第39話 地球は・・・ 閑話
新暦33♂♂年
地球は核の炎に包まれた。
私、東雲 亜里沙は荒野の地をフードを被り、身を屈め歩いていた。廃墟の近くに来たところ、ボロボロになったポスターが貼ってあるのを見つける。
そこには『BL民は滅べ。世界に害悪でしかない』の文字がでかでかと書いてあったポスターを見て、ここもかと私は肩を落とす。今、この世界は核の炎に包まれたことで人は変わってしまった。世界は腐敗し、世界の思想はなぜかBL の排除の方向へ向かっていった。
「何て、酷いの」
私は愕然とした。ここでもかと。腐敗は進行していた。BL好き女子を魔女裁判にかけ、罰せられる。隠れキリシタンならぬ、隠れBLは地下へ逃げ、BLを崇拝する羽目に。こんな世の中、許せない。
「キャーーーーー。止めて」
私が嘆いていると女子の黄色い声が聞こえてきた。
それを聞き、私は声のする方へ。声のする方に向かってみた光景は最悪の物だった。
「それだけは止めて下さい」
「駄目です。これは違法です」
警備女性が跪いている女子に向かってある物を取り上げていた。
「私の大切なBL本です。最後の一冊なの。返して‼」
跪く女性は声を荒げた。
「これはこの場で処分します」
女性警備員がそう言うと女性警備員の裏にいた警備ロボがしゃしゃり出てきた。
「やりなさい。BLB1」
『ハイ。マスター』
警備ロボの胸部が開き、中から裁断機が現れ動き出す。そして、その警備ロボはBL本を胸部に入れ込む。BL本がガシャガシャと言いながら切り刻まれていく。
「キャーーーー。私の家宝が」
さらに、女子は悲鳴を上げ、泣き崩れた。
「辞めて下さい」
私はつい声を出してしまっていた。
「何ですか、あなたは。これは罪を犯した者への裁きです」
「この人は何もしてないじゃないですか!」
「BL本を所持していました。これは有害です」
「別に人に迷惑かけてない」
私は女子を介抱し、女性警備員を睨みつける。
「隠し持っていたことが罪です」
「ここまでしなくても」
「あなたも犯罪者ですね。BLB1やってしまいなさい」
『ハイ。マスター』
女性警備員の指示でロボットが私に近づいてきた。私は女子に離れるようにお願いした。女子は頷くと直ぐに何処かへ逃げて行く。私はそれを確認するとロボットに目線を合わせる。
ロボットは私目掛けて走ってきた。私は身構え、ロボットの右手が私に向かって伸びてくる。
「こう」
私はすかさずその腕をつかみ、アームロックを行った。ロボットは倒れ動かなくなる。ロボットは『ア、ア、アアア・・・』と唸る。
「あなた。こんなことしていいと思ってるの」
「あなたもかかってきたらどうですか?」
私は女性警備員を挑発した。私はロボットが動かなくなったのを確認し、女性警備員との間合いをとる。女子の唯一の楽しみのBLをあんな風に。許せない。
『般若神拳奥義、推し熱狂拳』
私はその言葉を念じ、女性警備員がこちらに向かってくるのを確認。私は女性警備員の懐に飛び込み、女性警備員の眉間に指を押し込む。秘孔を付いた。
ピキーン
女性警備員の動きは止まり、体が痙攣していた。
「何、これ。どうなって・・・」
「あなたの推しの秘孔を付いたわ。もうあなたは推しの事しか考えられない体になったわ」
「そんな馬鹿・な・・・♡」
女性警備員の目が♡になり、身悶えをしている。
「お前はもうイッている」
私は女性警備員に人差し指を指す。
女子警備員は体をヒクつかせ「越前×手塚様、サイッコー♡」と喘いでいた。
「あなた、〇ニスの王子様が好きだったのね。妄想の楽園へ逝ってらっしゃい」
私は、女子警備員を後にして、逃げたと思われた女子を探した。少し行ったところに女子はいた。先ほどの件でうずくまり怯えている。
「大丈夫?」
「え、あっ。は・・・い。でも、でも・・・」
少女は私の方を見て、泣き出した。自分の大切なBLを壊されてしまったからしょうがないとは思う。
私は少女を抱擁し、落ち着かせた。少女は最初、肩で息をしていたが段々と息がゆっくりしてきたのが分かった。
