第2話 天使(オタク)、学校に赴く
昨日は本当に疲れた。僕、志場友樹は布団の上で伸びをする。昨日のあれは夢だったのかと思い、隣を見ると羽の生えた少女がドラゴンボールのコミックを抱きつきながら寝ていた。
「?」
僕は昨日の事を頭の中で整理する。あ、思い出した。これは夢じゃないと僕は気付く。
「リサさん。起きてよ」
「ん~、むにゃむにゃ。ヤムチャ、栽培マンにやられちゃって」
何か夢を見ていて、寝言を言ってる。リサは恐らく、ドラゴンボールの夢でも見ているのだろう。そんなことはどうでもイイ、起こさなくては。
「何、言ってるんだよ。ヤムチャ、関係無いよ。起きなよ」
僕はリサさんの体をゆすると眼がゆっくりと開く。リサは起き上がったと思ったら「セルはどこ?」と頭を左右に動かし、周囲を確認。
「セルはここに居ないよ」
僕は冷静にツッコむ。
「何よ。今、私とセルが戦ってたのに」
僕はリサの言う事に呆れて何も言えなかった。どこのオタクだよ。あっ、オタクの天使だったと実感した。
「ほら、ドラゴンボールの漫画片付けて」
「私のお母さんか⁉」
リサは寝起きでブツブツ言いながら漫画を本棚に入れていた。僕はその場で学校の制服を出し、廊下で着替える。
「片付けといてよ。ご飯食べて、僕学校に行くから」
僕はその言葉を言った時だった。リサが部屋から出てくる。
「私も行く」
「はぁ?」
僕は間の抜けた声を出してしまった。
「だから、私も学校に行く」
「何言ってるんだよ」
「別にどんな場所か見に行くだけ」
とリサは鼻をならし、興奮ぎみだ。
「勉強しに行く場所だよ。別に面白くないよ」
「・・・まぁ、適当に洗脳して入るから大丈夫だよ」
「サラッと怖い事言わないで」
「漫画なら割とあるよ。この設定」
「知らないよ。そんなこと。それにうちの学校の制服ないじゃないか」
「あ~。その事」
リサはそう言うと腕にはめているブレスレットの石を押す。その石を押した瞬間、リサの服が発光。今までの白のノースリーブのワンピースが一瞬で僕の学校の制服に変わる。
「は~。凄い」
「ドラえもんの秘密道具の着せ替えカメラばりに早いでしょ。天使が人間界に溶け込み、監視する時に使う服なの」
リサは威張り、自慢する。僕はここまでするリサに観念。
「も~、分かったよ。付いてきてもいいけど、邪魔しない。後、絶対。天使だってばれない事。羽は出さないでよ」
僕はリサに念を押す。リサは「了解!」と僕に敬礼。僕たちは母さんが準備してくれた朝食をしっかりと食べる。
僕たちは朝食を食べ終わると学校へ向かう事にした。この時間なら遅刻にはならないから一安心だ。
僕たちは学校まで歩いて行こうとする時、リサは走り出す。
「友樹、早く学校に行くわよ」
と言うと僕の方に振り向き様に手を振る。めちゃくちゃ元気じゃないですか。正直このリサの元気が羨ましかった。昨日、眠りが浅かった僕にしたら疲れが取れてないからしんどかった。
「待ってよ、リサ」
「早くきなさいよ。ぐほっ」ドカッ‼
「は?」
僕は目が点になる。点になった理由はリサが交差点に入ったところでリサがおばちゃんの乗った自転車にはねられたのだ。
「何やってるの、あなた。どこ見てんのよ。もうっ」
「いったぁ~い。普通こういうのってイケメンの男の子とぶつかって、バカ―何してくれてんのよってスカートの中見られるラブコメのパターンじゃ無いのぉ」
「元気だねぇ」
リサは道に尻もちを付き、痛みに愚痴りながら、ラブコメの王道を語っていた。痛みよりそれかよと僕は感心する。
「もう、いきなり飛び出すんじゃ無いわよ」
おばちゃんは捨て台詞を吐いて、自転車で立ち去っていく。おばちゃん、強い。
「起こしてよ、友樹。あのおばさん今度会ったら、デスーノートでこらしめるわ」
「何か微妙にニュアンスおかしいけど。あと、君、天使だろ。物騒な事言わない。ったく、しょうがないな」
リサは助けを求め、僕は引き起こす。
「後もうちょっとで学校だから、ゆっくり行こう。遅刻しないように早く出て来たし」
リサは「うん」頷いた。ほどなくして、僕たちは学校に到着する。
僕の通っている星宿高校は1年生で7クラス存在している。僕のクラスは1-6にあたる。今の少子化時代には意外にクラスの生徒は多い方だと思う。僕たちはクラスに向かうとリサは目の前で立ち止まる。
「入る前にやっておかなくてはね」
とリサは言い出すと手を合わせ呪文を唱え始めた。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり。記憶の改ざんを」
「何か何処かで聞いた事あるような・・・それ悪魔召喚するやつじゃない」
僕はリサの唱えた呪文に違和感が。リサは僕のツッコミに「ノリで別に意味わないわ。これで洗脳完了」と返してきた。
「さっ。教室に入りましょう」
リサは僕の背中を押して、教室に入る。
「おっはよー、みんな」
リサは大きな声で挨拶するとクラスのみんなは各々挨拶を返してくる。
「おぉ、リサちゃん。おはよう」
「おっはよー、リサっち、こっち来てよ」
「リサさん、おはようございます」
「あぁ、おはよ。後でいくね」
