第4話 vsオルトロス


「く、せ、先手必勝、『我の拳に火種の殴打!子竜火ノ粉拳ベビーナックル』!!!」




力強く踏み込み、火を纏った拳を相手の土手腹に叩き込む、俺の渾身の一撃だったが………




「「グルル?」」




何食わぬ顔で悠然と仁王立ちしている双頭地獄番犬オルトロス、燃えやすそうな胸毛は鋼鉄製の様な…………いやそれ以上の硬度だ。



その守りは貫通させるつもりで放った俺の拳を焦げ目すらつけず、体に触れることすら許さない。




「な、き、効いてねぇ」





ここでも俺は油断、今の自分なら大丈夫という過信で倒す為の一撃を放った。



普段だったら倒すにしても愚直に攻撃ではなく一手目は相手の体勢を崩す、もしくは様子見で二手目に本命の攻撃を出すはず、油断と動揺で生まれた致命的な隙を晒した自分の行動を後悔する。



しかし時すでに遅くその油断の代償を取り立てに双頭地獄番犬オルトロスは動き出す。





「「グルァァァァァァァ!!!」」




「ッッッッッーーー?!!!?」



今度はこっちの番と言わんばかりに吠える、凄まじい圧力の雄叫び、しかも双頭の名の通り二つの顎門から両耳に叩き込まれた。



悲鳴すら上げられずその場で体が硬直、見えない鎖で雁字搦めにされたような錯覚を覚える。





『我焼き刻む炎の凶刃!地獄炎爪ヘルイム・クロー!』



『ーーー!!、我紡ぐ子竜の鎧!子竜耐久強化ベビータンク!!』



あれほど頼もしく感じた俺の『子竜火ノ粉拳ベビーナックル』とは格が違うスキルを放つ双頭地獄番犬オルトロス



火ノ粉とは大違いの異様に巨大な黒い炎を纏わせた凶悪な爪で焼き刻まれる瞬間、俺は体が微動だにしないことから回避は諦め防御を固める。




「ッッッッッーーー!!!」



派手に吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる俺、いま俺の手札に唯一ある防御スキル『子竜耐久強化ベビータンク』を使っていたのに爪が触れたあたりの鎧は融解し肌が少し焼け爛れていた。



その事実を確認し戦慄する。



(………おいおい………バフかけててこれかよ、まともに食らったら一発で終わりじゃねぇか)



だが、悪いことばかりではない吹っ飛ばされたおかげで天井がそこそこ高く、何本か柱があるだけの広い空間へ移動できた。



さっきの狭い通路よりは戦いやすく、俺の取れる選択肢も広い。



「「ガルラァァァァァァァァ!!!!」」




思考の海に浸っていた俺を瞬時に現実に引き戻す双頭地獄番犬オルトロスの咆哮、流石にさっきよりは距離が離れていたので体を硬直させられることはなかった。




しかし絶対安心というわけでもない、まさしく電光石火の速さで刻一刻と迫ってくる。



(ーーーーまずい、攻撃力も防御力も負けてるのに速さまでーーと、とりあえず今優先的に発動しねぇといけないスキルはこいつだ!)




『我紡ぐ子竜の足袋!!子竜速度強化ベビーアクセル!!』



今の所、俺の最大火力の『子竜火ノ粉拳ベビーナックル』が歯が立たなかった……………通常攻撃は論外、『子竜攻撃強化ベビーパワード』を使った状態でどれだけ威力が上がるか完全に未知数、もしまた効かなかった場合、今度こそ焼き刻まれること確実、雑なサイコロカットされ子竜サイコロステーキの出来上がり。




だったらいまは速度を上げた方がいい、幸い『子竜耐久強化ベビータンク』は使ったばかりなので防御力は上がっている、攻撃を避けきれなかった場合でも多少は耐えられるはずだ。



「「グガァァ!!」」



俺が『子竜速度強化ベビーアクセル』を発動した一瞬後に双頭地獄番犬オルトロスはもう目の前まで来ていた。



全力疾走で生まれた運動量を無駄にせずタックルするように左の顎門で噛みつこうとする双頭地獄番犬オルトロス



冗談ではない、まともに食らったら歯型どころか肉を骨ごと持っていかれそうなほど強大な顎門。



俺は自身に出せる最大速度で右に飛んで避ける、今度は右の顎門を追い込み漁の如く大口を開けて迫ってくる。




しかし俺も馬鹿ではないそうくると読んでいた、ジャンプ中に体を回し回避、そのまま遠心力を思いっきり乗せた短い尻尾で相手の鼻っ面を横からクロスカウンターのようにぶん殴る、振り抜き力の方向に逆らわず地面に転がりつつも立ち上がり態勢を立て直す。




子竜尻尾鞭ベイルウィップを閃きました』






頭にファンファーレと共にスキル認定された俺の新技。




攻撃するつもりだったのに逆にぶん殴られるとは予想外、さらにスキルではない通常攻撃とはいえカウンターを合わせられ2倍の威力になった尻尾の一撃を急所の一つ、頭に喰らった双頭地獄番犬オルトロス



流石に効いたようだ、焦点の定まっていない目、頭をフラつかせている、脳震盪でも起こしているのか?



この戦闘が始まって見つけた最初の勝機、しかし左首は油断なく俺を見ていておいそれと攻める事はできない。



(チッ、ならーー!)



『我紡ぐ子竜の斧!!子竜攻撃強化ベビーパワード!!!』





隙がなかった為、後回しにした子竜攻撃強化ベビーパワードを発動。



出来れば今の隙をついて勝ちたかったが右首も程なくして復活する、しかし今の攻撃は無駄ではない、値千金の情報は獲得。



胴体は硬いが防御の薄い頭、急所ならばスキル認定前の通常攻撃ですら一瞬だが怯ませることに成功した。




通常攻撃が工夫次第で効くという事は俺の最大火力の『子竜火ノ粉拳ベビーナックル』を『子竜攻撃強化ベビーパワード』状態で相手の急所にぶち込めれば確実に大ダメージを与えられる。



勝利への道を見つけ口元をにやけさせるもすぐに気合を締め直す。



(………何勝機の一つ二つ見つけた程度で笑ってるんだ、さっき油断でやられそうになったのをもう忘れたか?、相手を倒すその瞬間まで気は抜くな!)


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