第10話 We Shall Overcome
俺は生徒だが、武器の開発者でもある。
設計図を基にベレッタ、カラシニコフ、そして、AK-47の大量開発を指示する。
本当は、M16を作りたかったのだが、最貧国である、この国の技術力を考慮したら、
・使い易い
・故障し難い
という長所に注目し、採用したのだ。
その結果、国内にどんどんAK-47の生産工場が建設され、一気に国軍に配備されていく。
アビシニア王国の不穏な動きを、フランツは苦々しく見ていた。
(糞。あんな小国に我が軍が惨敗するとは)
敗因は、
・謎の電波攻撃?
・国境地帯に埋められていた爆発物
だ。
死者数自体は、数百人なのだが、初めての攻撃に帝国軍は動揺し、一気に総崩れ。
今では、『アビシニア恐怖症』と言っても良いくらい、帝国の権威は失墜している。
「陛下」
情報大臣が来た。
「アビシニアの騎士団長が、戦争に大きく関わっている様です」
「騎士団長?」
「はい」
情報大臣が、絵師が描いた肖像画を見せる。
・黒髪
・直毛
・痩躯
の少年だった。
「! この者が?」
「はい」
「……」
俄かに信じ難い話だ。
然し、情報大臣は、真面目な表情を崩さない。
「……もう少し調べろ」
「は」
侵攻した以上、叩き潰さねば、クラコウジア帝国は、諸国に軽視される。
その為にも、何としても再び侵攻の時機を図る必要があった。
(この者が、鍵ならば、最初から殺さなければならないな。同胞であれば、助命はするのだが)
つくづく優秀性を惜しむのであった。
結論から言うと、それから5年間、クラコウジア帝国は、侵攻出来なかった。
兵士達の兵役拒否や脱走が相次ぎ、その度に徴兵した為、遠征するほどの手間暇をかけることができなかったのだ。
そして、アビシニア恐怖症が和らいだ5年、遂に攻撃の準備が整った。
フランツが、直々に煽る。
「よいか? 敵国は、我が国の一部でありながら、独立を画策する分裂主義者になった。我が国の血税でのうのうと暮らしておきながら、何たる不敬。これこそ大恩を仇で返す所業である」
「「「……」」」
10万人の軍隊は、傾聴している。
その多くが、配置転換や退役等で、5年前の出来事を知らない者達だ。
「徹底的に奪い尽くせ! 焼き尽くせ! 食らい尽くせ! アビシニアを原始時代に戻すのだ」
「「「応!」」」
10万人もの野太い声は、アビシニア王国にも伝わっていた。
15歳にまで成長していた俺は、フェンリルの膝に置き、その頭を撫でつつ、考える。
若し、フェンリルが猫ならば、俺達は、某スパイ映画の悪役の様に見えているだろう。
20歳のアビーは、従軍僧兼副官だ。
5年間でアビシニア王国は、様変わりした。
それまで平和を愛する国民であったが、民族主義が根付き、愛国心の高まりから、一気に武装化。
イスラエルの様に国民皆兵になったのだ。
「平和国家だったんだけどね?」
「ああ……」
アビーは、戦争のことなど、考えず、悠々自適な前の国が好きだった。
多くの国民も、俺も同じだ。
然し、侵略されるのは、御免だ。
ここで引けば、奴隷にされてしまうことは目に見えている。
10万と戦う我が軍は、3千。
これでも無理した方だ。
本当は、5万人は動員出来たのだが、クラコウジア帝国対策に投入し過ぎると、人手不足になった国境線に、他国が侵攻してくる可能性がある。
下手すると、他国が、クラコウジア帝国と裏で繋がっていることも考えられるのだ。
ナチスが、ポーランドに侵攻した際、ソ連も又、反対側から侵攻し、ポーランドが分割されてしまった例もある。
部屋には、ソフィア(23)、アリア(10)の姉妹も居る。
アリアは、戦時下というのを理解していないらしく、ずーっと、フェンリルの頭を撫でている。
