第38話 アイ・・・  (2)

 アイドルって過酷なのね。

 私、東雲亜里沙は思う。

 私はとあるスタジオのセット前に立っていた。周りでは撮影用の機材があり、スタッフが走り回っていた。

「何で私、此処にいるんだろう」

「何でって目の前にいるネットアイドルと料理対決するからでしょ」

 凛花さんはシェフの服を着てルンルン。凛花さん的には、普段はメイド服しか着てないから「何か新鮮」と喜んでいた。

 私も今、着てるけど確かにちょっと新鮮かも。

 しかし、藍野さんはけた違いのスタッフに囲まれヘアメイク、メイク、衣装合わせをやっていた。

「凄いですね、藍野さん」

「全然凄くないよ。私がやったメイクの亜里沙ちゃんのが可愛いし」

「あ、有難うございます」

 何か照れる。


 ボ――――ン


 そして、開幕のドラが鳴らされる。

「さぁ、諸君このキッチンスタジアムへようこそ」

 料理番組「料〇の鉄人」風の始まり方。司会の人も芸能人の鹿賀丈〇風の衣装を着てテンションを上げていた。そこまで似せなくても。

「さて今日ここに集まってくれた鉄人たちには、この男の舌をうならせてもらおう」

 司会がそう言うとある場所にスポットライトが当てられる。

 そのスポットライトの当てられたところには何処かの皇帝かと思わせる衣装を着た芳賀君が玉座に偉そうに座っていた。

「さぁ、私の舌をうならせてくれる料理人はここにいるのかな(棒)」

 芳賀君本人は真面目に演技しているのだが喋っているセリフが棒にしか聞こえなかった。

 しかし、どうしてこうなったのかと私は思い、藍野さんの方をみる。藍野さんの目は芳賀君の姿に目がハートになっているのが見える。何故、藍野さんが芳賀君を好きになってしまったのか。考える。考える。考える。私は考える人のポーズを取っていた。

「何してんの?」

「ちょっと考え事です」

 私は凛花さんの質問に即答する。でも最後は考えがまとまらず。

「どうして、こうなった」

 私は呟いた。

「さぁ、始まるわ」

 凛花さんがそう言うと、司会者から今日のお題の料理を発表される。

「さぁ、それでは今日のお題を発表する。今日のお題は{オムライス}を作っていただく」

 司会者が叫ぶ。

「さぁ、シェフ達よ。皇帝をうならせるオムライスを作るのだ。料理開始」 


 ボンボ――――ン


 司会者は料理開始のドラをさっき以上に大きな音で鳴る。司会者はノリノリだ。

 そして、私達の料理の時間が始まった。

 私と凛花さんはオムライスに使う食材を中央の台から選んでいた。そこへ、藍野さんも食材選びにやってきた。

 藍野さんはオムライスに使う食材をさっさと取っていく。早い。

 私も負けじと使用する食材を取り、調理台に向かう。

 オムライスに使う食材机に並べる。

 ・卵

 ・米

 ・調味料(塩、コショウ、ケチャップ)

 ・玉ねぎ

 ・トマトピューレ

 ・ベーコン

 ・バター

 ・サラダ油

 ・オリーブオイル

 凛花さんが私の並べた食材のあることに気付く。

「あれ?グリーンピース入れないの?」

「あの食感は私にはちょっと合わないと思って・・・」

「ふーん。そう」

 凛花さんが私に聞こえるように呟いた。

「嫌いなのね」

 私は即答する。

「違います。あれは邪道です。単体で食べるならまだしも、料理に入れるとなぜか青臭い感じになって美味しくないんです.