「落ち着いたのね、良かった。あいつは倒したから」
「でも、おねーさんBL公安から目付けられちゃいますよ」
「大丈夫。そんな奴らやっつけちゃうから」
私は少女に笑顔で返す。少女の顔も緩み、穏やかに笑ってくれた。
私はその笑顔にほっとして、少女にある物を見せた。
「これ、あなたにあげる」
「えっ。これって」
私の見せたものは筋肉ムキムキの男たちが抱き合っている表紙の本である。
「ケ〇シロウとレイ様のBL物よ」
「えっ?」
少女は戸惑っていた。
「これは私が描いたBL本。どう?」
「いや、どう?と言われても・・・」
少女はさっきまでの笑顔から急に真顔になる。何か反応に困っているようだ。
「ほら」
「うーーーん。私は筋肉ムキムキのBLはちょっと・・・(小声)」
少女は顔をそむける。
「私はBL文化を絶やさなぬ様、BLを広めている亜里沙、BL伝導者の亜里沙よ」
「あっ、はい・・・た、助けてもらいありがとうございました」
少女はその言葉を言い残すとこの場から去って行った。
私は去っていく少女の後ろ姿を見て、またこのような悲劇が生まれないように打倒
現政権と私は戦っていく。
私は一人マッチョBLを普及すべく、歩き出すのであった。
僕がノートパソコンのキーボードのボタンを『タタタ、ターンッ!』と押す音が部室に響く。
「ふぅ、やれやれですね」
僕は一仕事やり切った感じで気分は晴れやかだった。
「ふぅ、やれやれですねじゃないわよ。何で私が主人公なのよ。しかも、私のBL趣味、ガチムチマッチョじゃなくて細身のマッチョBLが好きなのに。何で北斗の〇風味なのよ」
僕、芳賀康太は東雲さんに進言した。
「そりゃ、やっぱり。筋肉と言ったら、〇ンとレ〇ですよ。肉体美の絡みとしては最強です」
僕は力説し、東雲さんに推した。
「私それ、無理。筋肉もそうだけど、顔の作りが濃いのは萌えないわ」
東雲さんは即答。
「それは〇論尊先生に失礼ですよ」
「もっと、華奢で細身、顔もシャープな感じの子がイチャコラするのがいいわ」
「なるほど、顔がシャープ。あのー、小説ってマンガじゃないんで、それ無理ですよね」
「イメージよ、イメージ。ライトノベルなら挿絵イラストあるじゃない」
「まぁ、確かに」
僕もそれには納得。さらに東雲さんは熱弁した。BLは美しものと美しいものがいちゃつくのを見るのが良いのに、汗臭い男がくんずほぐれつなんて文字を読み想像するだけで泣いてしまうわと。
「なるほど。そう言う事でしたら、キャラの感じを少し可愛くしてみます」
「えっ、イラスト描けるの?」
僕は東雲さんにこの小説の主要キャラのイラストを描いて見せた。
「ふぁっ?」
東雲さんは何とも言えない声を上げ僕のイラストを見ている。これは僕の描いたキャラクターが余りにもうますぎて驚いているのだろう。
しかし、東雲さんの様子がおかしい。僕のイラストで肩を震わせているのが分かった。
「どうしたんです、東雲さん?」
「アホかぁぁぁぁ」
東雲さんの怒号が室内に響く。
「何がですか?」
「何がですか?じゃ無いわよ。このキャラクターのイラスト何なのよ。地獄の〇サワ並に顔のパーツ寄り過ぎだし。顎は学園ハ〇サムみたいにとがり過ぎて怖い。はっきり言って可愛いくない。何か刺さりそうだし」
東雲さんにぼろくそ言われてしまった。まさか、ここまで言われるとは思わなかった。正直、ショックである。
「もっと、可愛いキャライラストにしなさいよ。萌えないわ」
東雲さんはキッパリと僕に言った。
「まぁ、これは僕にとって攻めた作品なんですけどね。まぁ、即興で書いたBLなんで・・・」
「般若神拳奥義って後、どんな技考えてる?」
「例えば、妄想赤顔拳。秘孔を付いてBL妄想して、その妄想から抜けられずその場で悶え死にます」
「BL好きな女性にはいい攻撃だけど、死ぬのは嫌ね」
「後は私服爆散拳ですかね。これをやられると相手の服が爆散し、戦意を喪失させます」
