第2話 マジ卍
日本では、例が無いが、海外では、野生児は多数確認されている。
『[バーライチの例]
1843年頃、インドのバーライチで、騎兵によって、2匹の狼と一緒に川の水を飲んでいた10歳位の少年が保護された。
激しく抵抗し、騎兵に噛み付いた。
3ヶ月ボンディ村の酋長の所に預けられた、少年は繋がれたが何度も脱走した。
その後、見世物師の所で6ヶ月過ごした。
それから商人の召使いの子が、少年の世話をする事になった。
少年は四つ足で這っていたが、木に縛られて油で関節をこすったり叩いたりして、2週間位で直立歩行出来る様になった。
最初は生肉しか食べなかったが、次第に米食に慣れていった。
4ヶ月後身振りで意思疎通出来る位になったが、優しくしてくれる少女の名前以外何も口をきかなかった。
やがて少年の元に狼の子が何匹か遊びに来る様になった。
彼等は少年に慣れている様だった。
5、6年前に狼に攫われた自分の息子であると主張する婦人が名乗りを上げたが、少年は脱走して行方不明となった後だった。
[フザンプールの例]
1843年、インドのフザンプールにやってきた狼少年。
首長による証言によると、少年は明らかに狼に攫われた子供で、発見当時12歳位に見え、真っ黒で、体毛が生えていたが、塩味の物を食べて体毛が薄くなった。
直立歩行出来たが、話せなかった。
調理した肉でも生肉でも食べられた。
両親が名乗りを上げて連れて帰った。
[スルタンプールの例]
1847年、インドのスルタンプール近くのチャンドールで、騎兵に発見された少年。
発見当時、少年は、狼と3匹の狼の子と共に川水を飲んでいた。
捕獲の際、大暴れした。
少年は犬の様に腹這いで生肉を食した。
食事中は誰も近づけなかったが犬と一緒に食べる事は許した。
服を身につけさせなかった。
言葉を理解せず関心を示さなかった。
何か欲しい時は身振りで表現した。
大佐の所へ連れて行かれてからとても大人しくなった。
2年程、大佐の部下と一緒に暮らしてから死亡した。
死亡する直前に頭に手をおいて「痛い」と発音して水を求めた。
[スルタンプールの例 その2]
1860年、狼の穴から捕獲されてスルタンプールの行政副官によって警察に連れてこられた4~5歳の少年。
発見当時、唸るだけで話せず、犬の様な恰好でしゃがんだ。
調理したものを嫌って生肉だけ食べた。
大人しくなってから就学し、警察で働く事になった。
[ダイナ・サニチャーの例]
1867年、インドのブランドシャールの森で、四つ足で移動している5~6歳の少年が発見され、管轄の長官によって狼と一緒に隠れていた穴から、燻し出されて保護された。
少年はサニチャーと命名されてシカンドラ孤児院で教育された。
発見当時四つん這いだったが、まもなく直立で歩行可能となった。
怒りや喜びの表現は出来、仕事も幾らか出来る様になった。
25歳になっても話せなかった。
1894年頃死亡(孤児院において、生育記録や写真が販売されている)。
[シカンドラの例]
1872年、インドのメインプリ近くで、18歳位の少年が、ヒンズー教徒によって発見された。
少年は狼の穴から煙で燻り出された。
発見当時四つんばいで移動し、骨や生肉を好み、犬の様な飲み方をした。
耳が聞こえず口もきけなかった。
少年はシカンドラ孤児院に連行され、数ヶ月後死亡した。
[エタバーの例]
1895年、インドのエタバー近くの狼の穴から農夫によって保護された2人の10歳位の少年。
少年は担当の収税官の元に連行された。
少年達は四つ足で走り回り、話せなかった。
食べ物を引き裂いた。
[マイワナの例]
1927年、インドのマイワナで、牧夫によって、狼の巣穴から10歳位の少年が保護されている。
発見当時四つ這いで話せず、草を食べ水を舐めていた。
夜間は吠えた。
発作を起こして他人を噛んだり自傷した。
少年はバレーリーの精神病院に移された(アラハバット発『タイムズ』の記事)。
少年は7歳位で、普段は大人しく、時々発作を起こして他人や自分を噛んだ。
