第20話 彼が好きなのは《天音視点》
「「「きゃぁぁぁぁぁぁあ!」」」
後ろからも、前からも、全方向から悲鳴があがる。わたし達は、コーヒーカップ、メリーゴーランドなどの遊具を経て、ジェットコースターに乗っていた。
──楽しいっ!
そんな中、わたしもみんなに続くように悲鳴を上げながらも満面の笑みを浮かべる。
久しぶりだ。こんなに楽しいって思ったことは。それもこれも、全て彼──つまり、唯くんのおかげである。
隣を向くと、両手を上げながら「わぁぁぁぁ!?」と声を上げる彼の姿が。ふふっ、唯くんかわいいなぁ。
……なんて、そう思ったあとにこんな恥ずかしいことを考えてしまったことに気付き、ほんのりと顔を赤らめる。
──ずっと、この時間が、唯くんとの時間が続いてくれたらいいのに。
そんな妄想を、わたしはいつも考えている。けど、それと同時にその妄想が夢物語でしかないことも、また分かっている。
……だから、わたしはこの唯くんとの二人の時間を、精一杯楽しまないとっ!
無理やり心を奮起させる。
『…………音羽、さん。どうしたんだろ……』
──この時間くらい、わたしのことだけを見て、わたしのことだけを考えてほしいな。
……それでもやはり、エントランス前で唯くんが呟いた言葉が、私の頭の中で反芻していた。
◇◇◇
「こ、こわ……っ」
次に向かったのは、かなり怖いと評判のお化け屋敷である。
遊園地にいるとは思えない、お化け屋敷独特の静けさ。不穏な空気がわたし達二人を包む。
まだ建物に入ったばかり、お化けすら出ていないというのに、わたしの足は少し震えていた。
……コトっ。
突然、どこからか音が聞こえてくる。
「ひゃっ!」
驚きの声をあげ、唯くんの背中に隠れる。下心半分でお化け屋敷に入ってみたものの、怖いものは怖かった。
「ふふっ、多分何か物が落ちただけだよ」
唯くんはからかうようにそんな言葉を投げかける。
「……分かってるけど、怖いものは怖いの!」
なんて、強気な口調でわたしは声をあげる。
……まぁ、唯くんの背中に隠れながら言ってるし、唯くんの背中に当てている手は震えてるし。ただの強がりだって、唯くんは分かるだろうけど。
「──じゃあ、手を繋いであげよっか」
……へ?
あれ、わたしの聞き間違い……?
唯くんから変な言葉が聞こえてきたかと思えば、わたしが唯くんの背中においていた手を握ってくれる唯くん。
ボッ、と顔が真っ赤に染まる。
「ほら、人の体温って安心するらしいし」
ニコッと笑いかけてくれる。わたしはまさか唯くんからそんな行動を取ってくれるとは思わず、まさかの不意打ちに顔を赤くする。顔が熱い。
「あり……がと……っ」
必死に言葉を振り絞る。
恋心に対しては鈍感な唯くんだけど、その代わり人の気持ちの変化だったり、こういうところで積極的な優しさを見せてくれる。
そういうところが、わたしは好きなんだ。
その後お化け屋敷の建物内を回ったはいいものの、恐怖よりも恥ずかしさが上回っていて。唯くんのことを考えていると、恐怖なんてそんなことどうでもよくて。
唯くんの存在は偉大だな、と思った。
「…………」
…………けれど。
……唯くんの気持ちは、天使の方に傾き始めていることを知っている。こんなにもあからさまな態度を取られて、気付かないわけない。
……でも、信じたくないわたしがいた。
唯くんのことを独り占めできたらなんて、罪深いことを考えるわたしだった。
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