リサの嘘のような魔法は「凄い」の一言。そして、リサはクラスのみんなの輪にすぐに馴染んでいく。僕はリサの対人能力には感心させられる。
僕は自分の席は窓側の一番後ろにある。目立たなく、空が眺めれるとてもいい席だ。僕の席の隣にいる飯田篤史は高校で友達になった初めての友達だ。飯田は高校で空手部部員、中学でもそこそこ成績を残しているらしく、部活動推薦でこの星宿高校に入学したと本人から聞いことがあった。
「おう、おはよう。友樹」
「おはよ。篤史」
僕は挨拶すると席に着くと、カバンから教科書を出す。
「今日もリサさん可愛いな」
「そうだね」
本当に記憶操作凄いな。昨日まで全然知らない人の事を友達するとか、コミュ力あり過ぎでしょと唖然。
「そういや。今日、お前、リサさんと一緒に来たけど、何でだ。友達だったっけ?」
「ふぁっ・・・それは」
僕は焦る。この設定は無理があるわ。
「あぁ、その事ね。今、私の家、建て替え中で志場くんの家に家族でお世話になってるんだ」
リサの口はよく回る。本当に天使かなぁ。ペテン師じゃないかとも思えてしまう。
「そんな仲だったんですか?」
「そうだよ」
飯田はリサに敬語で話し出す。しかも、妙に目をそらし、赤くなる。あぁ、これは飯田、リサの事好きだなと一発で分かる反応だった。
「知らなかったです」
飯田は羨ましそうな顔で僕を見てきた。
「言ってないもん。でも、一つ屋根の下、友樹が変な気起こさないか。心配で」
「おい~。僕がいくら童貞でもそんなことしないよ」
「本当⤴?」
リサは目をにやつかせながら聞いてくる。飯田も疑いの目で見てきた。
「しない」
僕はきっぱりと言い切る。
「童貞を30歳まで守れば、魔法使いなれるって聞いたことあるわ」
リサは言ってきた。
「どこ情報だよ」と僕はツッコミ。
「えっ。マンガだよ」
とリサは答え、僕は頭を抱える。あぁ、そうだったリサの情報源は全部マンガだ。
「リサさん、マンガ読むんですね」
飯田はリサの言葉に感心していた。そんなわちゃわちゃしている時、教室の前の扉が開く。
「はーい。朝のホームルーム始めるわよ。みんな席について」
先生は黒のタイトスカートで上はシャツ。黒髪ロングの眼鏡の似合う可愛い女教師、井上舞依先生(32)。国語教師。本人は随時恋人募集中らしい。可愛いのにお酒が絡むと悪魔になると本人が言っていた。
「じゃぁ、連絡事項あるからよく聞いてて。明日、国語小テストあるから」
「えーーーー」
「何で。いきなり」
「いつも、1週間前には告知してくれるじゃん」
教室内生徒は不満たらたら。
「何でもよ。じゃぁ。これでホームルームの連絡終わるから。一時限の先生もうすぐくるから準備よろしく」
と言い残すと井上先生は出て行ってしまった。
「出てくの。はやっ」
僕は先生の出て行った扉についツッコみを入れてしまう。リサはみんなが何に不満を持っているのか分からなく、僕に聞いてきた。
「何で、みんなこの世の終わりみたいに絶望してるの?」
「先生がいきなり小テストやるって言ったからだよ」
「そんな事で?」
「先生は機嫌が悪い時には結構な確率で小テストするんだ。しかも、結構ガチでこの小テスト、井上先生が国語の成績に反映させるから、困るんだよ」
「面倒くさいわね、井上先生って」
「何かあったのかな?」
リサは頭に手を当て、溜息をつく。
「テストを回避できるように私が何とかしてあげる」
「出来るの、リサさん」
僕はリサの言葉につい敬語になってしまった。
「ちょっと待ってて」リサは僕に言い残すと教室を出て行った。
数分後・・・
「戻ったわよ~」
リサが教室に戻ってきた。手で丸を作り、笑顔で帰ってくる。この笑顔、本当にテストしなくていいのかちょっと不安だ。本当に大丈夫なのか。
次の日
「おっはよー、みんな」
井上先生はやけに嬉しそうだった。他の生徒が先生の笑顔が気になり、質問。
「何か、嬉しそうですけどいい事でもあったんですか?」
「解る⤴。じつわね・・・・」
先生は意気揚々と語り出す。話によると、あのホームルームの後、飲み会であったお気に入りの子からSNSで(今度遊びませんか?)ってきたのよと嬉しそうに語っていた。
「良かったじゃん。井上先生」
「だからぁ。前、言ったテストは無しにします」
「やったぁぁぁぁぁ」×26人
みんなは歓喜の余り咆哮をし、ある人は涙を流していた。嬉しいけど、そこまでするのと僕は引いていた。
「喜んでるとこ、悪いけど。志場君はこれから一週間私のお手伝いしてね」
「何で?」
「何となくかな」
井上先生は笑顔で答えてきた。僕は直ぐにリサの方に顔向けた。リサは僕が見るのを確認すると即座に目を反らした。
「どうしてこうなった?」
僕はリサの顔を僕の方に向け、理由を聞く。
「実はね。このお願い。この祈り、一つのお願いを叶えると一つ生贄を捧げないといけないの」
「その生贄が僕って事?それで僕が井上先生にこき使われると」
「そう」
小テストを逃れたのは嬉しいけど、何か納得いかないと僕は感じる。
「結局、僕だけ、割り合わないじゃん」
「そうかもね」
とリサは笑顔で返し、僕は教室の片隅で頭を抱えるのだった。
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