草と根茎を主に食していた。
精神病院への移動は保留され、現在は檻の中にいる(『リビング・エイジ』誌の記事)。
[グアリオールの例]
1933年、ジャンシのイギリス仕官によって、狼の群れから子供が保護されている。
この子は赤ん坊週間の間、見世物として展示されていた。
その期間にアンティア博士によって、四足から直立姿勢に矯正された。
[ニューデリーの鉄道駅の例]
1954年1月16日、インドのニューデリーの鉄道駅の構内に放置された箱から発見された少年は、言葉を全く話せず二足歩行も出来ず、狼の幼獣や猫と親和的であったと朝日新聞が報じている。
発見当時、推定年齢10歳だったが生後11ヶ月の精神年齢であり、生肉を好んでいたという。
発見者は地元の警察。
[サメデオの例]
1972年5月、ムサフィルカーナの森の中から少年が保護された。
発見時、少年は4歳位で、4~5匹の狼の子と共にじゃれあっていた。
少年は黒い肌で、爪や髪は手入れされておらず、手足は感覚が無い様だったが、四つん這いで素早く走れた。
少年はサメデオと名付けられシングの家に連れて行かれた。
サメデオは、日光を嫌って日が落ちると安心し、血の臭いに興奮し、鶏や小鳥を生きたまま食べた。
マザー・テレサの神の愛の宣教者会の修道女達は彼の母親をほぼ特定したが、拒絶されたので孤児院へ預けられる事となった。
最初の週、彼は服を着る事も食べる事も拒み、暴れていたが徐々に孤児院に馴染んでいった。
訓練の結果、簡単な署名で意思疎通が出来る迄になり手足の問題も改善していった。
サメデオはシングを覚えて大歓迎する様になった。
然し、彼に子供らしさを取り戻させる事は出来なかった。
[ラームー君の例]
1976年、インドの森の中で少年が発見されている。
朝日新聞によれば、少年は発見当時推定年齢10歳で、立ち上がれず、3匹の狼の子と一緒に居る所を保護されたとされている。
発見後、ラームーと名付けられて、マザー・テレサの運営するニューデリーの施設に引き取られ、服を着替えられる位になったが、最期迄言葉は全く話せなかった。
彼は1987年2月18日に死亡したと報じられている。
[サトナの例]
インドのレワ州サトナで発見された少年。
発見者はサトナの駅長。
少年は奇妙な習慣を身に付け、言葉が話せなかった。
[ロシアの例]
2007年12月23日、中央ロシアのカルーガ州の森で、狼の群れと共に四つ這いで走り回る少年が、地元の村人によって発見され、警察によって保護されている。
少年は10歳かそれ以上で、氷点下の中で枝や葉で出来た巣の中で発見され、呼びかけに反応せず、人語を話す事が出来なかった。
警察の広報は少年について、狼の様な振る舞いをして、歯が鋭く噛まれる危険があると発表した。
少年は病院に搬送され衣服を着せられ食事が与えられた。
然し、その翌日、逃亡して行方不明となっている(少年を撮影した写真が残っている)』
(引用元:ウィキペディア 一部改定)
俺の世話をしてくれる女の子は、これらに属する人種だろう。
これらは、男児だけだが、アマラとカマラの様に女児も居る為、性別だけでが一括りには出来ない。
「……」
女の子は、本当に、何でもしてくれる。
牛の乳から絞った牛乳を鍋で温めて飲まし、排泄したら、おしめを変えてくれ、その上、湖で全身を洗ってくれる。
(名付け親になれって言ってもね)
一生を背負わなければならない名前を俺が名付けるのは、少々、気が引ける。
「……?」
女の子は、俺の視線に気付き、覗き込む。
だが、喋らない。
最初に聞いた以降、まともな言葉を聞いていない。
あれは、誰かに教わったのだろう。
野生児が、狼から人語を学ぶ事は有り得ない。
「ど?」
「あー、有難う」
俺達の会話は、こんな物だ。
女の子は、微笑んで頭を撫でる。
感情があるだけが、唯一の救いだ。
女の子が作ったのか。
それとも以前の転生者が、作ったのか。
洞窟には、乳母車がある。
そこが、俺の居住スペースだ。
そこで、ガラガラを手に持ち、洞窟の奥にある鍾乳洞を眺めていると、
