第19話 デート

 二人で初めて遊びに行ったあの日から2週間近くが経過した。


 あの時から、天音がよく誘ってくれるようになっていた。2週間のうちに、もう2度は遊んでいる。少しでも過去の出来事を引っ張らないようになってきているというのなら、嬉しい限りだ。


「とりゃぁ〜!」


 なんて考えている通学中の人、朝練の人などで人のほとんどいないSHR前の教室、いつものように周囲の目も気にせず、はしゃぐような声を出しながら抱きついてくるのは天音だ。


「おはよ、天音」


「おはよっ! 楽しかったねぇゲームセンター、クレーンゲームでくれたぬいぐるみ、ベッドに飾ってるよっ」


「ははっ、喜んでくれたのなら何よりだよ」


 ぬいぐるみとは、前回に遊びに行ったゲームセンターにて、クレーンゲームをした時に得たイルカのぬいぐるみである。


 1000円近くと財布にかなりのダメージを負ったけれど、こうして天音が喜んでくれたのならぼくも頑張ったかいがある。


「そうだ、日曜日って空いてる?」


 抱きつくのをやめ、そう言いながら首を傾げる天音。


「うん、空いてるけど。……どっか遊びに行く?」


 そう尋ねると天音は、その言葉を待ってました、と言いたげな顔をして、


「うんっ! 遊園地行きたいっ!」


 透き通るようにきれいな碧眼の目をキラキラとさせながら陽気な声で提案する。


「うん、行こっか」


 ニコッと笑みを投げかけ、そう答える。


 その後数十分ほど話して、先生がやってきたころに天音は自分の席へ戻った。


 SHRを終え、一時間目直前。


 最近、一緒に通学していた──といっても3メートル近く離れているけれど、まぁそれぞれの分かれ道まで共に帰っていた音羽さんが姿を表さなくなったことに少し顔を暗くしながら、窓を眺める。


 どうしたんだろう……? 何か音羽さんの身に何か起きてたりしたら、心配だなぁ……。


 音羽さんがいないだけで、朝目にすることがないだけで、こんなにも自分の心は暗くなってしまうのかと、実感していた。


 多分、このころから。──音羽さんへの気持ちに気づき始めたのだと、未来の僕は思うのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「──ひやぁ、人いっぱいだねぇ」


 隣には、ワクワクと心を踊らせながら、都会に初めて来た田舎っ子のようにキョロキョロと周囲に視線を巡らせる天音。


 日曜日。


 僕たちは、遊園地へと来ていた。


 ちなみに現在9時過ぎ。今は先程チケット売り場で券を書い、エントランスを抜けてきたところだ。


「それにしても、豪華だなぁ」


 感嘆の息を漏らす。そう、先程から──エントランスから目につくものすべてが豪華なのだ。


 色とりどりな飾りが付けられていて、洋風な雰囲気を醸し出している大きな門。わくわくするような陽気な音楽が館内に流れていて、遊園地にいる人全員笑顔でいる。


 また、遠くに見える大きなジェットコースター、メリーゴーラウンド、もう15歳というのに、子供の頃のようにわくわくと心を躍らせる。


「まずどこいくっ?」


 入り口にてもらった館内のパンフレットを広げ、これもいいなぁ、これなんか良さそうだなぁ、なんて呟いている天音。


 よほど楽しみだったんだろうなぁ。そのことを実感すると、僕まで嬉しくなってきて笑みが溢れる。


「せっかくだし全部行こ」


 ニッと笑みを浮かべ、天音の歩幅に合わせて足を動かす。


 遊園地自体久しぶりだし、天音と遊びに来ている、嬉しいことに変わりない。……けど、どこか心の奥底では、音羽さんがいなくなった件が頭から離れられていないのもまた事実であった。


「…………音羽、さん。どうしたんだろ……」


 天音に聞こえないよう、ボソッと小さく呟く僕であった。

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