後・・・」

「まぁ、いいわ。料理開始しましょう」

 凛花さんが私の言葉を遮ると、シェフの服を腕まくりして料理を開始した。私もそれに続き、料理をすることにした。

 まず、オムライスに入れるライスを作る。私が米を研ぎ、水を米の分量に対して釜に入れる。炊飯器のタイマーをセットし、これでお米は準備完了。

「とりあえず、ご飯はこれでOKですね」

 私が凛花さんの方向くと黙々と玉ねぎをみじん切りにしていた。凛花さんは涙一つ流さずに手際よく切っていた。何この、早さ。

「流石ですね。凛花さん」

 私は感嘆の声を上げる。

「それじゃ、亜里沙ちゃん。フライパンに玉ねぎ入れて火を通して」

「はい」

 私は凛花さんの指示に従い、玉ねぎを炒める。凛花さんの仕事の手際の良さに私も感化され、仕事をする。そこへ、司会者の声が飛び込んできた。

『おおっと、これは。東雲チーム手際が良い。素晴らしいチームワーク。一方、藍野チームはどうなのか。ん?』

 司会者が藍野チームを見て、言葉がつまる。

 私達は料理で藍野チームの事は気にしていなかったが、司会者の言葉のつまりで藍野チームを見てみる。

「何アレ?」

 私は目を疑った。

 目の前には藍野さんともう一人の料理人がいた。いたのだが、形が人ではないものに見える。「人なの?」私は呟く。

 その形はロボットの装備をした女の子の様に見えるし、只のロボットの様にも見えた。

「この子は私の秘密兵器。ロボコック『まいんちゃん』私のチームメイトよ」

「ちょっ!ロボットなんてズルい。そんなの美味しい料理作れるに決まってる。これ反則ですよね、司会者さん」

 私は、司会者に抗議。

「チームメイトにロボット入れちゃいけないってルールブックに書いてなかったわ。ねっ、司会者さん」藍野さんはしたり顔。

「私達そんなルールブック見せられてないですよ」

 凛花さんは料理を作りながら「そういえばそうね」とのほほんと答えた。

「ほら凛花さんも言ってますし」

 私は凛花さんの答えもあって司会者にさらに抗議する。

『そ、そうですか・・・』

 司会者の目はスタジオの外の監督と思われる方へ向けられた。監督はそれを見て司会者にカンペを出していた。{そっちで何とかしろby監督}司会者はその指示を見て、焦っていた。私はそのやり取りを見てこの無茶ブリ可哀そうだな司会者さん。

