三女の霞澄ちゃん。

霞澄かすみちゃん、質問があるんだけど、いいかな?」

 私は部屋に入るなり、ウェーブをかけた黒茶色の短い髪の毛先を指でくるくると意味もなくいじる霞澄ちゃんにそう言いました。片手ではケータイをポチポチと弄っています。

「いいよ。なに?」

 三女の霞澄ちゃんは高校一年生で、いわゆる高校デビューをしたです。

 髪を染めたり、パーマかけたり。

「最近の子って、どんな服を着るの?」

「急になに?」

 霞澄ちゃんは訝しげな表情をします。

「今描いてる漫画にね、新しいキャラを登場させようと思うの。高校生の――だから」

 そゆこと、と最後まで言わずとも霞澄ちゃんは察してくれます。

 霞澄ちゃんは姉妹の中で一番のおしゃれさんです。流行にも敏感です。

 そんなおしゃれギャル(?)の霞澄ちゃんの意見を参考に、新キャラの服装を決めようというわけです。

「おねぃの漫画って、恋愛モノって言ってたっけ?」

「う、うん」

「ふーん……その新しいキャラって、どうゆうキャラなの?」

 霞澄ちゃんは事細かに新キャラについて質問してきます。

 私は言葉を選びつつもその質問に答えていきます。

 なぜ言葉を選ぶ必要があったのかって?

 それは、今は内緒です。

 ともかく霞澄ちゃんの質問に答え終え、ふぅ、と一息つきます。

 思った以上に質問の数が多かったので、先に質問したはずの私のほうが疲れていました。

「そのキャラに合う服なら、」

 霞澄ちゃんは一拍置いて言います。

婦警ふけいさんだね」

「ふ、ふけいさん……?」

 あまりにも斜め上な回答に目が点になる私。

 コスプレの相談だったっけ?

「ツリ目で、目の下にほくろがあって、美人で、背の高いボンッ!キュッ!ボンッ!なお姉さんなんだよね?」

「う、うん……」

 他にもいろいろ訊かれたはずなんだけど、不必要な部分は省略してるのかな?

「つまり婦警さんがよく似合うよ!」

 霞澄ちゃんは一点の曇りもない無邪気な笑顔でそう言います。

 そもそも新キャラは、警察ではなく高校の教師だと説明したはずなんだけどなぁ。

「えっとね、霞澄ちゃん?それって、婦警さんの制服を着て先生をやれ――そういうこと?」

「うん!」

 うぅ、笑顔が眩しい……!

 というか警察のコスプレって禁止されてなかった?――じゃなくて、そんな服装で教鞭を振るっても……まぁ一部の男子生徒と男性教師は喜ぶかもしれないけど……。

「その、普段着ている服のアドバイスをしてくれると、お姉ちゃん嬉しいんだけどなぁ……?」

 そう言う私の表情は、困ったように引き攣っていることでしょう。

「おねぃの服?ダサい」

「ぐはっ!?」

 私に精神的ダメージ!!!

 違うの……私の普段着の話じゃないんだよ霞澄ちゃん……。

 私は泣きそうになるのをギリギリのところで堪えて、なんとか言葉を絞り出します。

「新しいキャラの、服……」

「え?だから婦警さんだよ?」

 霞澄ちゃんには一切の迷いがありません。

 どうやら私の完敗のようです。

「楽しみだなぁ。ね、描いたら読ませてね?」

「え、それはちょっと……」

 私はわざとらしく目を逸らします。

 白状しますと、私の描く漫画は、およそ高校一年生の妹に見せられる内容のモノではないのです。

 ――まぁぶっちゃけエロ漫画ですね。

 私が描いている漫画が成人向けというのは、私の両親しか知りません。

 可愛い妹たちには清いままでいてほしいですからね。

「なんで?読ませてくれてもいーじゃん」

「ダメ。絶対」

「けちー」

 霞澄ちゃんが髪の毛先を唇で挟んで抗議の目を向けてきます。

 ですが、見せるわけにはいきません。

「霞澄ちゃんは秋桜こすもすちゃんにジャ●プを借りて読んでなさい」

 一部を覗いて健全ですよ、ジ●ンプ。

「男子が読むもんじゃん」

 あ、全国のジャ●プ好きの女子と秋桜こすもすちゃんを敵に回しましたね?

「うち、それならノ●ノとかヴ●ヴィとか読むし」

 さすが姉妹随一のおしゃれさん!聞いたこともないおしゃれそうな雑誌の名前を知ってらっしゃる!!

 私が知っているのなんてせいぜいコミック快●天くらい――あ、嘘です。もっと健全なのも読みますよ?

「どうしてダメなの?うち、おねぃの描いた漫画、読みたい……」

 うるうると瞳を潤わせて霞澄ちゃんが見つめてきます。

 くうぅぅぅ可愛い……!!!

 でも私は心を鬼にします!

 愛しの妹に私が描いた(エロ)漫画なんて読ませるわけにはいきません!断固拒否です!

「おねぃ……(うるうる)」

「くっ……わ、わかった……少しだけ、ね?」

「やったー!」

 負けました。

 成人向けとはいえ、すべてのページがR指定モノの内容というわけではないので、一般的な描写だけ見せれば問題ないでしょう。

「楽しみにしてるね、おねぃが描いた婦警さん」

 霞澄ちゃんは髪の毛先を弄りながら無邪気な笑顔を向けてきます。

「うん。おねえちゃん、頑張るね」

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