第31話 銭湯では・・・
〈銭湯では、戦闘をお止めください。 店主より〉
私、東雲亜里沙は私服姿で何故かその張り紙に目を奪われる。銭湯の番台の下に只この一言が書いてあるだけで、どういう意味があるのか説明が書かれていなかった。どういう事?銭湯で戦闘って店主の親父ギャグ?と思い、その場ではどういう意味か解らなかった。
今日は学校帰りに急な雨が降ってきて、帰り道に昔からある銭湯に私、芳賀君、相田君、凛花さん、植田さんの5人に入っていく。昔ながらの銭湯で木製の番台があり、そこには一人のお婆さんが座り、働いていた。
「はい、一人300円ね」
私たちはお婆さんに入浴料を払い、脱衣場へ向かう。銭湯は生まれて初めて入る私には新鮮だった。番台の奥は女と描かれた暖簾をくぐり引き戸を開ける。自動ドアではなく引き戸ってところが凄くレトロな感じ。その奥へ私たち女の子組は進んでいく。奥に進むと広々とした脱衣場が目の前に広がっていた。
「わぁ~、広い」
「これは、いいね」
私は素直に自分の家のお風呂の脱衣場の広さしか知らないのもあって素直に驚いてしまった。凛花さんはこの脱衣場の広さに負けじと裸になっていた。
「はやっ!子供ですか」
「えっ、だってこれならみんなの裸堂々と見れるじゃん。だから、私の裸も見てもらわないと困るよね」
凛花さんは私に右目でウインクしてきた。
「誰も困りません。タオルで隠してください。ほら」
私は凛花さんの裸を隠すよう、タオルを渡す。凛花さんは「ちぇっ」と口をとがらせるとしぶしぶタオルで胸を隠した。
私も服を脱ぎ、かごに服をたたんで入れる。タオルで胸を隠し、私たち三人は準備が完了し、大浴場へ向かおうとした時だった。
「何ですか。これ?」
植田さんは何かを見つけ指差した。その指の先には一枚の張り紙があった。
「銭湯では、絶対に戦闘をお止めください」
近くへ行って私は読んでみる。これ、さっきも番台の下に貼られてたよね。私がそう思っていると。
「あれ?これ、番台の下にも貼ってありましたよね」
植田さんも同じことを思っていたようだった。
「ここまでこんなものを書いてあるなんて大浴場に何かあるんですかね?」
ガラガラ~
植田さんは、何食わぬ顔で大浴場へと繋がる引き戸を開けた。開けた瞬間、中からの熱気が私たちの体に当たった。熱気によって閉ざされていた視界が開けた瞬間。
「⁉」
目の当たりにした光景に私は絶句。私の横にいた植田さんは「何ですかこれは・・・」と言って、目が点になっていた。
「こ、これは」
凛花さんは両手を上げ、目をランランとしていた。
「うほ、この銭湯最高じゃない。ああ、変な声出ちゃった」
銭湯の壁にはカッコいい男の子達が腰タオルを巻いた姿が描かれていた。
「えっ、これ銭湯だよね。何なのこれ」
私が驚愕していると、湯気の中から人影が出てくるのが見えた。
「ようこそ、探偵の軌跡コラボ風呂へ」
そこには、眼鏡を曇らせ、髪をおさげに結んだ女性が立っていた。植田さんは目の前に出てきた女性に「誰ですか?」と質問をする。
「私はここ、『明けの湯』の孫娘の大野湯華よ」
彼女は大野湯華といきなり自らの自己紹介をするとどや顔でこちらを見ていた。私の見た感じ、湯華さんの見た目は私たちより年上に見える。オーラも何だか私たち腐のオーラを感じた。
私は、湯華さんに質問。
「その孫娘の湯華さんがこれを?」
「そうよっ!今、この銭湯の存続がこの探偵の軌跡の企画かかっているの。だから・・・」
湯華さんが言った内容はこうだった。
今、銭湯は大型のスーパー銭湯(温浴施設)にお客さんを取られて、銭湯の存続が危うい。人件費や光熱費が高騰している分、経営が苦しいそうだ。
だから、この『明けの湯』の経営立て直しをかけて湯華さんが企画して、探偵の軌跡コラボ風呂を完成させたそうだ。
そこで私は一つ疑問が浮かび、質問を投げかけた。
「でも、これって原作の使用料いるんじゃ・・・」
「その点は問題ないわ。編集部に行って土下座してお願いしてきたから」
湯華さんは鼻息を荒くして答えた。
「いやいやいや。そんなのでいいんですか?」
「まぁ、多少は使用料払ったわよ。金額は言えないけど」
