第4話 Abyssinia Crisis

 アビシニア王国は、人口300万人。

 主な産業は、農業で国土の大半は、自然の発展途上国だ。

 国家元首は、国王だが、国民と変わらない生活を送っている。

 内政は、自前だが、余りにも小国の為、

・外交

・国防

 は、隣国のクラコウジア帝国が担っている。

 前世の世界では、自由連合盟約の下、アメリカは、

・マーシャル諸島

・ミクロネシア連邦

・パラオ共和国

 の国防と外交を全面的、或いは制限付きだが、担当している。

 ただ、それらを他国に任せた状態が果たして主権国家と言えるのか? という意見もある事は否定出来ない。

 俺も懐疑派の意見は、分からないではない。

 重要な事を他国に任せた国を、主権国家と見る事は難しいだろう。

 一人前になった時が、主権国家としての歴史の1P目ではなかろうか。

「……あれは?」

『帝国のパレードだよ』

「王国の中でやるの?」

『威圧だよ。「変な気は起こすなよ」って』

 俺、アビー、フェンリルは、山小屋から眺めていた。

 麓の街の大通りでは、弓兵、剣士、槍騎兵が、ガチョウ足行進していた。

 よくもまぁ、あれだけ足が上がるものだ。

 王国の人々は、皆、土下座して見送っている。

 日本のドラマで観た「下に~下に~」というやつだ。

「あれって若し見上げたら如何なるの?」

『斬られる』

「何で?」

『不敬だから』

「帝国の軍隊は、王族なのか?」

『いや。それくらい問題あるってことさ』

「……」

 言い方から察するに、フェンリルも、帝国に好印象を抱いている訳ではなさそうだ。

 御輿に乗った少年が、民を見下していた。

 京都の舞妓の様な白塗りに歯は墨でも塗っているのだろうか。

 真っ黒だ。

 それでいて太っている。

 その脂肪は遠目からも分かるにシャツが膨張している。

 髪型は角刈りで清潔感はあるものの、格好良くはない。

「あれは?」

『ジョージ王子。見ての通り、無能だよ』

「……」

 言い方悪いが、確かに無能っぽい。

 俺やアビーよりも長生きなフェンリルが、こうも断言するのだ。

 若しかしたら、俺の予想を遥かに超える無能なのかもしれない。

「あ」

 アビーが何かに気付いた。

 目を凝らして見ると、5歳くらいの女の子が、迷子の様で、大通りに出てしまった。

「……?」

 女の子は、縫い包みを抱き抱えて、軍隊を目の前にしても、慌てない。

 それ所か、自分に近付いている彼等を興味深く見詰めている。

 大人達は、誰も気付かない。

 下を見ている為、仕方の無い事だ。

 若しかしたら、あの子も彼等と一緒に平服していたのだが、飽きてしまい、大通りに来たのかもしれない。

『ヤバいな』

 フェンリルが、舌打ちした。

 狼の舌打ちを初めて聞いた感動の次に気付いたのは、女の子に、軍刀を持った男達が、接近している事だ。

 数は3。

 全員、モヒカンの上に頭に刺青を入れている。

 クラコウジア帝国の文化なのかもしれないが、御世辞にも綺麗とは言い難い。

 俺も前世でが、刺青には、入れなかった。

 体に異物を入れのは、医療行為以外で行うのが、理解出来なかったからだ。

 又、デザインとしても格好良いと思った事もない。

『主君よ。若し、可能だったら、以前、作った銃の試し打ちをしてみたら如何かな?』

「……そうだな」

 フェンリルの意図を汲み取った俺は、風呂敷に包んでおいた、ベレッタM92と、最新作のドラグノフ狙撃銃を取り出す。

 ベレッタが出来た事で気を良くした俺は、ドラグノフ狙撃銃の設計図も書いてみたら、あっという間に地元の職人が作ってくれた。

 口止めはしている為、職人の技術が広がっている事はないが、俺の中では、職人は、鉄砲鍛冶ガンスミスだ。

 いつか御礼に行かないといけない。

 引き金に指を当てる。

 すると、ドラグノフ狙撃銃は、俺を認識して、勝手に安全装置が外れた。

 ベレッタの時もそうだが、俺は、第三者に盗まれた時、悪用されない様、指紋認証を施している。

 だから、この二つは、俺以外の人間には、ただの鉄屑だ。

「良いな。ジョーばっかり」

「何時か姉さんにも作ってあげるよ」

「本当?」

 目を輝かせるアビー。

 可愛いな。

 俺は、和みつつ、指示を出す。

「大きな音が出るから耳を塞いでくれ」

「そんなに大きいの?」

『分かった』

 フェンリルが。アビーを抱き締めて、その両耳を前足で塞ぐ。

「? フェンリルは良いの?」

『使い魔如きに配慮するな。我は、神獣ぞ?』

「分かったよ」

 俺は、苦笑いしつつ、フェンリルの頭を撫でる。

「くうん♡」

 アビー以上に可愛い神獣ってどうよ。

 

 急いで、この山1番の大木に上ると、俺は、最上段の枝の上に立ち、目標を定める。

 スコープ越しの女の子は、3人の男達に囲まれ、今にも斬られそうであった。

 王子を見ると、止める様子は無い。

 それ所か。「早くしろ」と目で指示している。

 という訳で、同罪だ。

 俺は、久し振りの狙撃に震えていた。

 怖いのではない。

 緊張している訳でもない。

 久々に銃で人を撃てるのだから、テンションが高いのだ。

 軍人になったのも「人を合法的に撃てるから」入隊した俺は、サイコパスかそれに準ずる犯罪傾向の人間だったのかもしれない。

(クリスチャンが殺人とはな)

