第13話 友《奏多視点》

 俺には自慢の友達がいる。


 その友達の名を弓波唯人。


 彼はとにかく優しい。困っている人がいれば、どんなに自分自身が辛かろうが手を差し伸べる。


 それを尊敬すると同時に、でも心配でいた。確かに人を助けることはすごいことだ。けれど、唯人の場合は自分を犠牲にしてしまう。


 最初の印象は優しい人だなんてものだったけど、そのことを初めて知ったときは本当にお人好しだと思った。ため息を付きたくなるくらい。


 そして、それと同時にもし彼が……唯人が困っていたら全力で手を差し伸べようと。


 そんな彼は言った。


 ストーカーと相合い傘をした、と。


 ──は?


 最初、単純にそう思った。いや、正確にはストーカーではなく、いつものように唯人が助けた女子校の生徒であったらしいのだが。


 俺がそんな話を聞いたとき、驚愕の気持ちももちろんあったのだが、それと同時に嬉しいと思う気持ちもあった。


 唯人が話す様を見ていて思ったのだけど、唯人がその女子校の生徒を話すとき、無表情を保っているようにみえて、けれどどこか嬉しそうだった。幸せそうだった。


 それなら、俺がやることは一つ。……先越されるのは悔しいけど、な。


「ねぇ、奏多」


 1時限前のこと。そんな決意を固めた俺は、最近学校に来るのが早くなった唯人に声をかけられていた。


「どした?」


 唯人の前の席を借りて座らせてもらうと、首を傾げてそう尋ねる。


「──出掛けるときってどんな服装がいいのかな」


 はぁ、とため息をついて暗そうな顔をしてるのかと思えばどこか幸せそうな顔。


 あ、これあれだな。あのストーカー……じゃなかった、女子校の人とだな。え、進展早くないか? 鈍感で有名な唯人が、か?


「え、もしかしてあのお礼をしようとした?」


「…………うん」


「……そうか」


 と呟いて、フッと微笑む。俺は唯人を全力でサポートすると決めているんだ。力になれることなら、少しでもいいから助けよう。


「よしっ、じゃあ今日の放課後にでも服装選びに行くか。俺がアドバイスとかしてやるよ」


「ほんと!? ありがとう!」


 幸せそうな顔でニコッと微笑む。


 そんな顔を見ていると、否が応でも思ってしまう。


 俺も彼女欲しいぃぃぃぃぃぃ!!


 ……けど。引け目な正確な唯人が、こんな状態を自ら作っているとは思えない。どうしてそんなことになっているんだ?


「……でも、どうしてまたそんなことになっているんだ?」


「その、音羽さん……あぁ、あの音羽さんっていうんだけど、その音羽さんは一駅先のカフェに行きたいらしくて」


「……それがどうして唯人と行くことに?」


「それが……音羽さんが食べたいって言っているパフェなんだけど、カップル限定で販売しているらしくて」


「へぇー」


 羨ましいな、なんて考えながら相槌を打つ。


「それで一緒に行くことになった、と」


「簡潔に言えば……そういうこと、だね」


「なるほどな」


 ……いや、なるほどな、じゃねぇよ!


 唯人の……ラブコメ主人公め!


 となると俺はさしずめ、ラブコメ主人公の友人ってとこか。主人公を……唯人を陰ながら支えられるポジション……ははっ、最高じゃないか。


 ……いくつも受けた恩の、恩返しができるってことだもんな。


「その相手の人、写真でも撮って教えてくれよな」


 ニッと笑うと、俺はそんな言葉を投げかけた。

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