第26話 無法地帯
「やっと出口か〜」
無駄話をしていたらあと少しで着くらしい、と気を抜いた瞬間に悲鳴が鳴り響く。
「キャアアアアア!!!」
悲鳴の声に顔を合わせる俺達
「なっーーこの声、まさか……」
案内役の狐人族が呟き、『木葉分身』とやらが木葉に変わる、がそんなものに気を使う余裕はない。
「あっちからだ!!」
「はい!」
「……………」
鬱蒼とした森の中を枝などで頬や露出してる部分が切れるが、気にせず疾駆する俺達
走ること数分、遂に悲鳴が響いた場所についたが、その瞬間、目の前で女中らしき人が切り捨てられる光景が広がる。
馬車を守るように立ちはだかる彼女達。
女中さんの背後には長く美しい金髪、透き通ったシトリンのような瞳、鼻筋は高く、色素の薄い唇、狐耳を持っていて、瑞々しい肢体、男を誘惑してくる豊かな胸と尻。
それを包むのは上等そうな服を着ており、案内役が着ていた服に似ていて、重ね着を腰の帯で止めている。
背後の少女の響き渡る悲鳴
「赤狐!!」
「逃げてください金狐お嬢様!殺されます!」
真っ白いエプロンを自身の血で赤く染まし、地に倒れながらそれでも主人を慮る、何という忠誠心。
しかしそんな忠誠心も無駄、これから彼女の主人の尊厳は蹂躙される運命だった。
「ヒャハハ!!大丈夫、殺さねぇさ、だって犯せなくなるからな!!」
「今日のは上玉だこりゃ」
「可愛がってやるぜ〜」
周りを取り囲むは無数の男たち、頭にバンダナを巻いていたり、薄汚い獣の毛皮やボロ布で作られた上着、ズボンは膨らんでいて足首のところで細くなっている。
袖なしだったり指なしグローブをはめていたりと男によって様々な服装をしているが、顔には伸びすぎた髭、体は薄汚く、体臭もきつく、全員何週間も風呂に入っていないようだった。
皆一様に少女の体に興奮しており、発情の色を表情に滲ませ、いやらしい笑みを浮かべている。
奴らが今にも襲いかかろうとしたその時、男の声が響く。
「おい、お前らまさか先に楽しむつもりじゃなかっただろうな……いつもいってるだろ、俺が楽しんだ後に次にお前らだってよ」
「ひ、先生、す、すまねぇ」
「いいさ、実際にはやらなかったんだ、許してやる」
背後から出てきたのは前はもっと綺麗な服だっただろうが、今は薄汚れていて、落ちぶれた貴族のような服装をしている青年。
服とは違い、手には白銀に輝く長剣を持っており、少女に近づいていく。
「それじゃ、ついてきてもらおうか、葛ノ葉金狐さん」
彼女の首元に剣を突きつきながら、顎で合図し手下達に縄で拘束させようとしたその時、俺の叫びが木霊する。
「お前ら何してんだ、やめやがれ!!」
「あん?………なんだお前ら?…………」
訝しそうに俺を貫く青年の視線。
「…………誰だか知らんが今すぐ消えるなら俺たちも追いはしない、とっとと立ち去った方が身のためだぞ」
男はしっしと手を払いながらそんなことを宣う、しかしその途中で相手の目つきが変わった。
「って思ってたけど、気が変わった、隣に良い女達がいるじゃねぇか、おい、お前らに女が回ってくる回転率が上がりそうだ」
「お、おお!わかりやした!流石先生!!俺らとは目の付け所が違う!」
舌舐めずりしながらイヴとクリスの体を観察する男と手下達、その視線に悪寒を感じて身を抱く彼女達。
彼らの視線を遮るように前に出る俺、皮肉げな微笑を携え相手を嘲笑する。
「は、多勢に無勢で女襲って情けねぇ連中だな」
「………あ?、蜥蜴があんま調子になるなよ」
俺の挑発に青筋を浮かべる青年、低く唸るように手下達に指示する。
「お前ら、この出しゃばりは俺が殺す、目の前で女犯して絶望させてやる」
「やってみろよ」
なお焚きつける俺は指を立ててチョイチョイと挑発する。
その挑発に我慢がきかなくなった相手は一足飛びに俺の懐に入り込み、一刀両断しようと剣を居合い切りの要領で降ってくる。
俺は敵の攻撃を飛んでかわしつつ、空中で回りながら迎撃のスキルを発動させる
『我薙ぎ払う火の粉の尾、
スキルを発動させると火を宿しながら、相手の剣を身をひねって回避、直後、遠心力たっぷりの尻尾をクロスカウンター気味にぶつける。
「ッッッーー?!!!、あ、危なかったぜ」
驚愕に目を向くもすぐに剣でガードする青年。
「へぇ〜スキル認定状態だと火を宿すのか〜」
初めて使ったスキル、不思議そうな声を溢す俺。
「の、呑気なこと言いやがって、すぐにお前を殺してやーー」
「ふっ、正面がお留守だぜ」
『
不愉快そうに唸る青年、だが言い終わらぬうちにイヴが詠唱を開始、スキルで正面からぶん殴る。