「戦意と繊維かけてるのね。これはBLとは違うけど地味に嫌な攻撃」
東雲さんは僕の案にうなっていた。
「でも。まぁ、面白かった」
うなりはしていたが東雲さんは僕を褒めてくれた。いつもは批判しかしてないのに、嬉しい。
「で、オチとしては最後どうするつもりなの?」
「そうですね。全ての人類がBLにハマる。推しの論争になり戦争がひどくなり地球が破壊され最後は地球のマルトンが爆発して地球が無くなり、全てが終了します」
「・・・」
僕がこの言葉を言い終わった時、東雲さんは無言で震えていた。
「芳賀君、バカぁ?何で途中までの設定でいいかなって思ったのに最後、爆発オチなのよ。さいってーー」
東雲さんは僕をまくし立て、怒ってきた。展開が雑過ぎる。キャラを愛してないだの、僕に対するうっ憤をぶつけてきた。
「結構いいと思ったんですけど」
「前も爆発オチじゃなかった?何でも爆発させればいいと思ってるでしょ」
「確かに言われてみれば・・・」
「今回だけは言わして、ギャグ作品ばっか読まないで。もっといろんな作品を読んで、オチを考えて増やしなさい‼」
東雲さんは僕に懇願してきた。
「解りました」
僕は東雲さんとオチを変える約束をして、本日の部活を終了する。
数日後の放課後・・・
放課後の部室で僕は東雲さんにノートPCを見せる。
東雲さんは真剣に僕の書き直した小説を読んでくれている。
僕はあれからいろんなジャンルの本を読み漁り、オチを研究したどり着いた答えが・・・
「これで終わったわ。何もかも」
私は腐敗した現政府への反抗を行い、漸く新しい新政府が発足。ガチムチBLの布教は良い方向に進んでいた。
そして、私にも同志が増えた。
「行きましょう。亜里沙さん」
彼は芳賀康太。私とは別の流派喜久子十七星神拳の伝承者。この拳法は秘孔を突かれると「喜久子十七歳です。オイオイ」と壊れたラジオの様に何度も唱え、悶絶しイッてしまう。しかも、この拳法は一度秘孔を突かれたら元に戻すことが出来ない恐ろしい拳法。芳賀君は私が布教している時に出会う。
旅先では、いろいろな人に優しく、弱きを助け強気を挫く青年。私はこの出会いによりこの芳賀君に惹かれて行った。
「ちょっと待ちなさいよ」
私が先に行く芳賀君を追いかけようとした時だった。
私は足元の石につまずいてしまい、体勢を崩してしまう。
「んっ?」
芳賀君が私の声に気付き振り向いた、その時。
「⁉」
私は体制を崩したまま、芳賀君の懐に入って行くような形になり
チュッ‼
私の唇が芳賀君の振り向き様の顔に当たってしまう。私はその唇の感触に
顔を赤らめてしまった。
「ちょっ、亜里沙さん。何してるんですか」
芳賀君は焦りもせず、私に言ってくる。恥ずかしがっている自分を現実に戻される言葉を返される。
えっ、焦る私がおかしいの?いい大人がこんな事で焦るのはおかしいの。
「はっ?頬にキスしたんですけど」
「口が当たっただけですよ」
私はさらに混乱。
「さぁ、亜里沙さん。行きますよ」
芳賀君はサラッと流し、前へ進んでいく。これって、私が手玉に取られている。私は芳賀君を追いかける形で付いていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
私達の旅、もとい芳賀君との布教活動は続くのであった。
FIN
「終わったわ」
東雲さんはノートPCの液晶を閉じる。
後日、放課後の部室。今日は部活自体は休みでみんなは帰宅して、僕達二人、僕と東雲さんだけが部室に来ていた。東雲さんは目の前の僕のノートPCのウインドを静かに閉じる。
「どうでした?」
僕は東雲さんの顔を覗き込む。
「ま、まぁ。この終わりなら及第点ってところね」
僕は東雲さんの感想を聞く。そこで漸く安堵する自分がいた。
「そうか。良かったです」
「でも珍しいわね。王道のパターンで占めるなんて」
「まぁ、あそこまで言われてしまうと自分の感性が・・・」
「良かったわ。私の悲痛な訴えが君に届いて」
