第16話 生贄の聖女
「聖女様、貴方にはパーティーに戻っていただきます」
「そ、それは……」
「………拒否すると言うのなら貴方の国への援助を断ち切ります、元々そういう契約でしょう」
「ッッッッッーー、」
「クククク」
「「………………」」
国王に問い詰められるクリス、ただ伏して聞くことしかできない俺とイヴ、その状況が痛快で仕方がないというアーロン。
このなんとも胸糞悪い事になった経緯を簡単に説明すると初クエストクリアから二週間、お互いの事を少しはわかってきてた、いつも通りクエストクリア報告をしてギルドを出たところ、騎士様たちに囲まれて何がなんだかわからないうちに国王の目の前まで連れてこられた。
そしてこれだ、まぁよく考えれば勇者パーティーメンバーが勝手に抜けられたら国民が不安になるので困るし、引き止めるための弱みも握ってればこうしてくるに決まってる。
…………それにしてもアーロンの奴、あれほどの暴言に暴行、捨て台詞まで吐いて逃げたのに国王に頼るとは…………大方、あの後やっぱりクリスが欲しくなってしまったのだろうな。
はぁ………どうしよう………ぶっちゃけ手詰まりだ……交渉しようにもなんの手札も持っていないから、誤魔化しようがない。
「………どうする……逃げる………?」
「そうしたいのはやまやまだが運良く万が一王都の外まで逃げられても周りの街や国に手配書が回るし結局彼女の国への援助はなくなるだろうから無意味だな」
「…………じゃあ………こいつら全員
「それ、さっきと似たような理由で却下」
「………どうしよう…………」
「………イヴって結構ドライな所あるから見捨てるって言い出さなかったのはちょっと意外」
「………『仲間』は絶対見捨てない………」
「………悪い、失礼なこと言っちまって謝るからあまり怒らないでくれ」
「………別に怒ってない………」
「……そうか、ならよかった」
伏したまま作戦会議するもロクな案が出てこない、思ったことを呟くもイヴを不快にさせてしまっただけだった。
「では改めて返事を聞かせていただきましょう」
「………わかりました……戻ります」
ウダウダ言ってる間にも話は纏まってしまった、なんともできない自分が嫌になる。
ーーーーーーーーー
「さて、お主達に用はない、帰って良いぞ」
「「………」」
「おいおい、ちょっと待ってくださいよ陛下!、そいつらは俺に武器を突きつけてきたんですよ!!死刑っしょ!」
「………なるほど、それは確かに許すわけにはいかんな」
「ちょっーー、ちょっと待ってください!!その人達は何も悪いことはしてません!」
「はぁー〜?俺を傷つけようとした時点で万死に値するだろうがーーと言いたい所だが超優しい俺はチャンスをやろう、クリス、お前の頼み方によっては考えなくもないかな〜」
「…………どうしろというのですか?」
「アーロン様の言うことに絶対服従の奴隷になりたいって土下座で頼みな!!」
「………そうすれば、彼らは見逃してくれる……と?」
「……ま、やりたくなきゃやらなくてもいいぜ、俺としてもどっちに転ぼうが楽しめるからなぁ〜」
「………わかり……ました………」
クリスはきつく歯を噛みしめ、一瞬俺たちの方をチラ見し諦めたように笑う、膝を降し、頭が下がろうとした瞬間、その声は響いた。
「…………やめて………」
「……イヴ………さん?」
「………私達は………組んだばかりの即席パーティーメンバーだ…………会ったばかりの………他人だ………貴方がそこまで…………する義理もないし………私も貴方を犠牲に………してまで生き残りたくなんか………ない………だから………やめて………お願い」
「……ああ、そうだ、俺達は赤の他人だ、あんたがそこまでする義理も義務も無い………やめてくれ」
彼女はつっかえながら、嗚咽を漏らしながら、涙を流しながら、その言葉を吐露する。
俺は自分でもびっくりするほど冷たく硬い氷のような声を出しながらアーロンを睨みつける、しかし奴はニヤニヤとした不愉快な笑みを見せつけるように顔に貼り付けている。
これ以上彼女を不利にしないために俺達は口裏を合わせる、事実、俺達は会ったばかりの赤の他人だ、こんな事を言われれば万が一にも見捨ててくれるかもしれない。
藁にもすがる思いで言うが、クリスは首を横に振る。
「………遅いか早いかの違いです……私は遠からず無理やり言うことを聞かせられるでしょう……どうせなら貴方達を救いたい…………それに………組んだばかりのパーティーメンバー、赤の他人だって言いますけど………貴方達はその『赤の他人』な私を救ってくれて………私の身を案じてパーティー組んでくれたじゃないですか」
「そ、それは、成り行きだ!!」
滅茶苦茶苦しい言い訳を言う俺。
「………今更赤の他人なんて言って自分達の身を返り見ない、お人好しの貴方達を見捨てられるわけないじゃ無いですか…………」
「………あんたの妄想だ………」
「それに………貴方達と一緒にいるのは楽しかったんですよ…………服を選んで着せたりするのはまるで妹ができたみたいで嬉しくて………報酬はいつもの何倍も少なく………敵も弱い………そんなやりがいも何もないクエストのはずが………セルリがふざけてイヴさんが冷静にツッコミを見てるとなんだかおかしくて……………私が今まで組んできたパーティーは………酷く事務的、かつ私の体をいやらしく観察される、そんな針の筵でした」
「………ふざけんなよ………なんでそんな今際の際みたいな言い方なんだよ………また一緒に行こう……な?」
震えた声で紡ぐ。
「………短い間でしたが、ありがとうございました」
彼女は満面の笑みで礼を言った後、アーロンへ向けて言葉を重ねた。
「アーロン様の命令に絶対服従します、貴方の奴隷にしてください」
額を地面に擦り付け、頼み込むクリス。
「………クソ………」
思わず顔を背ける俺と反対に彫像のように固まりその様子を凝視するイヴ、クリスに近づくアーロンの乾いた足音が鳴り響いた後、隣の彼女から不思議な言葉が聞こえてくる。
「え?………ま……さかーーー」
イヴの呟きの後、足音と酷似した、だが全く違う低い音が鳴り響く、俺はつい顔を戻した………戻してしまった。
「まぁ約束通り考えなくも無いぜ、聖女さん……ペッーー、ギャハハハ!!」
アーロンは足をクリスの頭に乗せ、チンピラそのものの言葉を言った後、彼女に唾を吐き爆笑する。
俺は一瞬で全身が頭が沸騰するような錯覚を覚えるもなんとか体を制御する………しかし隣のイヴは少し前に踏み込みながら詠唱を開始していた。
「
「………やめろイヴ………」
「………離して………」
突っ込もうとするイヴの肩を掴み、止めさせる。
「……言ったでしょ?……仲間は見捨てない」
「…………助けるのと………覚悟を踏みにじるのは……違う………今のお前の行動は……どっちだ?」
「それは………」
「………耐えろ……」
「………」
そうやって歯を噛み砕きそうなくらい力を込め、噛み締めイヴは耐える。
「おい、お前ら帰っていいぞ、俺の気分が変わる前に消えろ……今日は忙しくなりそうだからな」
俺達は王宮から追い出され、日はもう暮れていて夜空の星達が仲間を助けられない俺を責め立てるように光っていた。
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