「でも、凄いですね。まさかこんなところで探偵の軌跡が味わえるなんて」
「こんなところ」
凛花さんは子供の様に目をキラキラさせ燥いでいた。まぁ、私たちまだ、子供ですけど。
湯華さんは、凛花さんの言い方に聞き捨て成らず、凛花さんに対して目で睨みつけていた。
だが凛花さんは気付いていないのか睨まれているのもお構いなしで、喜んでいた。
「ところで、この探偵の軌跡って何なんです?」
「知らないの?」
「わたしもです」
私が知らない事を凛花さんに伝えると植田さんの同じだったようで手をあげていた。
私たちが知らない事に驚いていた凛花さんはゲームの内容を教えてくれた。
「探偵の軌跡はね。今、家庭用ゲーム機で発売されているアドベンチャーゲーム。探偵を育てる学校の一クラスで起こる事件にヒロインは巻き込まれ、イケメンの男の子達と一緒にその事件に立ち向かい謎を解いていって、最後に一緒にいた男の子と行動によっていろんなエンディングを迎えるの。トゥルーエンドにもなればバッドエンドなる。出てくる男の子は6人」
「なるほど、逆ハーレム物。ん?」
私は凛花さんのゲームの説明を聞いて、一つの疑問が生まれた。今の説明を聞く限り、凛花さんにとっては普通のゲームでしかない。いくらキャラがカッコいいとしても男には興味が無い凛花さんにとってがハマる要素が一切ない。
「只の女子用恋愛ゲームじゃないですか。凛花さんは女の子が好きじゃなかったでしたっけ?」
植田さんも私と同じことを思っていた様で今の説明を聞いて、凛花さんに質問していた。
「私が好きなのはそこじゃない。実はこのゲームにはもう一つ特殊エンディングがあるの。それはヒロインの女の子の友達との百合エンドがあるの。しかも隠しエンディングでっ!」
凛花さんの鼻息は荒く、力説により私たちは圧倒される。
「「そ、そうなんですか」」
なぜか、敬語になる私たち。
「何なの、この子」
湯華さんも凛花さんの気迫に圧倒されていた。ですよね。
「この凛花さんは百合で女の子大好きなんです」
私はさらっと湯華さんに凛花さんの性癖について教えてあげたことで、納得。
「あぁ、そう」
「その女の子とのエンディングが滅茶苦茶泣けるの」
凛花さんはエンディングを思い出しながら語り、泣いていた。これは何か変なスイッチ入っちゃってますね。
「で、このゲームが今流行っていると言う事ですね」
「そ、そうなの・・・ぐす」
「この子、大丈夫?」
湯華さんも見ていて、凛花さんの感情のうつり変わり過ぎに引き気味になっていた。
「で、この本来壁絵の富士山がイケメン達の裸姿になってるんですね」
「そう正に、富士山が腐死山に変わったというわけよ。ククク・・・」
湯華さんは含み笑いしていた。私は思う。『あっ、この人も駄目な人だ』と。
「このイケメン達の名前は何て言うんですか?」
「それは私が教えてあげる。左から、江戸川アラン。その隣が明智小三郎。付け髭をつけてるのがエルキュール・アポロ。チューリップハットを被ってるのが金田一耕作。金髪の不良っぽいのが今日真 映太」
その名前を聞いて私が思った事。
「これ、いろんなところに喧嘩売ってますね」
「そういえば、凛花さんの言ってた女の子はここに描いてありませんよね」
「まぁ、その辺は問題ないわ。阿笠恭子ちゃんとの百合展開の想像だけでご飯三杯いけますから」
植田さんの皮肉っぽいセリフにも凛花さんは動じなかった。しかもまだお風呂に入って無いのに鼻血は出てるし。凛花さんは今日も平常運転ね。しかもこれでアイドルって云うのが驚き。
「流石にそんなコアなファンの事まで考えていなかったわ。ごめんなさい」
湯華さんは私たちに頭を下げて謝罪してくれた。
「頭をあげて下さい」
私は湯華さんが本当にこの銭湯を立て直そうとしていることがこの姿勢でわかる。
「とりあえず、お風呂入ろうよ。裸で立ち話なんて体ひえちゃう」
私は話をここで切り、みんなをお風呂に入るよう促した。植田さんはタオルを外し、体にお湯をかけてから大きな湯舟浸った。
「はぁ~、いい湯ですね」
凛花さんはというと私のタオルを引きはがし、湯船に投げ込まれた。
「きゃっ。まだ、体洗ってないんですけど」
