第37話 アイ・・・ (1)
「アイカツかぁ」
私、東雲亜里沙はある雑誌の文を見て、溜息をついた。
「どうしたんですか、そんな意味深なため息ついて。その雑誌、女の子向けの雑誌ですか?」
横から覗き込んでくる男子生徒は、芳賀康太君。私と同じ文芸部に所属していて、なぜか恋人(仮)になっている男の子。
「あぁ、芳賀君か。女の子向けと言うかちょっぴりオタク女子向けの雑誌かな」
「オタク女子向けの雑誌でアイカツですか」
「今はいろんな活があるじゃない。オタ活、押し活、アイカツとかね」
「前の二つは解りますけど、最後のアイカツって何です?」
「まぁ、今だとPCで自撮りした無名のアイドルがwetubeに動画編集して活動してるのよ」
「そういうネットアイドルを発掘して売り出している事務所もあるし、ネットアイドルの方が距離も近いしファンもつくのよ」
「凄い世界ですね。しかし、亜里沙さん詳しいんですね」
「あぁ、その事。この雑誌に書いてあったの」
私は読んでいた雑誌名を見せつける。その雑誌の名前は『FANFAN』。
「でも、珍しいですね」
「そりゃ、私だって年頃の女の子なんだからこれくらいの雑誌読むわよ。そんなにライトノベルばっかり読んでないわよ」
「僕たちも偶の日曜日はオタ活でもしに行きましょうか?」
「芳賀君が言うなんて珍しい。偶にはイイかも。そうしましょう」
私達は今度の日曜日に買い物の約束をした。
その直後、授業開始の予鈴が鳴った。私は雑誌をしまい、授業の準備をして担任の先生を待ち授業に突入する。
そして、時は過ぎ、約束していた日曜日に。
「遅れてごめん」
「遅いですよ、亜里沙さん」
私は芳賀君との待ち合わせの時間に30分も遅れてしまった。昨日の夜はちょっと遅くまでBL小説の執筆活動に勤しんでしまって珍しく寝坊をしてしまったのだ。
「ごめん。昨日に限って小説のネタが湯水のように湧いてきて」
「なるほど。それなら今度その小説を・・・」
「はいはい。今度、読んで下さい。中々いいのが出来たから」
私は芳賀君に親指を立てる。
「凄い自信ですね」
「当たり前よ。自分でもキュンとしちゃったから」
「自画自賛ですか・・・」
「いや、あなたの書く人外BLの組み合わせは私には理解できないわ」
「お互い様って事ですね」
「こんな話してても何も始まらないから行きましょう」
私達は早速お目当ての店に歩き出した。まずは手始めに駅のバスロータリーを2Fへ昇り駅中のあるお店に向かう。
「ここは?」
「アニメイトっていうアニメや漫画のいろんなグッズが売ってるところよ」
「こういうところには来たこと無いですね」
「私は何か敷居が高そうで来づらいのよ。だから、ネットで買い物しちゃう」
「そうなんですか?これなら、同人誌を扱ってる虎の穴より入りやすい気がしますが」
「私にはあそこの方が居心地がいいの」
「同じような気がしますが」
「そんなことはどうでもいいわ。入るわよ」
私はそう言うとアニメイトの売り場に入っていく。続いて、芳賀君も私の後ろについて入店。芳賀君は物珍しそうに周りのグッズを見ていた。
「凄いですね。あ、これちょっと前にアニメ化したライトノベルのアニメのですよね」
「そうね。でも、よく知ってたわね」
「ネットのニュースは色々見てるので情報だけは知ってます」
「なるほど」
私は芳賀君の意見に納得した。私達はグッズ売り場を回り好みのグッズを物色。
そして、あるアニメのグッズの所で足を止めた。
「あ。これ、浅草リベンジャーズですね」
芳賀君が指をさす。その棚には浅草リベンジャーズのグッズが並べられていた。
浅草リベンジャーズは漫画原作。ちょっと前にそれが深夜アニメで放送され最近じわじわ人気が出てきて、今ではちょっとしたブームにもなっている。
内容は、かっこいいイケメン達が浅草で起きる事件を解決していく話。そのイケメン達には色々な能力もち。イケメンの中には過去に戻る能力を持つ者がいるのだけど、その能力で過去に戻り事件を解決し、現代へ戻りその過去を無かった事にする。
その解決が友情、努力、勝利で王道展開で胸圧なの。
「助けるのが大体その話に出てくる女の子なんだけど。偶に、老人や子供に関連した事件を解決する話とか感動するのよ」
「亜里沙さんが漫画読むなんて珍しいですね」
「まぁ、これ結構BL物多いし、これの2次創作のBL小説書いてるの」
「あぁ、それでですか。亜里沙さんは誰推しなんですか?」
芳賀君の質問に私はちょっと考える。私はその質問に行動で示す。私は棚からあるキャラクターのグッズを取ろうとしたその時だった。
私は私の手と謎の手が同時に同じグッズに手を伸ばすのが見えた。
「あっ」
「えっ」
同時に声が出てしまう。私は伸ばした手を収める。
「すいません、どうぞ」
私はそのグッズをこのキャラだと説明したかったから別に欲しいわけでもなかった。私は相手の容姿を見て驚いた。
「こっちもごめんなさい。つい推しキャラのグッズでようやくここで見つけて」
私は小声でつい「かわいい」と呟いてしまった。髪はつやつやの金髪、顔は小顔で色白、小柄。目元はサングラスで隠してるけど、可愛さがにじみ出ている。
「ただ、このキャラの説明をこの男の子にしたくて」
「どうも」
芳賀君が会釈をする。
「別にそれは良いんですけど、このグッズいいですか?」
「は?」
私はその言い方にちょっとカチンと来て言ってしまった。
「その言い方なんです?」
「いや、私このグッズが欲しいだけなのでそんな説明いらないです」
前言撤回。この娘、容姿可愛いけど性格最悪ね。
「推しされてるキャラもこんな子に推されてると思うと可哀そう」
「何ですか。喧嘩売ってます?」
「別にそんなつもりはないですよ。推しに失礼じゃないですか」
「あなた、私誰か知ってる?」
何言いだすのこの娘。痛い娘なの?
