第9話 映画みたいなお話(前編)

「え、そんなことでいいの?」

と私の突飛な返事は予想外だったらしい。

驚きもあったが、なぜだか一瞬表情が曇ったようにも見えた。


な、なにか聞いちゃいけないことだったのかな?

やっぱりあんまり仲がいいわけでもない奴に弱みを握られるようなのが嫌だったとか?


「あ、別に答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど……。」

と私が言いかけたとき今日2度めの雨の香りがした。それもけっこうすぐ降りそうな雨な気がした。


今の空は曇ってはいるが、ところどころに青空が見えるような明るい天気だ。強いて言うなら昼の入道雲が少し近くなったような気もするけれど、到底すぐに雨が降るようには思えない。


しかし、その直後窓から湿った風が吹いてきた。

なんだか溶けた綿菓子みたいにべとべとしそうな気持ちの悪い風が。


――そう。まるであの日と同じような嫌な風だった。


そして、急に空が暗くなってきたかと思ったら、

ぽつりぽつりと雨が降り出した。



「変な雨。しかもなんか嫌な気持ちになる風だし。」

うーん、と考え事をするアヤノくんをまじまじと見るのもなんだか気まずいような気がして窓の外を眺めながら私はぼそりと呟いた。




――少ししてアヤノくんは何かを決心したような顔をして話し始めた。

「別に、話したくないってわけでは無いんだ。意外な答えだったからびっくりしたのと、ただなんて説明したらいいのかなって考えてただけだから。

オレの能力はさっきも言ったように『3分だけ過去に戻る能力』なんだ。言葉の通り『3分』過去の自分に戻る能力。パターンは2つあるんだ。

1つ目は『今』から3分間前の時間の自分に戻れること。イメージこんなかんじかな。」

と言って黒板に何かを書き始めた。

   『今(15時45分)』→3分前→『15時42分』 


   『15時42分』→時間が進む→『今(15時45分)』


「例えば今は15時45分ぐらいだから42分頃のオレに戻る。そしてそのまま時間が進んでいく。」


 難しいけどなんとかわかったような気がする。  

「ねぇ、ちなみになんだけどその上の方の『今』と下の段の『今』っていうのは同じなの?」

ちょっと気になって聞いてみた。


「うーん。

 多分両方『今』っていう現実には変わらないんだと思うんだよね。ただ、オレは時空理論とかの学者じゃないからなんともわからないんだけど、厳密にはきっと同じようで違うんだよね。ほら能力者の『共通条件』的なものに『能力は何かの能力を有するもののみ認識することが可能』ってのがあるじゃん?


 今回の月島さんを巻き込んでしまった件みたいに、月島さんもなんかの能力を持っているわけだからオレが過去に戻る前の購買での記憶があって、オレが月島さんの過去に干渉しちゃったわけだから記憶はあるのに『今』になった時間、つまり3分戻ったときからスタートしてる時間には『買い物をした』っていう事実が少しかわってしまったんだ。


っていう返事で伝わったのかな?」


わぉ。

「能力」って超ファンシーな雰囲気あるのに論理的に解説されちゃった気分。


とりあえず私は続きが聞きたくてこくりとうなずいた。

「2つ目はどんなの?」


「オッケー。2つ目のパターンは――。」

なんだかアヤノくんの話し方って学校の先生みたいな雰囲気あるんだよなぁ。でも不思議と授業を受けるよりもわかりやすい解説みたいだなぁ…なんて。

そう考えながら気がつくと私はわくわくしながら話を聞いていた。

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