 苦笑いしつつ、胸の前で十字を切る。

 戦闘前でよくしていた事の癖だ。

 前世での癖がこうも簡単にするのだから、転生しても体が覚えている証拠だろう。

 聖書の一節を呟く。

『我が岩なる主はほむべきかな。

 主は、戦することを我が手に教え、戦うことを我が指に教えられます。

 主は我が岩、我が城、我が高き櫓、我が救主、我が盾、我が寄り頼む者です。

 主は諸々の民を己に従わせられます』

(引用元:詩篇 144:1-2 一部改定)

 俺が狂わなかったのは、撃つ前にこうして精神を落ち着かせていたからかもしれない。

 教会に行かなくなったものの、こういう所はまだ宗教に頼り―――否、救われているのかもしれない。

 狙いを定め、引き金を引く。

 7.62x54mmR弾は、約300m先の麓へ飛ぶ。

 俺が最初に標的に選んだのは、男達―――ではなく、王子であった。

「!」

 一閃。

 綺麗に米神を撃ち抜かれ、王子は、脳味噌をばら撒きつつ、斃れる。

「「「……」」」

 何が起きたのか、民衆は分からない。

 銃声に気付き、顔を上げると、王子が死んでいた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 民衆は、混乱し、逃げ惑う。

 軍人達も意味が分からない。

 慌てて、臨戦態勢には入るが、狙撃手が何処に居るのかも分からない為、意味が無い。

 先程の男達も珍紛漢紛だ。

「糞!」

 行き当たりばったりで、逃げ惑う民に刀を振り上げる。

 が、次の瞬間、手首が吹っ飛んだ。

「……え?」

 一瞬にして手首が消え失せ、男は戸惑う。

 続いて、激痛と共に噴水の様に血しぶきが上がる。

「ひゃっは!」

 俺は興奮して、今度は違う男の足首を撃つ。

「ぎゃああ!」

 足首が吹っ飛び、男は千切れたミミズの様に悶える。

 現場は、大混乱だ。

 最後に残った男は、

「……」

 へたり込み、俺に気付いたのか、俺の方向に向けて、土下座した。

 一応、木の葉や森林で分からなくなっている筈だが、気付かれたのならば、尚更、生かしてはおけない。

(どう殺そうかな)

 先に撃った2人は、失血死したのか、もう動かない。

 可哀想に。

 誰がこんなことを。

 まぁ、俺だけど。

「……」

 男は、狙撃が無い事に安堵したのか、顔を上げる。

 それが、狙い目であった。

「グッバイ、ルーズボーイ」

 嗤って、万感の想いを込めて、引き金を引く。

 直後、男の下腹部が破裂した。

「! ぎゃああああああああああああああああああああああ!」

 男として最大の屈辱であろう。

 のた打ち回り、大通りを赤く染めていく。

 軍隊は既に撤退し、民衆も居ない。

 大通りには、王子と2人の死体。

 そして、最後の男だけだ。

 俺は、自分で作ったバラクラバを被り、下山。

 そして、男の前に立つ。

「……な?」

 狙撃銃を背負った余りにも小さな子供に、男は悶える事を忘れた。

 俺は、笑顔で、男の口に銃口を突っ込む。

「ば!?」

「御免ね。おじちゃん。口の中、見たいんだ」


 残っていた弾を全部、撃った後、俺は、王子の死体の下へ。

 あーあ。

 誰も引き取り手が無いのか。

 残念な王子だな。

 戦利品として、王子の冠と刀を貰う。

 恩賜の刀だ。

 これで、俺も忠臣だ。

 冠は、幾らで売れるだろうか。

 足がつかない様に、刻印等、王子の情報は消さないとな。

 地面が揺れる。

 見ると、遠くの方で、騎馬兵がこちらに近付いていた。

 死体の回収に来たのだろう。

 他の男達は知らんが、腐っても王子は王子だ。

 野晒しにするのはまずい、という判断であろう。

 俺は、そこで思い直し、冠だけ死体に被せる。

 そして、刀だけ奪って撤退するのであった。


『あの王子は、以前から、問題のある人間であった。クラコウジア帝国は、これで一安心だろう』

「廃嫡すりゃあよかったのに」

『そうしたいが、自分の手は汚したくないんだよ。帝国は』

「勝手だねぇ」

 フランスも自分の国の人間の手を汚したくない為に外人部隊を創っている。

 イスラム過激派も、未来ある若者を洗脳し、テロリストに仕立て上げ、幹部自らが手を汚す事は少ない。

 結局、人間は、自分が1番可愛いのだ。

「ジョー、この刀、如何するの?」

 アビーは、王子の刀を抜いて、その刀身を眺めている。

「要るならあげるよ」

「え? 良いの?」

「うん」

「やった。有難う!」

 俺を抱き締めて、頬にキスの嵐。

 生まれて初めての俺からのプレゼントだ。

 その様にテンション高くなるのだろう。

「包丁に使おうかな?」

 王子の刀が包丁に。

 物の価値観を知らない、野生児だから、刀と包丁の違いも分からないのだろう。

 まぁ、否定はしない。

 俺も野生児だったら、知らないだろうから。

 早速、刀を持ってアビーは、台所に行く。

『折角の戦利品を包丁にさせて良いのか?』

「良いよ。元々、自分で使う気は無かったし」

『主君は、慈悲深いな?』

「そうかな?」

『そうだ』

 フェンリルは、俺の頬を舐める。

 バニラの香り。

 如何すれば体臭になるかな?

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