第7話 三銃士

 アビシニア王国騎士団は、前世での世界で言えば、準軍事組織に当たる軍隊だ。

 その構成員は、1千人。

 300万人、という総人口から考えると、結構な大部隊だろう。

 俺は、そのトップになった。

 僅か10歳で。

「「「……」」」

 1千人の眼球、合わせて2千個が俺に注がれる。

 品定めする様な目。

 嫉妬心。

 興味津々。

 ……色んな感情だ。

 尤も、9割は、嫉妬心だが。

 ソフィアが説明する。

「今回、騎士団長に就任したジョーですわ。以後、宜しく」

「「「……」」」

 ソフィアへの忠誠心はある様で、彼女へは、その様な視線は向かない。

 悪く言えば、SS並の部隊といえよう。

 古参の兵が、尋ねる。

「殿下、この者の実力が見たいのですが」

「ジョー。出来ます?」

「はい」

 嫌だが、目を付けられた以上、逃げる事は出来ない。

「はい。では、あの鳩を撃ちましょう」

 空に飛び交う鳩にカラシニコフ狙撃銃を向ける。

 平和の象徴のイメージがある、鳩だが、実際には、鳥害を起こす嫌われ者でもある。

『【病原菌】

 鳩は食欲が旺盛である為、排泄量も多く、鳩の糞は病気や寄生虫をうつす可能性がある。

 長時間放置すると洗浄が困難で、金属に付着すると腐食を促進してしまう。

 又、羽毛でアレルギー症状が出る事もあるので十分注意が必要だ。

[サルモネラ食中毒]

 集団食中毒の多くが、サルモネラ菌によって起こる。

 この菌は鼠の排泄物によって媒介されるのだが、鳩の約2%がこの菌を保有しその糞からサルモネラ食中毒が起こっている。

[脳炎]

 鳩も脳炎ヴィールスを保有することがあり、コガタアカイエカの媒介によって人に感染する。

・高熱

・頭痛

・嘔吐

 があり、2~3日後に、

・意識混濁

・痙攣

 等が起こる。

 感染者の20%は、治っても手足の麻痺や知能障害等の後遺症が残る。

[アレルギー]

 羽毛や乾燥フン末により、喘息発作を伴う重いアレルギー症状を起こすことがある。

 又、伝書鳩の飼育者の中には末梢ガス交換組織を侵す肺疾患が発生することがある。

 これは、鳩の排泄物中の抗原を吸入することによって引き起こされる。

[オウム病(ピジョン、オーニソージス)]

オウム病は従来トリ類に感染する疾病であり、トリと人との接触により人間に感染することがあり、これはウイルスによって起こり、軽症のものは風邪と似た程度だが、重くなると肺炎の様に症状に。

 鳩の糞や呼気沫に含まれるウイルスによって感染され、鳩の30~75%がこのウイルスを持っているとされる。

 鳩に接触する機会の多い寺の職員のオウム病交代保有調査で18%が陽性であった。

[クリプトコッカス症]

 クリプトコッカス(クリプトコックス)と呼ばれる菌が感染することにより起きる病気。

 クリプトコッカスとは、Cryptococus neoformansという真菌症の一種で、これに人が感染すると軽症の場合は皮膚炎程度、重傷になると脳、脳脊髄膜に病巣を作り死を伴うことも。

 ドバトの排泄物の中からも分離され、乾燥した排泄物や埃等と一緒に人体に呼吸され発病する。

 この菌は乾燥に強く、2年以上も菌が生存するといわれている。

 多くは、体力や抵抗力が落ちた時か、体力を消耗する病気の二次感染として起こる。

[ニューカッスル病]

 鳩を含む多くの鳥がこの菌を持ち、呼気沫や外部寄生虫の媒介によって発病する。

 鶏のニューカッスル病は野鳥がウイルスを運ぶ為とも。

 人間に感染すると急性類粒結膜炎が一般的な症状として知られている。

[トキソプラズマ症]

 Toxoplasma gondiiという原虫が原因で起こる。

 妊婦がこの原虫の胎盤感染を受けると流産し、また出産しても産まれた子供に脳障害を生じることが多い。

[ヒストプラズマ症]