彼女は、かけているサングラスを勢いよく取り顔を露にした。
「私よ‼」キリッ
彼女はどや顔でその場に立っていた。私達は誰?という表情で見合わせる。確かに金髪碧眼で可愛いけど。
「誰?芳賀君知ってる?」
「いえ。どちら様ですか?」
私達はつい声に出して聞いてしまった。
「私を知らないですって」
彼女は私達の反応に膝をつき、項垂れる。だけどすぐに立ち上がり、ポケットの中を探り、ある物を私たちに見せてきた。
彼女はスマホのWetube動画を見せてきた。そこには歌って踊るあるアイドルの姿が映し出されていた。
「これ、何です?」
「アイドルの動画みたいね。でも、凄いファンに応援されてるわ、誰?」
私に見せつけてきたスマホを高く上げ、
「わ・た・し。私、アイドルの藍野愛衣よ」
と私達にドヤッてきた。
私達は呆気にとられ「あぁ、そうなんですか」とつい敬語で答えてしまった。
「知らないの?私を・・・」
「そうですね」
「はい、僕も知らないです」
私達の言葉に藍野さんはその場に項垂れ膝をつく。
「私、PCは使用しますけどWetubeそんなに見ないので」
「僕はニュースサイトばかり見てるので、事件とかは解りますけど、Wetubeの事はちょっとうといですね」
その言葉に藍野さんはさらにその場で泣き出した。そりゃそうでしょ。いくらネットをやってても知らない人は知らないでしょ。
「そんなことで泣かないでよ。誰だって知らない事あるわよ。ねっ、ね」
「だって、だって・・・うぐ」
私は泣く藍野さんをあやし、説得する。この藍野さんって面倒くさい。どうしようと思っていると芳賀君がいきなり前に出てあることを藍野さんにし出した。
それは、芳賀君が泣いている藍野さんの顔を上げ、その涙をハンカチを拭った。
「涙を拭いて。誰だって知らない事ありますよ。これから知ればいいじゃないですか」
「あんたいきなり何言ってるの?」
芳賀君の行動に私はついツッコんでしまった。
「僕は泣いている人を嫌なんです。僕が虐めたみたいで」
「まぁ、確かに」
私もちょっと周りを見てみると他のお客さんは私たちの方を見てひそひそ話をしていた。何かこれ、スッゴク気まずい。
「これ、買っていいですから。芳賀君、私達帰ろう」
「そのハンカチ返さなくていいですから。また、どこかで」
私達はネットアイドル藍野さんと別れ、アニメイトを後にした。とりあえず、その後は食事をして、図書館に行って二人でライトノベルを漁り、夕方まで読みふけった。後半はただ二人で読書するだけだったが同じ時間を共有しているって感じが私的に楽しかった気がする。
何て後味の悪いデートだのだろう。前半のあの件が無ければすごく楽しい一日になったのだけど。まぁ、この事は忘れることにしよう。
しかし、この出来事の数週間後に忘れられない事件が起きた。
朝のホームルーム
いつものごとく、朝はクラスのみんなは昨日のTVの話やソシャゲの話している生徒や授業の準備をしている生徒で騒いでいた。
そこへ教室に先生が入ってくる。いつものごとく騒いでいる生徒に「早く席に戻れ」と先生は生徒に促す。そこからはいつものごとく朝のホームルームが始まるのだが今日は違った。
「あー、それから今日いきなりだけど転校生を紹介するね」
先生の言葉にクラスがどよめく。
「こんな時期にですか?」
一人の男子生徒が質問する。
確かに、今は10月半ば殆んどの高校でのイベントは終わっているから、今からなんて珍しい。
転校生が男の子か女の子でクラスがざわめく。
「入ってきなさい」と先生が言うと前のドアから女の子が入ってきた。入ってきた女の子の容姿にさらに騒つく。
「あれ?」
「?」
私と芳賀君はどっかで見覚えのある女の子。小柄で金髪、小顔、色白どこかであった気が・・・
そして、向こうか教壇の前にみんなの前に向き直る。
私は、女の子と目が合った。
「あっ⁉」
私は見覚えある顔で驚いてしまう。
「ああぁぁぁぁーーーーーーー、あなた」
女の子は私を指さして叫んだ。
「あぁ、あの時の」
「誰です?」
横から芳賀君が耳打ちしてくる。
「私達がアニメイトで出会ったアイドルよ」
「あぁ、あの時の推しへの愛が凄い人ですか」
私の言葉で芳賀君が納得していた。教団の前に立っていた彼女は自己紹介を始める。
「私の名前は藍野愛衣。アイドルをやっているわ。そして、そこのあなた」
そして、藍野さんは私を指さし、言い放つ。
「私と勝負しなさい」
「は?何で?」
私の思考は停止する。ちょっと待って、私、あの子に何かした?
