第14話 カップル限定フルーツパフェ

「……そろそろ、かな」


 待ち合わせ時刻である日曜日の14時。僕は待ち合わせをしているカフェにてそわそわとさせていた。


 待ち合わせというのは、彼女──音羽さんとで、いわゆるカップル限定のパフェというものを食べに来ていた。


 と言っても、もちろんのこと僕たちはカップルでない。ならば嘘をついているのかと言われると、そうでもない。店のホームページで書いていたのだが、実のところ男女で注文するならば問題ないらしいのである。


 なんて考えながらそろそろかなと周りを見渡してみる。見たところ、まだ彼女は来てはいないようだ。とりあえず浮ついた気持ちを抑えようと小さく深呼吸する。


 ふぅ……はぁ……ふぅ──


「──あの?」


 胸あたりを抑えて目を瞑る姿を不思議に思ったのか、疑問形な言葉が聞こえてくる。


 まさか深呼吸をしている間に声をかけられるとは思わず、変な声が出てしまった。うわぁ、恥ずかしい……。


「……っ!? あっ、お、おはようございます!」


「……お、おはよう、ございます……っ!」


 恥ずかしそうに挨拶を返す音羽さんは、肩に掛けられたミニショルダーバッグの紐を両手でギュッと握っていた。


 相変わらず仕草が可愛い音羽さんだけれど、今日の場合はやばい。何というか、小動物のようなかわいらしさを醸し出しているというか。


 音羽さんは、レースの袖をした可愛らしい白のブラウスに、ひざ丈までの長さの淡いピンク色のフレアスカートをはいていた。


 いわゆるツートーンコーデというやつだ。可愛らしくも色数で派手さを感じさせない。


 いや、それ以前に、だ。普段見る女子高の制服とは違い今回は私服……それ自体が新鮮味を感じさせていて、なんだか落ち着かない。


「……えっと、じゃあ早速行きましょうか?」


「は、はい……っ!」


 音羽さんは興奮と緊張が入り混じったような声で、これから戦場へと出向くかのような勢いでそう言葉を発する。


 その返事と共に、僕はカフェの店内へと続く扉の持ち手に手をかけるのだった。



 ◇◇◇◇



 店内は、思わず見惚れてしまうほどお洒落で、けれど息苦しくない雰囲気が周りを包み込んでいた。


 木造であることから、木の温もりや香りをほのかに感じる。お洒落なところは大抵息苦しい感じがしたけど、居心地も良かった。隠れ家のよう、というと分かりやすいだろうか。


 なんて眺めていると、僕らに近付いてくるウェイトレス姿の店員さん。


「えーっと、2名様でよろしかったでしょうか?」


「あっ、はい」


「では、お席までご案内致します」


 店員さんの指示の下、二人席へと向かう。


 カタカタと音を立てながら椅子を引いて席へとつくと、メニューを向かい側の席に座る音羽さんとの間で広げ、メニューに目を通す。


「注文はお決まりでしょうか?」


 店員さんはポケットからメモ用紙らしきものを取り出すと、首を傾げてそう尋ねてくる。


「……とりあえず目的のパフェと……昼ごはんは互いに食べてきてるわけだしあんまりいらない、ですよね。飲み物とか飲みます?」


「……えーっと、ではカフェオレで」


 と、軽く確認をし、


「では、……か、カップル限定のフルーツパフェとカフェオレ2つでお願いします」


 『カップル』という単語がどうにも恥ずかしい。


「えーっと、カップル専用フルーツパフェが1つ、カフェオレが2つでよろしかったでしょうか?」


 はい、と答えると、では少々お待ち下さい、と言いながらぺこりと頭を下げ、カウンターの奥の厨房らしきところへと戻っていった。


「……その、すいません。私事なのに付き合わせてしまって」


 店員さんがどこかへ去ったことを確認すると、前の席にいる音羽さんが話しかけてくる。


「いえいえ、とんでもないです。僕、あんまりパフェ食べてこなかったので楽しみです!」


「……そ、そうなんですね!」


 ホッと安堵の息を漏らす。顔を綻ばせる音羽さんの姿が窺えた。


 その後、何分か何気ないを話しているとパフェが到着した。


「「おぉー……っ!」」


 僕と音羽さんは感嘆の声を漏らす。


 パフェを見ただけで大げさなんて思う人もいるだろうが、それだけ自分自身にとって圧倒されるものだったのだ。


 イチゴやキウイなどのフルーツが贅沢に盛り付けられてあり、二人で食べ切れなさそうなほど豪華なものだった。


「お、美味しそうですね……っ!」


 目をキラキラと輝かせている。そして、ショルダーバッグからスマートフォンを取り出し、パフェをパシャパシャと撮り始める。


 音羽さんってフルーツとかスイーツが好きなのかな、なんて考えながら僕はその様子をただ眺める。こんな幸せそうな笑顔を見ていると、なんだか自分まで心が暖かくなる。


「……あっ、す、すいません……」


 パフェに目を奪われるあまり、僕の方にまで意識が向かなかったようだ。いや、まぁ僕のことなんて気にしなくても良かったのだけど。


 というか写真、か……そうだ。


「いえいえ。……そうだ。良かったら、ですが……一緒に撮ります、か?」


「ぜ、ぜひ……っ!」


 ニコッと花が咲くようにパァッと輝く笑みを浮かべる音羽さん。


 その後、自分の座っている椅子を音羽さんの隣まで持っていき、再び座る。


「……っ!」


 音羽さんは、目をキョロキョロとさせている。やはり人……それも男子が近くにいるという状況は緊張するようで、姿勢が固いように感じる。


 ……なんていってる僕も、緊張からか背筋が伸びているのだけど。


「え、えと……はい、チーズ」


 音羽さんの合図のもと、ニコッと笑みを作りながら音羽さんのスマホに向ける。カシャッという音と共に音羽さんは持ち上げていたスマホを下ろした。


「は、はい、一緒に確認しましょう」


 そう言うと、スマホを僕にも見えるように角度を変える。そして先程撮った写真を画面に映した。


「あっ、ありがとうございます」


 お礼をすると身体を少し音羽さんの方に近付ける。隣では、音羽さんが「あっ……」と恥ずかしそうに息を漏らしている。


「「…………」」


 写真を覗きこむ二人。


「「ふふっ」」


 写真を見たあと、互いに顔を見合わせ、ふふっと笑顔を見せる。


 写真の中の二人は、ぎこちない笑みを顔に浮かばせていたのだった。

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