 Histoplasma casulatarum というカビの一種により発病し、肺結核に似た症状を起こす。

 このカビは鳩の糞に空気中の胞子が落ち、

・温度

・湿度

 等の条件が揃うと急に増殖し、これに人間が触れると感染する。

【寄生虫】

 鳩の外部寄生虫の中には人体を刺咬するものがあり、人間の生活環境近くに侵入してきた場合、その被害が発生する可能性が十分に考えられる。

 主要なものは所謂、ダニ類と昆虫類がある。

[ダニ類]

・ワクモ

・トリサシダニ

・トリヒゼンダニ

・ハトウモウダニ

・ハトヒナイダニ

・ハトウジュイダニ

・ハトヒメダニ

[昆虫類]

・ハトトコジラミ

・トリノミ

・ハトナガジラ

 トリサシダニ:全世界の温帯に分布し、家畜、野鳥を吸血するが、人を刺す事も。

        例:皮膚炎等

 ワクモ   :昼間は鶏舎の壁等に潜伏し、主として夜間、鶏を襲う。

        鳩にも寄生し、人も吸血されるが、この場合寄生は一過性。

        →セントルイス脳炎を媒介。

 ウモウダニ :鳥類の羽毛にたかり、羽毛や毛皮のくずを食べて生活。

 ヒメダニ  :鳩に寄生し、人を襲う例は少ない。

 ヒナイダニ :鳩の皮肉や、羽毛の中に胞を作って寄生する』

(引用元:鳥害対策機器メーカー 株式会社アンテック HP 一部改定)

 なので、アビシニア王国の国民からは、嫌われていた。

 見慣れない狙撃銃に、ソフィアや騎士団は、どよめく。

「何だ、あれ?」

「大砲か?」

「いや、弓の改造版じゃないか?」

 この世界には、銃が存在しない。

 遠距離攻撃は、専ら弓が主役だからだ。

「……」

 目を閉じて、片手で十字を切る。

 そして、例の言葉を呟く。

『我が岩なる主はほむべきかな。

 主は、戦することを我が手に教え、戦うことを我が指に教えられます。

 主は我が岩、我が城、我が高き櫓、我が救主、我が盾、我が寄り頼む者です。

 主は諸々の民を己に従わせられます』

 鳩に恨みは無いが、被害が出ている以上、間引きしないといけないだろう。

 幸運なのは、この世界に動物愛護団体が居ないことだ。

 思う存分、鳥害対策することが出来る。

 ……撃つ。

 数秒後、空中を旋回していた鳩は、被弾し、墜落した。

「「「!」」」

 鳩は頭を無くしていた。

 論より証拠。

 二刀流を宣言していた新人野球選手が、外野の非難を物ともせず、その評価を覆した様に。

 実力を披露しなければ、その人個人の評価は、「口だけ」になる。

「ジョー、すっごい!」

 アビーが抱き着いてきた。

 オーブリーも拍手喝采だ。

「凄いな。一撃必殺だ」

「有難う」

 2人から熱烈なキスを浴びつつ、俺は、ソフィアを見た。

「……見事だ」

「有難う御座います」

 俺は、弾を抜いて、跪く。

 装填したままだと、不敬っぽいから。

 ソフィアは、気にし無さそうだが、念の為。

「知っての通り、この国の近代化が遅れている」

「はい」

「だから、近代化を急ぎたい。貴君には、期待しているよ」

「有難う御座います」

 ソフィアが、膝をついて、俺の額にキスをする。

「!」

 目を見開くと、ソフィアが囁いた。

「(この国の文化よ。他意は無いわ)」

 この手の事は、部下が、主君の手の甲にキスをする場合が多いと思うが、この国では、主君が部下の額にする様だ。

 俺の額には、口紅が付着していると思われる。

 こうして、俺達の山暮らしは、終わるのであった。

 

 俺の団長就任に伴い、アビー、オーブリーも又、騎士団に入った。

 アビーは、従軍僧。

 オーブリーは、副団長だ。

 2人(1人と1頭?)の人事は、縁故主義に見えるが、2人は不正を犯すほど愚か者ではない。

 団長就任式翌日、俺達は、洞窟を引き払い、王宮に引っ越すのであった。

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