「そんな事いいの。ひゃっほー」
凛花さんは私を投げ入れた後、自分も湯船に飛び込んだ。湯船のお湯は白波が立ち、植田さんがお湯をかぶる。
「ちょっと、凛花さん静かに入って下さい」
植田さんは少しキレ気味に言ってきた。ですよね。
「まあ、ゆっくりしていってね!!!」
湯華さんは床をデッキブラシで磨きながら私たちにウインクしてきた。
「あー後ね、今日。BOYAKIで数人の女子に声かけてるからさ。まだ、運営の改善点をアンケートしたいし。それから本格的に宣伝してOPENしたいから」
「はー。そうなんだ」
凛花さんは湯船につかりながら、気持ちよさそうに声をあげていた。
「へ―、そうなんだ。って。私たち、先に入っちゃいましたけど。いいんですか?」
「あぁ、いいの。いいの」
私は湯華さんの言葉に尊敬してしまう。そこまで考えてるのかと。
「しかし・・・。この壁の絵は何か私たちを見られてるみたいで嫌ですね」
「そうですか。私は何とも思いませんが。はぁ~」
私は率直な感想をのべるも、植田さんは何とも思っていない様だった。
とりあえず、私たちは湯船の中でまったりすることにした。
数分後・・・
「わぁ。凄い」
「ふぁー---。ここは天国よ」
数分が経過し、数人の女子たちがぞろぞろと入ってくる。その女子たちはキャッキャッと歓喜の声をあげながら入ってきた。
湯華さんがその数人の女子たちに説明をしていた。
私の腐女子アンテナが反応する。
「中々レベルの高い腐女子かもしれない」
「ホントに来ましたね」
植田さんは湯華さんの言葉が嘘だと思っていたのか変な言い方をしていた。
この子、ホント言葉選びが危ないわ。聞いててひやひやする。敵を作るのは上手いのね。
「結構、好みの子いる」
「凛花さん、その発言怖いです。一般の方には手を出さないで下さいね」
「東雲さんならいいの?」
「ダメです」
凛花さんの質問に即答し、その言葉を聞いた私は湯船の中で距離を取った。
そして、ここからがこの銭湯に地獄の始まりであった。
最初は、湯華さんもみんな楽しそうに推しの壁絵を眺めながらうっとりしている姿を見てこれなら推しをひたすら眺めながら、楽しくお風呂に入れるなと思っていた時、事件は起きた。
「ちょっと、あなたの推しアラン様でしょ。明智様の前に入らないでよ」
「別に推しの前じゃなくてもいいでしょ」
「ダメよ」
二人の女性は言い争いを始めた。私はそれを横目で見ていて、雲行きが怪しくなってくるのを感じた。
「何か、わくわくするわね」
「しないで下さい」
凛花さんも二人の女性のやり取りをソワソワしてみていた。私はその争う女性二人から少し距離を取った。関わらないようにしよう。
「ちょっと触らないで」
「あんたも触らないでよ」
私は直感的にヤバさを感じた。
女性たちはお互いの身体を押して退かそうとする。「何するのよ。痛いわ」「五月蠅いわね」とお互いの髪を引っ張り合いだした。
キャットファイトが始まった。
この流れはまずい。非常にまずい。
そして、事態は最悪の展開に・・・
「何よ」
「お前だろうがやったんだろうが」
今まで黄色い声がどすのきいた怒号へと変わった。私はその変わりかたに驚いてしまう。さっきまでキャッキャウフフって楽しそうだったのに。
まさに天国から地獄。
「どうなってるのよ」
ある女性は他の女性の身体を持ち上げ湯船に投げ飛ばす。
またある女性は頭のリミッターが外れたのか、壁のキャラたちにペロペロし出す。あなた、垢嘗めですか。
「これは、ひどい・・・これが最上位の腐女子なの?」
私は目の前の光景を疑う。
「これは、いいキャットファイトね、私も参加してくる」
凛花さんも目をぎらつかせて、「じゃ、行ってくるね」と私にウインク。そして、女子たちの戦争に凛花さんは意気揚々と向かってしまった。
凛花さんその目、怖いです。
「あーあ、行っちゃいましたね」
植田さんの呆れた言葉が私の耳に入ってくる。
「あの子、ヤバいんじゃない?」
湯華さんも呆れていた。
「凛花さんより、数人の腐女子の貞操のほうがヤバいです」
「それもそうね」
湯華さんも凛花さんの今までの行動と言動を見て、納得。私たちがそんな会話をしている時に入口の引き戸が開かれる。
