第33話 銭湯では・・・ 番外編

「銭湯では戦闘をお止めください。 店主よりでござる。駄洒落ですかね」

「さぁ、何でしょうね。はい、お婆さん300円」 

 芳賀殿は番台に座っているお婆さんに入浴料渡していた。我は相田優作。今日は芳賀殿たちと学校帰りに雨に降られた時、目の前に銭湯があった。ここで少し雨宿りをしようという提案で今ここにいる。我は最近まで友達と帰った事が一回も無かった。最近では芳賀殿たちと休み時間にお喋りしたり、学校を一緒に帰ったりと学生ライフを満喫させてもらっている。

 我も入浴料を渡し、いざ脱衣場へ。

 我々は脱衣場に入り、ロッカーを見た。

「服はこのロッカーに入れるのでござるか?」

「そうじゃないですか」

 如何せん我々は銭湯もとい集団浴場に来るのは生まれて初めて。どれをどうすればいいか迷っていると通りすがりのおじいさんが教えてくれた。

「そこに服を入れて、服を入れたら100円を入れて鍵をかける。そして、その鍵は手首につけて入るのじゃ」

 そのおじいさんは裸で浴室の方へ去って行った。何かカッコいいでござる。

「じゃぁ、ここに服入れて入ればいいんですね」

「そうでござる」

 芳賀殿は制服をたたんでロッカーに入れていた。今まで、芳賀殿の裸を見たこと無かったがほっそりとした筋肉質で引き締まって見える。これは文芸部の身体ではないでござる。

「芳賀殿の身体は凄いでござるな」

「そうですか?何もしてませんけど」

 そして、芳賀殿がパンツに手を伸ばした、次の瞬間。芳賀殿の股間部分から光が漏れ出していた。

「うおっ、眩し」

 我は直ぐに目を手で覆う。

「どうしたんですか?」

「えっ」

 芳賀殿は何かありました?みたいな顔で我を見てきた。我は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてしまう。

「えっ、え?見えて無いでござるか?」

「何を言ってるんですか?さっ、行きます。」

 芳賀殿は真顔で答えてきたことで我は確信へと変わった。自覚が無いでござる。今は腰にタオルを巻いているので発光現象は見えない。芳賀殿のタオルを取らせない事を我は秘かに心の中で決意する。これは兵器でござる。

 芳賀殿は浴室に歩き出す。我も急いで服を脱ぎ、芳賀殿を追いかけるように浴室に向かった。扉を開けるとそこには大きな湯舟がドーンと広がっていた。

「わぁ、大きいお風呂ですね」

「我も漫画やアニメでしか見たこと無かったでござるが、家のお風呂より広いでござるな」

 我は周りを見渡すと数人の利用者がいた。老人や子供、若人と意外に年齢層が広くてびっくりする。

 我々はとりあえず体の汚れを洗い流すために洗い場に向かった。洗い場は変わった形の蛇口とシャワーが常設されていた。見た感じでは大分使い古された感じの物に見える。

「古いですね」

 芳賀殿は物珍しそうに眺めていた。

「何だ、あんちゃん。珍しそうに見て」

「あぁ、はい」 

 芳賀殿は後ろから声をかけられて、驚いていた。後ろに立っていたのは白髪が際立つ老人が一人立っていた。我も驚き、一緒に振り向く。

「ここの銭湯はな。番台に座ってた婆さんが30年以上続けてる銭湯なんだ。だから、老朽化で設備も古くなってるんだよ」

「そうなんですね。教えていただきありがとうございます。で、あなたは誰ですか?」

「わしはここに通う常連客だ。銭湯で解らない事があったら何でも聞いてくれ」 

 常連の老人は笑いながら、その場を立ち去り湯船に入って行くのが見えた。芳賀殿は蛇口を開け、体にお湯をかけていた。

 しかし、学校の通学路にこんなところがあったなんて知らなかった。まぁ、我は学校帰りに一人でゲームセンターに行くか、家に帰ってアニメ鑑賞するかしかしてなかった。基本ボッチだか・・・・・・ら。

「どうしたんですか?暗い顔して」

 芳賀殿は我の顔を覗き込んでいた。我が暗い表情を浮かべていたようで、心配してくれていた。今はこんな我でも芳賀殿や東雲殿達の友達がいるでござる。友達と思ってくれているか聊か不安であるが。