「のわ!!」
相手はこれもうまく横に飛んで回避………だが追い込み漁の如くもう一方の手に握られた昼間作っていた剣の血溝で殴りつける。
「ガハッーー!!!?」
「…………隙あり」
青年を殴り飛ばすイヴ。
「ひ、ひぃぃ、ば、バケモンだ!!」
「な、なんだよあいつ、雑魚じゃねぇか!!」
「や、ヤベェ、逃げるぞ!!」
蜘蛛の子を散らしたように右往左往、こちらに背中やけつをむけて逃げ出す盗賊達、しかし、圧倒的に強者を前にしてその行動は愚鈍にすぎた。
「…クリス、こいつを拘束した後に女中さんを頼む、まだ間に合うかもしれない」
「え、あ!!!は、はいわかりました!!」
隣のクリスに指示を出し、盗賊たちの方に向き直る俺。
「…………逃がすわけないだろ………『
………
鋼鉄の悪魔は囁くや否や、詠唱を開始し背中から砲身を出したかと思ったら、魔力を噴射し目にも止まらないスピードで一番遠くにいる盗賊の首を刈り取る、通り道にいた何人かもついでとばかりに致命の一撃を与えていく。
「ひ、ひぃぃ!!?」
回り込まれた事で驚愕と恐怖に顔を染め、尻餅をつく男の目の前で彼女は剣を地面に突き刺す。
『………
『
…………
彼女のスキルは尻餅をついた相手の頭すれすれに剣や槍、斧や槌、矢や砲弾、ありとあらゆる様々な武器が飛んでいく、体感では何回も死んでいる錯覚を引き起こす。
後ろを恐る恐る確認すると、自身の仲間は全滅したようだ、その光景に呆然としてると後ろから喉元に冷たい刃を突き立てられ、前を向き直す男。
「………さてと……尋問の趣味はないけど……聞きたいことが…………ある」
脅すように切っ先を少し突き刺す、その痛みに怯えながら問い返す男。
「な、なんだよ……」
脅しの条件を整え、自身の疑問を問いかけるイヴ。
「……なんで貴方達はあの子を襲っていた?……ただ金持ちだから襲ったの?……………見たとこいいとこのお嬢様って感じだけど……」
イヴの疑問に少しの間沈黙するが、喋ったら殺されると考え、まず自身の生を約束させようとする男。
「………それを喋ったら………見逃してくれるか?」
男の命乞いに呆れながら返答し、最後の言葉に殺意を込めるイヴ。
「………貴方自分がそんな保証をもらえる立場だと思っているの?……別にどうしても知りたい情報ってわけでもない…………話さないなら即殺すだけ………」
慌てて制止を投げかける男。
「ま、待ってくれ!話す話す!」
面倒そうに眉をひそめながら囁くイヴ。
「……手短にね……」
話し始める男、ビビりながらもすらすら言っていく男。
「あいつを人質にとって、身代金を要求したりとか、奴隷にするのさ……」
男の説明に不愉快を示しながら続きを促すイヴ。
「身代金に奴隷か………」
助かりたい一心で自身の知ってる事情をありったけ話す男。
「ああ、あいつは狐の中でも純潔の亜人だからな、欲しいってやつはごまんといる、しかもこいつはそれだけじゃない、あの【七大罪強欲の罪マモン・オガリド】の封印の要らしい、あと一匹必要だが、こいつらをうまく使えばあの悪魔を復活させられる!!」
イヴは三度生まれた疑問を投げかける。
「……フーーンなるほどね……………でもここって……不可侵条約が結ばれてるんじゃないの?」
「そ、それは……」
「………こいつら盗賊だからな、そんなもん知ったこっちゃないさ、………だろ?」
俺が言いづらそうにしてる男の代弁をしてやる。
「あ、ああ!!そうだよ!!、話せることは全部話した!!早く解放しやがれ!!」
ヤケクソ気味に怒鳴りつつも生き残れる希望が入り混じった声で叫ぶ男。
そんな男に飄々と死刑宣告をする俺。
「サンキュー、じゃあ楽に殺してやるよ」
イヴから剣を奪い、神速の横薙ぎで首を両断する。
「へ?」
呆然と間抜けな顔を晒しながら胴体とお別れする男、嫌な音を立てながら地面に落下する。
「………….別に………私でも………殺せたよ……?」
「………なら俺が殺したって同じだろ?」
「…………まぁいいや………」
不機嫌そうに口を尖らせるイヴ…………出来る限り彼女の手を汚させたくないというのは、俺のこの感情は、この想いは、傲慢な罪にあたるのだろうか?。
「……さてと……あっちはもっと情報持ってるかな?」
殺人の狂気に浸ってもいなければ弱者をいたぶる事に狂喜もせず、ただ淡々と呟く俺。
尋問の標的はリーダ格の青年に変わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます