第27話 拷問


「うぅぅ………はっ!………な、なんだこれはとっとと縄を解け!!」



縄に縛られた青年は自身の状況を把握した瞬間喚き散らす。



勇者の怒声に耳と目を塞ぎながら、迷惑そうに眉を寄せる俺達。



「………うるさい……」



俺は手ぬぐいを青年の口に羽交い締めで結び、脚を踏み抜き砕く、痛みに痙攣して叫ぼうとするが、声が出ない。


そんな光景に顔を背ける金狐と赤狐、クリスも少し顔を俯かせる。



「魔物が寄ってくるだろうが……大人しくしろ」



肯定の意思をコクコクと示してくる青年、ゆっくりと喋れるようにしてやる。



「俺をどうするつもりだ?」



自分の最も気になるだろう疑問に対して悪どい笑顔を浮かべながら語り聞かせる。



「何、いますぐとって食おうってわけじゃない、ちょっと聞きたいことがあってな」




そんなほぼわかっていた脅し文句に反発の意を示す青年。



「はいそうですかって聞くと思ってるのか?、言ったら甚振られるとわかっていて誰が言うか」



面倒臭そう溜息を吐く、相手が喋りやすいよう、飴の逃げ道と鞭のイバラ道、二つの道を与える俺。




「信じるかどうかはお前次第だが、喋れば嬲ることなんてしない本当だ………まぁ喋る気があろうがなかろうが、喋るまでは尋問させてもらう……実は俺の仲間に高度な回復魔法を使える奴がいてな、あの人………赤狐さんが助かってるのもそのおかげ、尋問のために幾らでも嬲れるってわけだ………お前が話したくなるまでさっきのを続けるだけさ」




赤狐の方を見てハッタリではないことを確認し驚愕する青年。




「なっ!!?」



そんな相手の戸惑いを律儀に待ってやるわけもなく、脚を振り上げる。




「じゃあどれくらい耐えられるかなお前は!!」



振り下ろす直前に青年は叫ぶ。



「あっ!!わ、わかった!はな、ギャアアア!!?」



肉が裂け人骨が砕ける嫌な音がそこらに響き渡り、謝る気が皆無の声色で俺は謝罪する。




「あ、わり、話すなら話すでもっと早めに言えよ、止損なうだろ?」



形だけの謝罪の後に即責任を押し付ける。



親の仇でも見るかのような憎悪の瞳を向ける青年は嗚咽を漏らしながら呟く。



「お、おまえェ」




お前の事情なんか知らんとばかりに青年に詰問する俺。




「まぁいいや、ほらとっととお前がこの子を狙った動機、理由、知ってること全部話せ」




そんな俺の詰問にまたもや反抗の意思を示す青年。




「………その前に治療しろ」



青年の言葉に青筋を浮かべ静かな殺意を込めて喋る。




「あ?……手下もそうだったが、おまえら頭足りないな、自分達が攫うために人を殺し、攫ってきた人間も犯して殺して売ってたんだろ……自分の時だけ御免被る丁重に扱ってくださいって通るわけねぇだろ、それとももう一本いくか?」



実質的な被害を被る前に速攻で折れる相手。




「ひ、話す話す!!」



イラつきながら呟く俺。



「……わかったならとっとと話せ、また止め損なう……悪いが外道を蝶よ花よと愛でる趣味もないしな」







ーーーーーーー



「なるほど……手下から聞いた話まんまだな、使えねぇ〜、まぁ裏は取れたか、流石に足を踏み砕かれて嘘つく奴もいないしな……さて…もうお前に用はない……」



俺はクリスに傷を治させる過程で嘘をついたらまた潰すと脅しながら再三訪ね、死なない程度に直し中途半端に塞がった傷の痛みで気絶してしまった青年。




そんな青年に自身の期待が裏切られた心情を隠そうともせずに溜息をつきながら淡々と言うが意識がない彼にはもちろん届かない。



女中の赤狐は余り良い気分では無さそうにしろ仕方ないことと割り切ってていてともかく、金狐はまだ納得できていないのか複雑そうな顔をして、青年と俺の間に入り立ちはだかる。



「ま、待ってくれへんか!やっぱり殺すのはやりすぎやと思います!!」



「き、金狐様!!」



甘さを捨てきれないのか、青年の命を助けて欲しいと懇願する金狐、自身の前で命が奪われるという事態を全身で拒否する。



主人の行動に驚く赤狐、不安そうに眉を歪めこれでもかと目を見開く。



そんな二人に対して俺は溜息を吐きつつ、さっきと似たような事を言う。



「………勝手に顔突っ込んだのは俺達だけど、これはもうあんたらだけの問題じゃないんだ、悪いがこいつは殺させてもらう」



心の内を正直に吐露した俺の発言は彼女達を表情硬らせる。



「……………ですけど………」




それでもと、まだ否定してくる。




「はぁ……あんたが死者を蘇らせられるってんでもなければ納得できないな」



「そ、それは………」




ゴチャゴチャやっていたら一陣の風が吹く、その瞬間に青年が消える。




「なっーーーき、消えた!!?」




「…………いや………消えてない………あそこ」



俺が驚愕してるとイヴが否定しある一点を指し示す。



木の上に人影が一つ、斥候職が好む軽装備をしていて、覆面の人間。



顔が見えず性別すら確認できない、そして全てが艶消しの黒、マッドブラックだ。



「…………………こんな奴らにやられるとは情けない」




「おい!!そこから降りてきやがれ覆面野郎!!!」





「………そう言われて降りてくるのは………相当のアホしかいないと思うけど………」






「………………お前らと遊ぶのはまた今度だ」



言葉が俺たちの耳に届いた時にはもうすでに相手はおらず、まさしく姿形も無い。



イヴの言葉の通り降りてくるはずもなく、この場から姿を消した。




「…………貴方がゴチャゴチャ言うから………敵を逃した………」




「す、すんまへんでした」




イヴは機械的な無表情を浮かべているが少し怒ってる。


彼女は金狐を問い詰め、金狐は謝ることしかできない。




「はぁ……ま、そう怒るなイヴ、過ぎたことは仕方ない」





脱力しながらイヴをなだめる俺。




「金狐!!!大丈夫やったか!!?」



「オカン!!ど、どうしてここに……?」



さっきの案内役の狐人族が駆けつけてくる。





「へぇ〜あんたの子供だったのか」




「言われてみれば似てる気がします」





「……………親子………か」






三者三様の感想を漏らす俺達。






「オカン怖かったで〜〜!!」




「………無事でよかった」





泣きながらで抱き合う二人。



「感動しました……」




「ま、無事でよかったな」




「………………………」



クリスと俺は似たようなコメントを溢すが、イヴは少し羨ましそうな視線を向けるだけで無言を貫く。





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