「いや、何でもないでござる・・・」

「さぁ。身体も流しましたし、お風呂に浸かりに行きましょう」

「そうでござるな」

 我々は体に湯をかけ、湯船に向かう事にした。

「さぁ、入りましょう」

 芳賀殿はこう言うと湯船に入って行く。

「あぁ、気持ちいい~」

 芳賀殿の顔は緩み、歓喜の言葉を口にしていた。我も続き、湯船に入ることにした。

「あ~ぁ、気持ちいいでござる。体の芯まで温まりますな」

 我もお湯の温度が丁度良く、顔が緩む。しかし、大きな湯舟に大きな壁絵、この壁絵が萌えな絵だったなら、ずっと入っていられると我は思う。その場合は長湯でのぼせる注意がありそうですが。

 なんだかんだで、数分入っていると女湯の方から「ぎゃー--」「ぶべっ!」「あばば~」「どひゃー--」などの叫び声が聞こえてきた。

「何か、女湯の方は楽しそうですね」

「どう聞いても楽しそうな声には聞こえないでござるが」

 絶対楽しそうな声には聞こえないでござる。東雲殿たちは大丈夫であるか心配になるでござる。

「女湯は騒がしいな。江戸っ子だねぇ」

 常連の老人は湯船につかりながら、笑っていた。

「ここは江戸ではないでござるが・・・」

「そんなことはどーでもいいんだよ。がはは」

「ひっ」

 常連の老人は我のツッコミに睨みを利かせてきた。我はびっくりして目をそらしてしまう。

 そんな時だった。

 男湯の引き戸が開かれ、男二人が入ってくるのが見えた。その男性たちは一人は茶髪に口ピアスで大分チャラそうな感じの人、もう一人は顔は角刈りのビシッとした男性だった。恐らく、あっちの方だろう我は推測。そこに運悪く、気の弱そうなお父さんが子供と一緒に体を洗っていたのだが子供が燥ぎ走り出して、案の定男二人にぶつかったことで最悪の展開になる。

「いたーい」

「痛いのはこっちだよ、僕。前見て歩こうや」

 一人の男はニコニコしながら言って来ていた。隣の男はぶつかられた男性に「大丈夫ですか?兄貴」と心配していた。

 我は兄貴という言葉で嫌な予感がして・・・

「おいっ、てめぇ。兄貴がケガしちまっただろうが、あぁん。治療費だせや」

「まぁ、待て。石崎」

 石崎という男が罵声を浴びせたことで子供は泣き出してしまっていた。

「ごめんなさー-い。パパ」

 気の弱そうなお父さんすぐに子供の所に近寄り、顔面蒼白になり土下座で謝っていた。

「子供から目を離すんじゃねーぞ、お父さん。子供は何しでかすか分かんねーからな。なぁ、坊主」

 兄貴と言われている人は泣いている子供の頭を撫で、許していた。気の弱そうなお父さんは何度も頭を下げて親子は直ぐに出て行った。

「良いんですか、兄貴」

「一般人には、手を出しちゃいけねー、石崎」

「は、はい。すいません」

「父ちゃんに迷惑掛けんじゃねーぞ」

 親子の背に兄貴は手を振っていた。めちゃくちゃ怖そうな顔をしているのに優しかったでござる。人は顔で判断してはいけないでござるな。さっきまでは最悪の展開になるかもとひやひやした。