「きゃー、明智様の裸姿」
「こ、これは。正に神」
次の腐女子集団がぞろぞろと入ってきた。そして、腐の狂宴が始まる。推し合戦が始まっていた。
「どうするんですか?これ」
「んー--」
湯華さんは頭を悩ませていた。私の横では投げ飛ばされた女性が犬神家のポーズで沈んでいた。
「こんなの、収集つかないですよ」
「んー--------、はっ!」
湯華さんは何かを思いついたようで指をぱちりと鳴らす。
「そうだ。見なかったことにしよう」
「おいっ」
私は湯華さんの提案に即ツッコむ。
植田さんは我関せずで気持ちよさそうに湯船につかっていた。私は横目で植田さんの神経の図太さに感心してしまう。
この銭湯の女子風呂は今、この世の地獄と化していた。
腐女子ってこんなに行動派でしたっけと私が疑問に思った。
その時。
「静まりなさい。愚民ども」
その声で大浴場が一瞬で静まり、動きが止まった。その声の主に視線が集まる。
その声の主はまさかの植野さんだった。
「えっ!」
私は意外過ぎる人物に思わず声を出してしまった。
植野さんは声を出した通ったら、素っ裸で浴槽から上がった。その勢いは勇ましく女の子と疑問が浮かぶまである。
そんなことを思っていると植田さんは探偵の軌跡のキャラのイラストが描かれていた壁絵の前に立った。植田さんに視線が集まる。
「お風呂は静かに入り、ゆっくり浸かってじっくり楽しむ。私のおじいちゃんの教えです。あなた達の争いの根源はこのイラスト。湯華さん、そうですよね」
「まぁ、そうだと思うよ」
植田さんの質問に湯華さんは、頷いた。
「あの子ってあんなキャラだったっけ?」
湯華さんは私に耳打ちして聞いてきた。私はその質問に首を横に振る。しかし、植田さんのあんな姿初めて見た。どうなってるのよ。
「そんなあなた達には、こうです」
そう言うと植田さんは探偵の軌跡のキャラのイラストに目をやるのが見えた。私は植田さんの行動を目で追う。
植田さんはキャラの乳首の部分を削り出した。
「きゃ---、止めて---」
「止めてください」
「明智様の乳首が・が・が・が・」
それを見た腐女子達は泣き叫び出した。一人は壊れたレコードみたいに同じところで繰り返し。まぁ、自分の推しが痛めつけられているは見ていられないのだろう。
これは鬼すぎる。
そして、植田さんは止まる事は無かった。植田さんはすべてのキャラの乳首部分を剥がし終わる。私と凛花さん以外は絶望し項垂れていた。
「こんなことで、場を収めるなんて」
湯華さんは驚いていた。
「確かに前のモニターさんもあの壁絵で発狂して、暴れててその場を収めるの大変だったのよ」
「前も同じ事あったんですか?」
湯華さんは「うん」と私の方を見て頷いた。
「おい」
私はつい年上の暴言を吐いてしまった。
「だってみんな、あの壁絵見るとうっとりしてるんだもんいいかなぁと思って」
「この暴動の発端はあの壁絵じゃないですか。改善してくださいよ」
「改善したわよ。ほら、番台に貼ってあったでしょ。銭湯では、戦闘をお止めくださいって」
「あんな張り紙じゃ、解りませんよ。私が見た時、ギャグかと思いました」
「それにしても腐女子のみんなは恐ろしいわね。押しに対してここまでするとか」
「いや、話聞けよ。その腐女子を利用して、銭湯の再建をやろうとしてる人が言うセリフですか?」
流石に私もキレそうになる。
「これはあの壁絵が原因なんですから、変えましょう」
「変えるって、どう変えるのよ」
湯華さんはまた頭を悩ませて魘されていた。そこへあることを提案する声が聞こえた。
「今、この絵は腐女子には刺激が強すぎるんです。だから、浴衣着せてキャッキャウフフぐらいの方がちょうどいいんです。腐女子はその方が妄想が膨らんでより一層一人で楽しめます」
「なるほど」
「へー--」
私たちは感心してしまった。その言葉を言ったのが意外な人物だった。
「植田さん。何でそんな事が・・・」
「今の現状を客観的に見て、考察すればわかります」
植田さんはどや顔で言ってくる。素っ裸で言われると妙な説得力があるような気がした。でも、いつもの植田さんじゃないよねと私が思っていると。