「Wetubeとわらわら動画で私たちの料理勝負を生配信よ」
「どうして?」
「そして、この勝負の勝者はこの男の子をものにできる」
「どゆこと?」
私の質問に藍野さんは答えてくれていない。話が嚙み合っていない。
そんな時、藍野さんが芳賀君の手を引っ張り、腕を上げる。
「ハァ?はぁーーーーーーー」
私は驚いて絶叫。
『えぇぇぇーーーーー』
クラスのみんなも驚いていた。先生は「静かにしなさい」と生徒達を宥める。
「そんなに引っ張らないで下さい。痛いです」
芳賀君は藍野さんの手を引っ張りに嫌がっていた。
「どうなってるのよ」
私はさらに混乱。
「ちょっと待ってよ。いきなりそれ無いんじゃない」
そこへ割って入ってきたのは凛花さんだった。
「誰、あなた?」
「ここにいるこの女の子の友達の凛花」
「凛花さん」
私は凛花さんの助け船に少し安心した。
「この女の子は私の物よ」
「おいっ!そこ。人を物扱いしない」
私は凛花さんにすぐにツッコむ。
「あぁ、ごめんごめん。ていうか、この子。料理下手だから、あなたの圧勝よ」
「凛花さ・・・」
凛花さんは私の口を手で押さえる。凛花さんを見ると私に任せてと言わんばかりのウインクをしてきた。
「助っ人?」
藍野さんが首をかしげる。
「そう私が入ることで同じくらいの料理力になる。いい勝負にしたいじゃない。仮にもあなたWetubeで有名なんでしょ。今はいい情報も悪い情報もSNSですぐ広がるんだしさ。これくらいの譲歩はしてあげていいんじゃない」
「そ、そうね。であなたの名前は?」
藍野さんは凛花さんの圧力に圧倒されていた会話の流れを自分のペースに戻そうとしている。
「わたしはメイド喫茶のギャル店員春奈凛花っていうの。凛花でいいよ、よろしくね」
凛花さんは藍野さんに握手を求めていた。藍野さんも凛花さの差し出した手をギュっと握る。
「いいでしょう。あなた達をコテンパンに負かして、あの男の子を頂くわ」
「どうぞ、どうぞ」
凛花さんの言葉に「ちょっと、何言ってるんですか」と私は反論する。
「だって、そうなれば亜里沙ちゃんはワタシのものになるしぃ」
「いつもそうですけど私を物扱いしないで下さい」
「まぁ、それは置いといて。私に任せなさいって」
「では、私のWetubeの収録日に勝負です。今週の日曜日にしましょう」
私は藍野さんのその言葉に驚く。早い、早すぎる。
「じゃぁ、そうしましょう」
凛花さんはその条件で納得していた。
「えっ。早すぎません」
「大丈夫よ、ワタシに任せて」
私は不安でしょうがないが凛花さんは自信満々だった。
「じゃあ。その日で勝負よ」
「望むところよ」
何故か、私ではなく凛花さんが会話の主役になっていた。周りの生徒は「おぉーーー」やら「面白そう」と叫び大盛り上がり。先生も生徒を鎮めるために怒鳴りまくっていて、朝のホームルームが動物園状態。
そんな中、事の発端になっている芳賀君は平平凡凡と次の準備をしている。
「じゃぁ、私はこれで帰るから」
「えっ?学校はどうするんです。今から授業始まるんですけど」
私は藍野さんの言葉に驚いて引き留めようする。
「今日はこれを言いたくて来ただけだから、じゃあ」
藍野さんはそれを言い残すと教室から出て行ってしまった。でも教室はまだ騒ぎ動物園状態。流石の先生もこの抑えられない状況に、もう半泣き。
「どうすんのよ、この状況」
この後、隣のクラスの先生がやってきて激怒し、漸く収拾がついた。そして、先生は生活指導の先生にこっぴどく叱られたと聞かされた。
台風の目であった藍野さんの提案した料理対決は今週の日曜日。
どうなってしまうのか。
後半へ続く・・・
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