賢者は教え子を持つ
青緑
プロローグ
俺はウルシ。近隣国との戦争で功績を残し、魔物や悪魔の王を討伐し、様々な功績によってオーラン帝国の皇王から"賢者"の称号を与えられ、気が付けば歳が五十を越していた。戦争やら討伐やらを終えれば平和な日常が始まって、発展が進んでいく。
だが戦争を何年も前からやっていれば、土地が痩せるのは仕方がない。そして"賢者"の称号を与えられた事により、資源の枯渇に対して『新たな資源を確保しろ!』と何とも投げやりにやって来る。これに関しては、どの研究機関も、どの魔術師にも分からない事だ。しかしウルシはたった数ヶ月で成果を成し得た。それが地下にある龍脈であった。
この龍脈は
この龍脈からの膨大なエネルギーをウルシは大地へ巡らせ、浮遊大陸にある痩せた土地は潤った。そうして、この功績の報酬にウルシは魔術学園の講師を指定し、これを皇王の名で受諾された。だが、それまで魔術学園で学ばせていた生徒は誰もが魔術を行使でき、どんな魔術も学べば成功させられた。そんな学園では教師よりも生徒が優位に立てていた。これに対し学園長が辞職を決めつけ、教師が半数に減り、生徒に教えられる者が少なくなっていった。この時期にウルシはタイミングが良いのか悪いのか、就任した。
「えーと、今日からこのクラスを担当する事になった、ウルシです。これからよろしく!」
「先生ぇ!私たちは授業を受けなくても、強いんでぇ授業を免除してくださ~い。」
「ふーん、良いぞ。その代わりと言っては何だが、この場から退出した者は退学とする!それでも良いなら出て良いぞぉ。」
紹介を終えるなり、真っ先にツインテールの女性が手を挙げて言い張るが、ウルシは気にせず、何も無かったかのように退学という警告を放つ。しかし意味が分かっていない生徒は、それだけで怒りが込み上げている。
「「「なんだと(ぉ)~!」」」
「よーし、授業を始める。」
「「話を聞けよ!」」
「ええぇ。じゃあさ~、どんなに強い魔術が使えるのか見せてくれよ。俺が採点して満点取れたら、一つだけ許可してやるから。」
「そんなの教師であるアンタだけで決められないでしょ!他の教員もいれば、考えても良いわよ。どうせ、魔術を見た途端、満点をくれるんだから。」
「分かった、じゃあ待っててくれ。『ああ、悪いんですが、生徒が納得できないらしいんですよ。ああ、あれは最後の手ですよ。………、ああ、はい、待ってます。』…もうすぐ採点者が来るから、少し待ってろ。」
「誰に連絡してたのかしら?」
「この国の皇王様。」
「はあ? 何言ってんの、皇王が学園なんかに来るわけないじゃない!舐めてんの、オッサン!」
「それはないだろ、俺はオッサンではーーー「賢者ウルシ様、どういうことですか!」」
ウルシが生徒の一人から放たれたオッサン発言に対抗しようと叫ぼうとした途端、この学園の学園長をしていた男が荷物ごと教室に乱入して来た。この学園長、チェインは背に抱えている荷物を投げたことすら気にせず、ウルシに詰め寄って来る。生徒は学園長の乱入と、不意に言った言葉に驚いている。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、チェイン学園長。いや、元学園長…かな? まあ良いや、それで何の用ですかね? 一応、今は授業中ですよ。」
「良くない!…まだ学園長だ。辞職を城に申請したのに通らないのだから仕方なかろう!それより高貴な方が来るなんて聞いてませんぞ!」
「ああ、今さっき連絡したんですよ。意外と早かったな、皇王様?」
「ええ。あなたの要請を受けたら、流石の私でも向かわなきゃならんでしょ? それで? 私は何をすれば良いの?…学園長、あなたは側で黙って見てなさい。『は、はいぃ。』」
「ああ。この生徒らが実力を見せてやるから、満点と評価して授業を免除しろって、言うんで受けようとしたんですよ。そしたら他の教員が居ないなら、公平ではないと抜かすもんですから、アンタに来てもらいました。」
「ふーん、でもさ。別に儂が来なくても、例のアレを見せれば簡単では?」
「それができたら良かったんですが、この様じゃ、見せても偽物扱いですよ。逆に捕まって、あとが大変になるより楽でしょう?」
「確かにな。それで儂が来たからには、テストは自信が出たかな?」
「「「はっ、はい!」」」
「よろしい。因みにだが、儂は若者の魔術よりウルシの魔術と技術が好みだ。」
「はあ?このオッサンの、ですか!?我々より歳を召してるからって、良い気にならないことですわ!」
「そうだぞ、さっさと広場で見せてやろうじゃないか!」