「ここは、皇帝に判断してもらいましょう」

『あ、逃げた』

 私は心の中で思った。芳賀君はどう判断するのだろう。

「あ、別にいいんじゃないですか」

「皇帝の判断はOKのようです」

『おい、さっきまでの棒皇帝はどうしたのよ。素に戻ってる』

 私は心の中でツッコむ。

「ありがとうございます。芳賀様」

 藍野さんの目はハートになっている。心酔しすぎでしょ。藍野さんは芳賀君の言葉にスイッチが入ったようでロボコックさながらのスピードで調理をし出した。

「あのスピード、凄い」

「料理はスピードじゃなくて、味と愛情よ」

 私は藍野さんの調理スピードに驚かされる。しかし、凛花さんは私を諭すように料理しながら語りかけてきた。

 私は、フライパンで炒めた玉ねぎがこんがりしてきたので、調味料とベーコンを加えさらに炒める。いい感じになってきたところで

「それぐらいでいいわよ、亜里沙ちゃん、ご飯入れて、トマトピューレ入れて混ぜて」

「解りました、凛花さん」

 私は凛花さんに指示でトマトピューレ入れてご飯と混ぜた。玉ねぎの香りとトマトの香りが鼻に入ってきていい香りがした。美味しそうな匂い。

 フライパンの中の物を混ぜ、段々とライスが出来上がってくる。

「美味しそう」

 私は呟く。

「でしょ、でしょ。あぁ、後。卵は私がふわふわの物を作るからね」

 凛花さんは私の言葉に鼻高々だった。


「私達だってあれぐらい楽勝よ。やるわよ、まいんちゃん」

「OKデス」

 藍野さんのチームも食材を揃えた。

 調理開始。

 調理後、30分・・・・


「出来たわ」

「出来マシタネ」

 そこには、オムライスではなく親子丼が出来上がっていた。

「おいーーーーー。どうしてこうなったのよ。どうするのよ」

「ワタシノナカニソノレシピハハイッテイマセン」

「何で。あなたハイスペック調理ロボ『まいんちゃん』でしょ」

「ワタシノメモリーハ64kbデス」

「メガドライブか。どうするのよ、時間」

 藍野さんは頭を抱えていた。


  ドーーーン


 調理終了のドラが鳴らされ、「調理時間終了です」司会者の言葉で終了の合図を出す。

 そして、両チームの調理が終了した。

『それでは実食です。両チームの料理を皇帝に』

 両チームの料理が皇帝の所に運ばれた。

『まずは藍野チームのオムライス実食です』

 芳賀君が藍野さんチームのオムライスの蓋をあけた。

「ん?」

 芳賀君はまじまじと料理を見ていた。

『おおっと。これは親子・・』

「それは和風のオムライスです。ほら、ご飯の上に卵がのってるでしょ」

 藍野さんは司会者のセリフを遮り、言葉を上乗せした。藍野さんは目くばせをしてディレクターに訴えかけた。

 ディレクターもその訴えに気付くと司会者にカンペを出した。司会者もそのカンペに気付いたのか『なるほど、和風のオムライスと言う事ですね』と納得していた。

「ちょっ。司会者えこひいきすぎる」

「だから大丈夫だって」

 凛花さんは私を宥めてくれた。しかし、この余裕はどこから来るのか分からない。

普通に作ったオムライスなのに。

「なるほど、和風のオムライスなんですね」

 芳賀君が感心して、料理を見ていると藍野さんは羨望の眼差し芳賀君の食事姿を見ていた。

「そうです。わ・ふ・うのオムライスをご堪能を、皇帝様」

 藍野さんは膝まづく。私は藍野さんの行動が怖い。やり過ぎだよねあれ。

 芳賀君は藍野さんが作った親子丼もとい和風のオムライスをスプーンですくい口に運ぶ。

「んーーー。卵がほくほくで美味しいです。この親子・・」

「和風のオムライス」

 芳賀君の言葉に藍野さんが被せる。

「ご飯との相性。出汁の効いた卵。中々の物だ。余は満足だ」(棒)

