう俺。
「…………………ア、アー、ゼンゼンモテナイヨーーー……………」
いつもの無表情なのだが、なんだが発音が棒読みでわざとらしく愚痴を零すイヴ。
さっきまで完璧に扱えてたのにいきなり元より酷い持ち方をする彼女。
「おいおい、さっきまで出来てただろ?」
「…………ヤ、ヤッパリ、ムズカシイーー……」
「だから、こう持つんだ」
「…………………」
クリスにやったように背後から直してやる俺。
「で、ここら辺で………おい聞いてるか?」
「…………うん、聞いてる………こう持つんでしょ?」
また箸を正しく持ち始めるイヴ。
「そうそう、やれば出来んじゃん…………て言うかお前今わざと出来ないフリしてなかったか?」
「……………そんな事して………….一体私になんのメリットが………あるの?」
「うん?、そりゃ〜〜〜、…………無いな」
「………………でしょ?」
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