「では行こうか。」
それから広場で生徒が魔術を行使し続けた。その中から素質のある生徒を選抜していくウルシ。その光景を呆れて、ウルシの評価を眺めている皇王。その仕方を見て、苛つくツインテールの女性は最後の方に来た。
「行け!『火の玉』」
ツインテールの女性が呟くと、他の生徒よりも濃度の高い魔力による火で出来上がった巨大な玉ができた。しかし眉を動かさず、ウルシは数秒唸ると、女性の方を向く。
「それを十分間続けて、十分経ったら他の属性も同じように発動してください。」
「はぁ?」
「頑張ってますねー(ボソッ)」
「なぜ、あの子だけを?(ボソッ)」
「現実を見れば良いなんて言いますが、限界を見せたがらない方も居ますから。(ボソッ)」
「ふーん。」
「なんか言いなさいよ!」
ーーー …一時間後…
火の玉を五つ発動したまま、ツインテールの女性は立ち続けている。傍らでは他の生徒が様子を窺っている。ウルシは女性を放置して皇王と話し続け、魔力枯渇に近付いているとウルシが悟ると、女性に伝えるために視線を上げる。
「そろそろ良いですよ、お嬢さん。火属性と闇属性だけですか、もっと鍛えた方が良いですね。それに」
「うるさい、まだやれる!」
「そうか。でも儂が見た限り、あなたの評価は中の下ですね。他の生徒が行使した魔術は、そこの方より下ですが。」
「後ほど、掲示した方は学園長室まで。掲示されなかった方は次の機会に。ではーーー」
「おい!」
「…何でしょう?」
「さっき…先程、皇王様が言っていた言葉はどういうことでしょうか?お聞きしてもよろしいですか?」
「…俺は先に戻ります。変なことを言ったら、承知しませんよ?」
「ああ、悪くは言わんから大丈夫だ。さて、では。あの言葉は事実だ、あいつは帝国最強の魔術師である"賢者"だ。儂が与えた称号じゃからな」
「で、では。」
「そうじゃな。あいつから学べれば、あいつ…ウルシを除けば、帝国の次の次くらいは目指せるかもな。しかし拝見した限り、見込みがあるのは、そこのツインテールの彼女以外から数名…と言ったところかの。そやつは誰じゃったかのぉ…」
「わわ私はニルベスタ・ベルテでありますぅ、どうぞお見知り置きを。」
ニルベスタと名乗る女性は黄金色のツインテールを揺らしながら、頭を下げている。しかしニルベスタは貴族だけが名乗れる名を語ったことに皇王は眉間に皺を作った。そのことに気付いたニルベスタは青褪めた。
「ふん、"問題児"と覚えておこうかな。」
「なっ!私はベルテ伯爵長女であるのに…」
「そうやって貴族の位を笠に着るから問題児と言っておるのだ!儂も含めて帝国内で動く上官や将軍は、もとよりウルシの弟子だ。今や上層部のほとんどが奴の教え子である! 貴族の中でも国境を守護する辺境伯に、公爵位を務める名門家、さらに皇王直属部隊、そして儂もそれに加わっている。それが、どういうことを意味するか、ここまで言えば分かるな?」
「それは、もし。…もしウルシ…様の機嫌を損ねるなり、敵と見なされたら…」
「まあ帝国が割れるであろうな。まあ、そうならんが為にウルシ、…師を懐に入れていても縛り付けておらん。」
「うっ。」
「まあ、貴公は現状危ないから気を引き締めろよ?」
「はっはい!」
ーーー …それから半年が過ぎた頃…
「魔力演算には変わらず出ているのか?」
「ああ、賢者様の術式も装置も正常なのに、高魔力反応が空から溢れている。地下ならともかく、空には限りがあるからなぁ。王はなんと言っていた?」
「現状維持らしい。それと賢者様から言付けで、龍脈からエネルギーを多く吸収しろ、と。早速、賢者様の術式を上書きしたら早々に龍脈のエネルギーが溢れ出したけど、そのエネルギーが帝都中央部へ送られている。かなりの出力で吸い取っているが、枯渇しないのか?」
「あ、それは聞いたことがあるぞ!なにやら他に流れていた龍脈を従魔と一緒に帝国に道を繋げているって話だ。龍脈の最終座標が帝都中央ってのも、不安だがな。」
現状、訳の分からない高魔力体が空から強力な魔力を撒き散らしながら、接近している。騎士団も派遣したが、雲の上の空でさえ越えても存在が確認できていなかった。
その高魔力体が帝都に近付いていたことに気付いたのは賢者であるウルシと、数多く経験を積んだ皇王だけだったが、目的が分かっていなかった。それから数日後、生徒がウルシの前から忽然と消えたのだった。
賢者は教え子を持つ 青緑 @1998-hirahira
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