「ははーーー」

 芳賀君の棒セリフに藍野さんは跪いていた。

「おいおい、そこまでする?」

 私はその姿を見て、唖然。

「これ、本当に勝負になります?凛花さん」

「楽勝よ」

「本当に?」

 私と凛花さんが雑談して待っていると、そこへ司会者から

『次は東雲チームのオムライス実食です』

 と伝えられ、私達は芳賀君の方を見る。

「あの、ちょっといいですか?司会者さん」

『どうしました、東雲チームの凛花さん』

 そこへ、凛花さんがあることを言い出した。

「実はそのオムライス、最後の仕上げがあるんです。その仕上げは食べる前に、この亜里沙ちゃんが行います」

 凛花さんがいきなりとんでもない事を言い出した。

「はぁ?そんな事、聞いてないですよ」

「良いから、いいから、耳貸して」

 凛花さんが私も耳にひそひそ話をしてきた。私はその仕上げについて,

顔が赤くなるのを感じた。

「はぁ?本当にやるんですか?」

「これが最後のスパイスなの。ほら、行ってきて。司会者さんいいでしょ」

 凛花さんは耳打ちをした後、司会者に了解を取った。ディレクターにも確認してカンペでOKを貰い、私は芳賀君の傍に行く事になった。

 私はある物を持ち芳賀君の元へたどり着く。

「あっ、東雲さんどうして此処へ」

「その料理でやる事があるのよ」

 私の存在に気付き、芳賀君が見てきた。私は私たちの調理したオムライスを指さす。

「東雲さんたちのオムライスですね」

「蓋開けてもらっていい?」

「あぁ、はい」

 私のお願いに芳賀君は応えてくれ、オムライスの蓋を開けてくれた。

「よし、やるわよ」

 私は自分に言い聞かせる。

「美味しくな~れ。美味しくな~れ、萌え萌えキュン♡」

 私はその言葉を唱えながら、ケチャップでハートの形を描く。

 私のこの言葉で只でさえ静かなスタジオがここは樹海かと思うくらい静かになっていた。

『・・・・・』

 司会者さんや他の出演者も言葉を失っていた。もう、これ放送事故でしょ。本当に顔を覆いたいくらい、恥ずかしい。

 私は、何事も無かったように芳賀君の前からゆっくりと歩き、自分たちの調理台の方に戻る。

 私が戻ると凛花さんは調理台の陰で腹を抱えて笑っていた。

「完璧。凄く、良かったよ」

 凛花さんは指をbにしてOKを出していたが顔はにやけている。

「笑い堪えてますよね。一生懸命やったんですけど酷いです」

「でも、彼には届いたみたいだけどね」

 私は凛花さんが見た芳賀君の方を見る。芳賀君は私が行った儀式もとい最後の仕上げの姿で停止していた。

「あれ?」

 どうしたの、芳賀君。私は芳賀君の姿に不安になる。しかし、停止していた芳賀君が動き出した。その手に持ったスプーンは私たちが作ったオムライスに手を伸ばす。

「うまいぞおおおおおおおお」

 芳賀君が口に入れた途端、吠えた。こんなの今までの芳賀君は見たこと無い。

『おおっと、これは。皇帝が吠えております。何があったのでしょう』

「この卵のフンワリ感。卵が口に入った時のくちどけが凄い。本当にこれ素人が作ったんですか?」

 芳賀君が料理を食べた途端、饒舌になっていた。凛花さんは芳賀君のその言葉にガッツポーズ。

「後、このチキンライス。お米の一粒一粒にトマトピューレの味がしっかり付いていて、調味料の加減も抜群で旨いぞーーーー」

 私は驚いた。いつもこんなに喋ってないのに、スイッチが入った様に喋っていて怖いわ。

「男の心を掴むにはまず胃袋からだからね」

 凛花さんはさらにガッツポーズ。

「そして、最後の仕上げのトマトケチャップは至高。我が生涯に一片の悔いなし」

 芳賀君は上を向き、吠える。腕を天に上げ、涙を流していた。

「ちょっ、それ。世紀末のある人の死に際の言葉。死んじゃ駄目よ」

 何を言っているんだ、芳賀君は。ただ、ケチャップでハート描いただけなんですけど。しかし、恥ずかしかった。

「もう、これ。勝負ついたんじゃない」

凛花さんは予言。

『おっと。これはどうしたのでしょう。オムライスを食べて皇帝が涙を流しています。そして、饒舌に。何か、やらせっぽいですね』

 司会者さんがメタな事を言い出す。番組側の人がそれ言っていいんですか?

『さぁ、これで二組のオムライス実食終わりました。皇帝には2枚のプラカードを渡してあります。美味しかった方のチームのプラカードを上げてもらいます』

 司会者がそう言うと芳賀君はどちらを上げるか眺めていた。

「こちらのオムライスです」

 芳賀君がそう言ってあげたプラカードには【東雲チーム】と書かれていた。そのプラカードを見た藍野さんはその場で泣き崩れていた。

「うわーーーーーーん。そんなぁ。私が負けるなんて」

「まぁ、楽勝よ。亜里沙ちゃんの最後の仕上げが決め手だったわ。芳賀君の貞操は死守出来たわね」

「別に死守してません」

 凛花さんの揶揄いに私は丁寧に否定する。

 私達が勝利したことで番組的に取れ高が無かったのでフェードアウトする形でこの料理対決は幕を閉じた。

 その後、凛花さんが教えてくれたのだがブヒブヒ動画でフヒ配信というものをしていたらしく、配信日の再生数が60万再生だったそうだ。それに例の萌え萌えキューンのシーンがサーバーがダウンしかけたとある掲示板に書かれていた。そして、掲示板の中では私の言った呪文もといおまじないで祭り状態になっていたそうだ。私もそんなことあるのかと後日その掲示板を見てみたらこんな事が書かれていた。

〈メイド喫茶でしか聞いたこと無いんだけどwww〉

〈リアルに言うやついたんか〉

〈あの言葉って、本当にあったんだ。都市伝説だと思ってたわ〉

〈呪文だろ、あれ〉

〈凛花ちゃん、ペロペロ〉

〈\(^o^)/〉

〈リア充、爆発しろ〉

〈亜里沙可愛いよ亜里沙〉

 等々、書かれていた。この文を見るといつもの掲示板で安心した。

 あの番組の後の事。芳賀君は燃え尽き症候群になっていて、いつものBL小説に覇気が無く、何だこれはという文章が書かれていて心配になる。

 後、私が話しかけると少しよそよそしかった姿に、凛花さんからはあの最終兵器食らったら、芳賀君じゃ持たないよと笑っていた。

 放課後、部室で私もその理由が何となく気になっていたので芳賀君に聞いてみる。

「ねぇ、何で最近よそよそしいのよ?」

「それは、あんな恥ずかしい事をあの場で堂々としてきた亜里沙さんに驚いてしまって、嬉しくて顔を見るのが恥ずかしくって」

 私は気にしていなかったが芳賀君の言葉を聞いて私の耳が赤くなっていくのが分かった。

「芳賀君。恥ずかしい言葉、禁止」

「聞いてきたの、東雲さんですよ。僕は悪くないです」

「あぁー、そう言われるとくやしい」

「今度は僕が東雲さんの為に料理を振る舞う版ですね」

 芳賀君がニコリとした笑顔で言ってきた。

 私は芳賀君の言葉にドキリとする。開けた窓のカーテンが揺れ、私の頬をかすめる風を感じた。

 私はちょっとこそばゆいと思ったがこういう時間が過ごせるのは幸せなんだと思い、BL小説をノートパソコンで執筆をするのであった。

 

 


 

 


 

 



 


  

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