四女の葵羽ちゃん。

 事件が起こりました。

 それはそれは、とても大きな事件です。

 というわけで、私は被疑者たる四女の葵羽あおはちゃんを呼びつけました。

 中学二年生の葵羽ちゃんは、姉妹の中で一番運動神経がよく、学校でもソフトボール部に所属しているスポーツ少女です。

 しかしそんなことは今はどうでもいいのです。私よりわずかに背が高いことよりもどうでもいいのです。

「葵羽ちゃん、訊いてもいいかな?」

「んだよ?」

 葵羽ちゃんはあぐらをかき、頭の後ろで手を組んでさぞめんどくさそうにしています。

 でも私は聞かなければいけません。姉の威厳を保つためにも!

「えっと、牡丹ぼたんちゃんに聞いたんだけど――」

「ちっ」

 牡丹ちゃんの名前を出しただけなのに舌打ちされました。え、怖い。

 でも私は怯まずに訊きました。おねえちゃんなので。

「ブラジャーのサイズが合わなくなったって、本当なの?」

「そんなことかよ」

 葵羽ちゃんは恥ずかしそうに目を逸らして、しかしはっきりと残酷な真実を口にします。

「またでかくなったみてーなんだ」

 衝撃が走りました。

 私は葵羽ちゃんの前であることも忘れて、がくりとその場に項垂れます。

「ち、ちなみにカップ数は……?」

「Dだけど?」

「D……!!??」

 中学二年生にしてもはやD!?

 二十歳の私ですらC止まりだというのに……!!

 牡丹ちゃんに至っては……おっとこれは禁句ですね。

 とにかく、Dですと。

 まさにでかい

 姉として胸の大きさだけが誇りだったのに……!!

 しかもなによりの問題は、葵羽あおはちゃんにはさらに伸びしろがあるってことだよ!

「んで、もしかしてそれだけ?」

「待って。葵羽ちゃん、どうやったら大きくなるの?」

 私はすがるような視線を葵羽ちゃんへ向けます。

「んなこと訊かれても、特別なことなんてなにもしてねーしな……」

 困ったように頭をく葵羽ちゃん。

「じゃ、じゃあちょっとだけ揉ませて?」

「なんでだよ!?」

「揉むとご利益があるって言うじゃない?」

 漫画なんかのサービスシーンのために作られた迷信だろうけど。

「やだよ!なんであねきに胸揉まれなきゃいけねーんだよ!?」

 葵羽ちゃんが私から距離をとります。

 私は両手の指をわしゃわしゃといやらしくうごめかせて葵羽ちゃんとの距離を詰めます。

「彼氏以外には揉まれたくねーし!」

 ピキッ――瞬間、私の思考が停止しました。

 ……か、彼氏……?

「あ、葵羽ちゃん……もしかして、彼氏、いるの……?」

「え?あっ――」

 葵羽ちゃんがしまった!というような顔をしたことで、私は悟り、絶望し、憤りました。

 だれやねん私の大事な妹に手を出しやがった不届きものはぁぁぁ!!??

 しかも、しかも――

「む、胸……揉まれた、の……?」

「~~~っ!」

 葵羽ちゃんの顔がみるみる真っ赤になっていったことで、私の言葉に肯定しているのだと捉えました。

 そ、そんな……中学生で、えぇぇぇ!?

 最近の子は早いっていうのは聞いていたけど、まさか私の可愛い可愛い妹がけがされていたなんて……。

「ま、まさかそれ以上のことをしていたり――」

 訊いて、私は顔を伏せて「やっぱりいい」と耳を塞ぎます。

 もしもそれ以上の行為に及んでしまっていたら……いろいろ問題です。死にたくなります。

 でもお母さんには、あとで報告しておきましょう。私には忠告する勇気はないので。

 というか私ですらまだ男に揉まれたことないのに……!!!

「ふ……ふふふ……」

「あ、あねき……?」

 見知らぬ男に抱いていた感情が、ふつふつと葵羽ちゃんへ向くのがわかりました。

「葵羽ちゃん」

「な、なんだよ……?」

 私は努めて冷静に、笑顔で命令しました。

「揉ませろ」

「ひぃぃぃっ!?」

 おっと、この先は覗いちゃダメですよ?


 ミセラレナイヨ


「はぁ、はぁ……」

 葵羽ちゃんはどうして息を荒げているんでしょうね、謎です。

「あねきの……」

「あ、葵羽ちゃん……?」

「シスコンビッチ~~~!!!」

 葵羽ちゃんは目にいっぱいの涙を流しながら、新たな言葉を生み出して走り去ってしまいました。

 少しやりすぎてしまったかもしれませんね。

「……柔らかかった」

 ポツリと、そんな感想を漏らす私なのでした。

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