舐められても、バニラの香りなので、むしろ積極的に舐められにいっている。
ソフィアが心配そうに問う。
初めて会った時は、高校生感が否めなかったが、もう社会人だ。
非常に凛々しくなっている。
「レオン、勝てそうか?」
「勝ちます」
頼みの綱の結界は、フェンリルの疲労を考慮し、3年前に廃止した。
以降、2年間は、地雷とトラウマの記憶だけで防げていたのだ。
高塔の守備兵が、激しく鐘を鳴らす。
攻めて来た、という合図である。
「殿下、ここに居て下さい」
「うむ」
「れおん、いっちゃうの?」
まだ分かっていないアリアは、首を傾げた。
余り心配をかけたくない俺は、努めて笑顔で答える。
「ちょっと所用で出かけてきます。アビー、御二人を頼む」
「うん……」
アビーも心配そうだ。
行かせたくない―――そんな表情であった。
「大丈夫。帰って来るよ」
落ち着かせる為に額にキスをする。
「……うん」
「じゃあ、行って来るよ」
フェンリルも膝から降り、人間化。
「では、行って参ります」
そして、俺の膝に絡まりつつ、出て行くのであった。
「ねぇ、アビー」
「は」
ソフィア―――私が、尋ねる。
「あの神獣は、彼に恋を?」
「そうみたいです」
アビーが、唇を噛んで答えた。
彼女も又、好きなのだろう。
「あびー、ないてる?」
「も、もうしわけございません―――」
「おなかいたい? いいこいいこ」
アリアが、頭を撫でる。
年甲斐も無く、泣いている。
素直に好意を曝け出し、泣くのは、羨ましいことだ。
(私も素直になれるかしら)
最初こそ何も思わなかったが、青年に成長していく彼に私も徐々に惹かれていた。
我儘なアリアに優しく、一緒に遊ぶなど、子供好きなのもその理由の一つだろう。
1番、惹かれた理由は、その筋肉質な体だ。
軍人の中で誰よりも体を鍛え上げている。
一度、半裸で指立て伏せを行っていたが、彫刻級の肉体美であった。
着痩せするタイプなのか、普段の軍服からは、分からない。
そのギャップで惚れたのだろう。
又、10歳以前の経歴が分からないミステリアスさも良い。
同性の王族や貴族でも、人気者だ。
恐らく、私の様に恋心を抱く者も多いだろう。
「あねうえ?」
「うん?」
「あねうえもかなしい?」
「うん」
アリアに見付かってしまった様だ。
彼女に頭を撫でられる。
もしかしたら、妹も惚れているのかもしれない。
(若し、レオンがその気ならば、どうかな?)
アリアに撫でられつつ、レオンを想うのであった。
「へっくしょん」
「風邪?」
「みたいだね」
俺は、鼻水を啜りつつ、戦場に居た。
オーブリーが、ロシア帽を被せてくれる。
優しくて涙が出そうだ。
10万もの軍勢が、国境に近付いている。
「大将、どうしますか?」
部下が尋ねた。
俺は、双眼鏡で覗きつつ、
「3時の方角に大砲、用意」
「は」
「越境する15秒前に砲撃開始」
「は」
時間差なのは、帝国軍が、越境した瞬間に着弾出来る様に計算した為だ。
「あと、投石機に腐乱死体を乗せろ」
「え?」
「疫病を蔓延させるんだ」
相手に病を蔓延させるのは、友好的な手段だ。
古くは、元寇に遭った鎌倉幕府が、モンゴル帝国軍の船に動物の腐乱死体を投げ込んだ。
アメリカ大陸でも、白人は、先住民に対し、天然痘入りの毛布を贈り、その数を激減させた。
「は」
死体安置所から沢山の腐乱死体が運ばれ、投石機に載せられていく。
暫くすると、帝国軍が、レッド・ラインを越えた。
開戦の合図だ。
俺は、拳を高く掲げて、叫ぶ。
「全軍、攻撃開始!」
10万人の大突撃だ。
草原を踏み鳴らし、雄叫びが上がる。
「「「「
と。
俺達も、叫び返す。
「「「
と。
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