『我が主よ。適性検査をしたい』
フェンリルが、ナイフを咥えてやってきた。
「適性検査?」
『そうだ。主君が、将来、何の仕事を向いているのか知りたいのだ。人間の世界にもあるだろう? 適職診断とか』
ああ、そういう知識もあるのね。
神獣だけあって、フェンリルは、人間の世界にも詳しい様だ。
「分かった。で、何をすればいいの?」
『主君は、何もしなくて良い』
フェンリルが女の子を見ると、彼女は、爪切りを用意した。
適性検査には、ナイフと爪切りが必要不可欠らしい。
……嫌な予感がする。
「あの……痛いのは嫌なんだけど?」
『案ずるな。そんな真似はしない』
フェンリルは、笑うと、女の子にナイフを渡す。
検査を行うのは、彼女の様だ。
「……」
女の子は、緊張した面持ちで、俺の小指を少し切る。
出血したそれは、直ぐに小皿に落下した。
遅れて痛みがやってくるが、直ぐに水で洗われ、消毒液を塗られる。
そして、絆創膏を貼られた。
小指だった為、てっきりヤクザの指詰めを覚悟していたんだが、流石にそんな事は無い様だ。
女の子も又、同じ様に自分の小指を切る。
5才位のこの行為は胸が痛むが、検査には必要なのだろう。
黙って見ていると、女の子は、その血をやはり、小皿に落とす。
2人の血が、混ざりあう。
すると、
「おお」
血は、うねうねとスライムの様に動き、ヒンドゥー教等にある様な『
(良かったぜ。
安堵していると、フェンリルが、卍を見て頷いた。
『戦士だな』
「戦士?」
『ああ、主君は、戦士になる運命の様だ。武器は扱えるか?』
「前世では、仕えていたよ」
『じゃあ、こっちでも大丈夫だな』
「前世と同じ武器って事?」
『それは知らん』
(神獣さんよ、適当じゃね?)
俺がフェンリルを白眼視している間に、爪を切られた。
爪は、そのまま、蝋燭に灯される。
文字通り、『爪に火を点す』だ。
「……う」
『臭いか?』
「ああ、ケラチンだからな」
爪の主成分は、蛋白質の一種のケラチン。
なので、燃えたら臭う。
因みにだが、爪を燃やす行為は、民間伝承的に禁忌だ。
『髪や爪を火に焼くと神様が逃げる(佐賀)
夜、爪を切り火鉢に入れると泥棒が入る(長崎)
爪を焼くと食物をやたらに食う(島根)
爪を焼いてはいけない(広島、岩手、山形)
いろりに爪を入れるといけない(宮崎、佐賀、和歌山)
火鉢の側で爪を切ってはいけない(鹿児島、香川、滋賀)
爪を切って火の中へ入れると火事になる(山口)
火の中へ爪を切って入れると「つまんばれ」になる(山梨)
爪を火にくべると長病気する(富山、福井、山梨、長崎、大分、佐賀)
爪を火にくべると夏病をする(山口)
爪を燃やすと餓鬼になる(福井、岡山、広島)
爪を爐にくべると狂人になる(福島、栃木)』(出典:禁忌 その六)
・爪が燃え易く、火事の原因になり易い
・その臭いが火葬を連想させる
というのが、禁忌の説とされている。
俺もインドで火葬を見た事があり、それを思い出してしまった。
土葬文化であるキリスト教の俺には、如何も火葬は慣れない。
だが、女の子は、慣れている様で、燃えている様を研究者の様にガン見している。
「……だ」
『合格だそうだ』
「合格? 何が?」
『主君は、将来、成功する。王族ももうすぐだろう』
「何その予言」
1個も納得出来ないが、1人と1頭は、自信満々だ。
『案ずるな。彼女は、巫女だ。外した事は無い』
「巫女?」
『そうだよ』
不安げに見ると、女の子は、自信満々な表情であった。
真偽の程は分からないが、あれ程、自信満々なら過去に当てた事があるのだろう。
それもフェンリルの御墨付だ。
信頼性に値するだろう。
『我が主君、スミスよ。現刻より、我々は、主君の忠実なる
「? ? ?」
頭が混乱する俺を女の子が、よしよし。
1mmも状況が理解出来ないが、今迄の時間は、試用期間だったのだろう。
俺、神獣、野生児の巫女(?)の生活は、新たな段階に入るのであった。
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