僕は心の中で胸を撫でおろす。東雲さんが読ん僕僕の小説は何故と言っていいほど、爆発オチかバッドエンドの小説しか見たことが無かったと言われた。ただのBL小説なのに何でそこまでするのが分からないとも。
東雲さんとしては推したちの幸せで終わる方が書いてて気持ちいし、読者もそうであって欲しいと。まぁ、ネットのコメント欄には稀に変わった人がいるから、難しいんだけどねともコメントを付け加えられた。
「こんな終わ方もいいものですね。書いてて安心しました」
「いやいやいや。作者がそんな気持ちで書いてたら読者にも伝わっちゃう」
「でも何で芳賀君の小説の終わり方が変なの多いの?」
東雲さんは僕に素朴な疑問ぶつけてきた。
僕は少し考える仕草をして、ポンッと手を叩く。
「あっ、そうか。最初に母に読んでもらったですよ。で、感想貰ったんです。そしたら、こんな終わりじゃダメって言われて、爆発オチかバッドエンドの小説にしなさいって言われて、ここまで来ました」
「あぁ。あのお母さんね」
東雲さんはそれを聞き、納得してしまっていた。母の母は昔からBL好きの中で伝説の貴腐人と有名で、BL界隈で知らない人はいないと言われている母。
東雲さんも僕の家にお邪魔した時に母に会ったけど、只ならぬオーラの持ち主だったと言っていた。しかも、東雲さんは僕の彼女(仮)なのだが母は僕の本物の彼女されてしまったようだとも言っていた。
まぁ、これで僕が母の呪縛からは解かれて、新しい僕が生まれるのよと東雲さんは拍手をする。
「じゃぁ、この小説で僕も変われたんですかね?」
「そうかもね」
「そうか~」
僕の質問に東雲さんがそう答えると、東雲さんが笑った。その笑いに僕もつられ笑う。
「やっぱり、東雲さんは怒ってる姿より、笑った顔の方が素敵ですよ」
僕が東雲さんの顔を見つめながら言う。
「何言いだすのっ⁉」
東雲さんは僕の言葉に焦り出して、顔を赤くする。
「焦る姿もまた・・・」
「揶揄うのは止めなさい。それ以上言ったら、殺すわよ」
東雲さんは流石に僕を睨みつけてきた。
「もう言いません。物騒な事、言わないで下さい」
僕が言ったことが行き過ぎた行動と知り肩を落とす。
「そう言う揶揄いは止めてよね。芳賀君は普通にしてればいいの」
「何か、すいません。こういう事しないといけないかなぁと・・・」
「私がそういうものを求めていると思った?」
「もちろん。東雲さんの反応がいいので、つい」
僕の答えに「即答かい」と東雲さんは肩を落としていた。
「芳賀君っ、私を揶揄う楽しさを小説を書く楽しさに変えてみなさい」
「はいっ。分かりました」
東雲さんは僕を言い含める。僕は背筋を伸ばし、東雲さんに向かい敬礼をすることにした。
「あっ。そういうのいいから」
東雲さんは真顔で僕を窘める。僕が「はい」と言うと顔が真剣になる。
「遅いっ」
「でも今回書いてて思いました。母の言いなりは書いてて言い方はあれですが楽しくありませんでした。自分でオチを考る楽しさを知りました。後、東雲さんに読んでもらって本当に嬉しかったです」
「当たり前でしょ。妄想して紋々しながら書くから楽しいし、誰かに自分の書いた小説を読んでもらえる嬉しさが最高にいいのよ」
東雲さんは目を光らせ僕に力説する。小説を書くのは楽しいし、面白い。
「だからぁ、自分自身で納得いく小説を書くのがストレスなくていいのよ」
「解りました。頑張ります」
僕は少しはにかみながら、東雲さんに宣言した。
「じゃあ、今日はこれで私たちの活動は終わりにしますか」
窓の外からは遠くの公民館から夕焼け小焼けが小さく聞こえてくる。顔を窓の方に向けると窓の外は日が沈みかけ、夕日が見えていた。
僕達は小説に集中していて、時間が過ぎるのを忘れていたようだ。
「はい。帰りましょうか」
と言うと、僕と東雲さんは部室を後にする。やっぱり小説を書くのは最高だと僕は思う。
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