第28話 葛の里
「あれほどうかつに外出るな言うたのにこの子は〜〜」
「痛い痛い痛い、痛い、堪忍やオカン」
金狐の耳をつねる母狐、どうやら金狐は好奇心旺盛でたまにこうやって外に抜け出して遊んでいるらしい。
「ま、説教はその辺にして出口へ案内してくれねぇか?、こっちもそろそろこんな物騒な森は早く抜けたいからな」
「それはかまへんが、その前に度重なる無礼な口を聞いて失礼しました娘を救っていただきありがとうございます……………………よかったらでええんやがうちの里でもてなさせてほしい」
「へ?、あーー、でも、その、なぁ〜」
「……………………」
俺はイヴをチラ見する、危惧した通り不機嫌そうだ。
「いいじゃないですか!、むしろ亜人の里に行けるなんて一生にあるかないかですよ!!、行かないとバチが当たります!!」
クリスは少し興奮しながら言う。
「うーーーーん、まぁ……今から急いで外出ても日が沈んじまうか………わかった案内してくれ」
「………………ふん……手の平クルクルさせて………ハルを馬鹿にしたこと………忘れてないからね」
そんなこんなで狐の案内で先を進んでいく。
すると眼前に巨大な壁が見えてきた、10メートル手前までは全く無かったのにいきなり現れる。
太い樹が折り重なりアーチ状になっており、鋼鉄の壁がはまっている、それは難攻不落の城壁を連想させる…………よく観察してみると中心に縦線が入っていて門に見えなくもない。
「…………わいや」
門と思われる壁に向かって呟くや否や、何者も通さず事を許さないと思われていた鋼鉄の城壁は木の葉のカーテンへと早変わりした。
「……………何これ………すごい」
「…………これが噂に聞く狐人族の特殊スキル『変化』ってやつか」
「里の中でも狐に化かされないように気をつけないとですね!」
木葉のカーテンを潜るとそこは別世界……と言ってもいいくらいだった。
美しい大樹が乱立し、その中に居住区があるのか、中からランプの光が出ていてる。
木の枝が、蔓が絡み合い空中に螺旋階段や橋などを形成していて、人の波を作っている。
どうやら人が行き交うだけでなく、空中水路もあるようで水も流れていく。
その水が光を反射して虹を作っていてなんとも幻想的な光景。
しかも空中だけでなく視点を下げると火があちこちに浮かんでおり行き交う。
虹を陽炎の如く歪める火は妖しく、そして確実に美しかった。
「着いたで、此処が、葛ノ里や」
「おおーー………いい所だな、空気もうまい」
「……………綺麗…………」
「…………カメラ持ってくればよかったです」
ーーーーーーーーー
「ほら、こっちや、うちについてきてくれ」
「はいはいっと」
「……………………」
「綺麗ですね〜」
母狐の案内に従って歩く俺たち。
「うわっーーと」
「悪りぃ、急いでるもんでね」
「あ〜〜気にしないでくれ、こっちもよそ見してたしな」
景色に見惚れて歩いていると通行人とぶつかってしまう、お互い軽く謝罪し合い通り過ぎようとした。
「イッテェーーー!!?」
「………………」
その瞬間にイヴが男の腕を締め上げる。
「あ、イヴ!!?、おいおいちょっとぶつかった程度でそれはやりすぎだろ??!」
「……………謝るなら…………まず懐に隠したハルの財布を………返すべきじゃない………?」
「へ?………あっーー、ほんとだ!!ねぇ!!俺の財布が無い!!?!」
「チッーー、人族のくせにいい感してやがるな!!、ほら!返してやるよ!!」
舌打ちしながらも財布を返す狸人族の男、財布を受け取るイヴ、しかし彼女は相手の腕を離さない。
「な、なんだよ!!返しただろ?!!離せよ!!」
「……………これ、ほんとにハルから盗んだ財布………?」
「……………良い目してやがるな、ほら、これが本当の財布だ!」
イヴの手中の財布が木葉に変わったと思ったら男の懐から二つ目の財布が出てきて彼女が受け取り手を離す。
「じゃあな!!」
「…………次やったら即射殺コースだからね………」
「よ、よく偽物ってわかったな」
「…………わかんなかったよ……カマをかけただけ」
「へ?、わかんなかったのになんで?」
「…………木葉のカーテンを鋼鉄の門に変えられるなら…………木葉を財布に見せるくらいはできるだろうからね…………」
「な、なるほどぉ〜、や、やっぱお前優秀だな!!」
「へ?…………いやぁ〜それほどでも………ないよ……」
「いやいや、そんなことあるだろ!!お前がいてくれなかったら無一文になってたぜ!!」
「え、えへへへ………そ、そんな褒めても何も出ないって…………」
しらけた目で母狐と後ろのクリスに忠告される。
「…………二人ともイチャついてないで、ちゃんとついてこなくちゃダメですよ」
「せやで、この里では人族は嫌われているさかいな、ぎょうさんスリがおるんや、こっちも犯罪は取り締まっとるが完璧やあらへん、きいつけてな」
後ろの金狐も呟く。
「………残念イケメンやなぁ〜」
「「………………はいはい」」
「「はいは一回」」
「「………ハイ」」
異口同音で会話する俺達。
「………ハァ〜とんでもねぇところにきちまったな」
「…………なるほど………クズの里ってわけか……」
ーーーーーーーーーー
「ここやで」
ハプニングも束の間、イヴやクリスと適当に駄弁って歩いていたら目的地に着いたようだ。
そこは王宮よりは小さいが一家族が住むには絶対に必要無い規模の豪邸。
立派な建物なのだが、見たことない城だ。
色鮮やかな屋根、両端には金色の魚が飾っており、中々に壮観、入口は重めの赤で染め上げられている門、よく見てみると左右に狐の像が鎮座、まるで生きていると勘違いするほど見事な出来栄えだ。
…………一瞬目が動いた気がしたが気のせいだろう。
「スゲェ〜でけ〜」
「ふふふ、ドヤ、中々のもんやろ?」
金狐がドヤ顔でふんずりかえる………ちょっと可愛い。
「こちらへどうぞ」
赤狐の手招きに俺は応じず立ち尽くす。
「………どないした?」
応じない俺に母狐は疑問を抱く、他の皆も一同に足を止めて首を傾げる。
「………俺の名前はハル・セルリアン、こっちはイヴ・エクス・マキナ、そんでそっちはクリス・クロス、短い間ですがお世話になります!!!」
相手の疑問に短く息を吸って大声で頭を下げながら答える。
「………は?、な、なんやいきなり?」
「いやぁ〜そういや自己紹介もしてなかったなぁ〜と思ってよ……これから世話になるみたいだからさ、門を潜る前に挨拶くらいは済ませとこう………ってな!」
「………くくく、なるほど、これは一本取られたわ、たしかにお互いの名すら知らへんかったな………よろしゅうなハルはん………にクリスはんとイヴはん、うちの名も教えとくわ…………葛ノ葉天狐申します」
「天狐さんね………よろしくな!!」
「お世話になります!」
「…………お世話になり………ます」
笑顔で頭を下げるクリスと対照的に少し不満げに眉毛を歪めながらも頭を下げるイヴ。
「んじゃまぁお邪魔しまーす」
挨拶が終わり、軽く会釈しながら門を潜る俺たち。
「………ハルって偶に礼儀正しいですよね」
「………いやいつもだろ?」
「………ダウ………ト」
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