「腐女子には刺激が強すぎて、反応し過ぎてしまうのか。何という化学反応」
湯華さんは植田さんの理論に感心している。その理論トンデモ過ぎやしませんかね。
「根拠はあるの?」
私は気になったので、植田さんに聞いてしまった。
「何となくです」
「無いんかいっ!!」
植田さんはキッパリ答える。私は植田さんの答えに思わずツッコミを入れてしまった。私もここで植田さんの言った周りを客観的に見ることしたのだが。その時、私の中に電流が走る。私はあることに気付いたのだ。
「あっ‼」
「どうしたんだ?」
「いや・・・何でも無いです・・・」
私は湯華さんに質問されたが、サラッとそれを流した。これは私の考えであって、あくまで推測でしかない。でも・・・
恐らく、その原因は”胸(バスト)”ではなかろうかと私は推測した。周りの腐女子さん達のバストは見た感じ、Bくらいのサイズであろう。片や植田さんのバスㇳは今までまじまじと見たことを無かったが大きい。制服姿では解らなかったけど、着やせするタイプなのだろう。
「うーん、Dカップかなぁ」
凛花さんは気配を消し植田さんの背後に周りこみ、胸を鷲掴む。
「何するんですか、凛花さん!」
「植田さん、案外大きい。制服の上からじゃ解らなかったけど、着痩せするタイプね」
植田さんは凛花さんの行動に顔を真っ赤にして怒っている。ってか、凛花さんホントに何者ですか。アイドルじゃなくて忍者。
「顔真っ赤にして、可愛い」
「揶揄わないで下さい、凛花さん。あなたの息の根止めましょうか?」
植田さんは先ほどの表情は無く、無表情で口だけ笑っていた。それを見た凛花さんも流石にヤバいと思ったのかすぐに手を離す。
「ごめん、ごめん。ね、怒らない、怒らない」
凛花さんは植田さんの怒りを鎮める為に謝り倒している。
「しかし、こんなところで胸囲の格差社会が見れるなんて思わなかった」
私は目の前の光景に正直驚いていた。学校の放課時間、ある男子生徒が何かのアニメで胸囲の格差社会と騒いでいたことを思い出す。そのアニメの中では胸の大きさで人権があるという話のアニメだった。
アニメのフィクション、こんなのあるわけないじゃんくだらないと笑って見ていたのに。その当時、ネットの中でもいろいろネタにされてたけど。事実は・・・
「事実は小説より奇なり」
「え?」
私の思っていた言葉を発した人がいた。私はその言葉の発せられた方向を振り返る。湯華さんだった。湯華さんは自分の胸を眺め、何かを言い聞かせているように見える。
何か思うところがあったのかなと私は思った。
その後・・・
暴れていた腐女子さん達を植田さんの一声で怒りを鎮めた。すぐに湯華さんは女湯内にいる腐女子さん達を脱衣所に誘導し、今回のモニターを終了する旨を伝えて退店してもらった。
そこから、湯華さんは植田さんのお告げ通りにお風呂内を改修した。出版社側とも話をつけ、壁絵の修正をかけた。そして、満を持しての腐女子の為の銭湯がOPENした。
植田さんの鶴の一声が反映されたことにより、意外にも前みたいな争いも無く平和な銭湯になったことを湯華さんは驚いていた。湯華さんから聞いた話だとお婆さんはみんな(腐女子さん達)が幸せそうな表情で湯船に浸かっているのを見て「久しぶりにこんな繁盛している銭湯何年ぶりだろうねぇ」と喜び涙していたと聞いた。まぁ、違う意味で幸せそうな表情だったんだろうなと私は思う。
今では、あの番台の下の『銭湯では、戦闘をお止めください。 店主より』の張り紙は取り外されている。男湯の方は女湯が繁盛している事でお客さんも増えてきたらしい。
その後も銭湯は盛況で湯華さんは銭湯限定のグッズも始めたみたいで、そっちの方も好調のようだ。あの銭湯の悪夢の日からこうなるとは思わなかった。それから、私と湯華さんはBOYAKIで友達になり、ちょくちょく私たちも銭湯に行っている。
湯華さんは、BOYAKIでこう呟いていた。
『ありがとうございます。乳神様』と。
私はスマホに「オイッ!」小さくツッコミを入れたのだった。
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