 我は「何も無くて良かったでござるな、芳賀殿」と横を向くと先ほどまで隣にいた芳賀殿がいなくなっていた。

「どこ行ったでござるか、芳賀殿」

 我は慌てて周りを見渡す。見つけた先は何故か先ほどの兄貴と石崎の前に立っていた。何故そこにいるでござるか。

「何をしてるでござるか。・・・何か、無性に嫌な予感がするでござる」 

 我の先ほどの嫌な予感は当たらなかったが・・・

「あななたひ、少年を虐めてはいけまへんよ・・・」

 芳賀殿は目がうつろで呂律が回っていなかった。のぼせてるのでござるか。まだそんなに長湯してないのに。

「何だ、お前。俺たちに喧嘩売ってんのか。あぁ?」

 石崎は芳賀君を睨みつけていた。やばい。絡んじゃいけない人に絡んでしまった。     

我は体の血の気が引いていくのが分かる。とりあえず、他人の振りをしよう。

「相田君も見てまひたよね」

「ふぁっ」

 芳賀殿は何故か我の方に視線を向けてきた。何を言い出すのでござるか。

 我は焦る。我は芳賀殿と目を合わせないように明後日の方を向き、聞いていない振りをした。

「お兄さん、見てました。私たち虐めてませんよ。なぁ、石崎?」

「はい、兄貴」

 兄貴は怖いくらいの笑顔で返答をしてきた。確かに何もしてないでござる。明らかに芳賀殿の言いがかりでござる。

 そして、我は芳賀殿の異変に気付いたでござる。目が写ろになっている事を。

「まさか、長湯でのぼせている?・・・」

「ひっ。やはやは我こそはBLの貴公子の芳賀康太」

「違ったでござる。酔ってるでござる。長湯で酔うなんて初めて聞いたでござる」

 と何故か、腰にタオルのスタイリッシュなポーズで兄貴さん達を煽っていた。

 我は確信した。この人やはり馬鹿だと我は悟る。

「それではこの穏やかな平和の中に争いを起こすものはこの場から立ち去ってもらおう。くくくっ」

 芳賀殿の目が座っているのが見えた。

「こ、こいつ頭おかしいですぜ」

「あぁ」

 兄貴と石崎はずり足で後ずさる。流石に目が座っている芳賀殿は怖い。

「リステーション・ノベル」

 芳賀殿は高らかに声をあげると体をぬるりと揺らし、兄貴に近づいていく。動きが正にブルース・〇ーの酔拳だった。そして、芳賀殿は瞬く間に兄貴の後ろから近づくと耳元で息を吹きかけ、囁き出した。

「〇〇は〇〇のピーを徐に・・・」

「うわぁ、何だこいつ。気持ち悪いな、オイ」

 兄貴は芳賀殿の行動に咄嗟に離れる。

「ウィスパー・ボーイズラブ」

 と芳賀殿は囁く様に言った。只の耳元のBL朗読なのに英語で言ってかっこよく言ってるだけ。しかし、確かにあれをやられたら我も気持ち悪くなる。

「ヤバいですぜ、兄貴」

「こいつは関わっちゃいけない」

 兄貴と石崎は通常の風呂で出ない汗を掻いていた。

「そして、極めつへ」

 芳賀殿がそう言うと腰に巻いていたタオルをひっぺがした。そして、股間が露になる。案の定、何故かは解らないが芳賀殿の股間は謎の光りを放っていた。

「うおっ、眩し」

「何ですか、兄貴。これは⁉」

 兄貴と石崎は目元を手で覆い光を遮り、焦っていた。我は芳賀殿の後ろにいたので光が漏れるくらいで、そんなに感じ無かったが。だがその光の漏れが先ほどの常連の老人にも見えているようで。

「おぉ~。何だこの光は。この三十年銭湯に通ってたがこんなの初めてだ。ありがたや、ありがたや」

 常連の老人は何故か涙を流し、芳賀殿の股間の光に向かい拝んでいた。

 チン〇だけに珍古と・・・

「それ、本気で言っているでござるか?」

 しかし、兄貴と石崎は芳賀殿の異質な行動にもう関わりなたくないという表情が見える。

「あいつ頭やべえですぜ、兄貴」

「あぁ、こいつは関わっちゃいけねぇ。ここから出るぞ、石崎」

「へ、へい」

 兄貴と石崎は芳賀殿を避けてその場からそそくさと出ていった。

「すげぇな、兄ちゃん」

「流石、江戸っ子だ」

「だから、江戸っ子ではないでござる。しかし、ホントに出て行ったでござる」

 風呂の中に入っていたじーさんは芳賀君の行動に歓声を上げていた。

 我は驚き感心していた。しかし、そこで終われば良かったのだが、芳賀殿の暴走は止まらなかった。次のターゲットを見つけると近づき変態行為を始めようとしていた。

「待つでござる。芳賀殿」

 我はそれに気づき、急いで芳賀殿を抑え込んだ。だが、芳賀殿は止まらなかった。

 先ほどの脱衣場での予想が確信へと変わった。何という筋肉量。我だけでは止められない。どうしようでござる。

「止めるでござる。我が高校の恥をさらしてしまう」

「大丈夫ですよ」

 我は芳賀殿の目が座ってることに気付いてしまった。怖い・・・

「どうすればいいでござる」

 我は焦る。どうすれば、どうすれば。

「そこの太ったあんちゃん。連れが頭に血が上っちまったのか?そういう時は冷水ぶっかけるのが一番だぞ」

 常連の老人は我に長寿の知恵というものを教えてくれた。

 なるほど。

 我は芳賀殿を抑えるのを止め、直ぐに水の蛇口を開け風呂桶に水を満タンに注いだ。出来るだけ早く。

 芳賀殿は抑えるものが無くなり、ゆっくりと他の入浴客に近づいていく。早くしないと、第二の犠牲者出るでござる。焦る。焦るでござる。早くしないと。

「これで満水でござる」

 我は水で満タンにした風呂桶を持つと芳賀殿の元へ。見る限りまだ、犠牲者は出ていない様だった。我は無我夢中で風呂桶の水を芳賀殿目掛けてぶっ掛ける。

「東雲殿が悲しむでござる。正気に戻るでござる、芳賀殿」

 我は願った。そして、水を思いっきり頭からかぶることになった芳賀殿はその場で立ち止まる。

「どうかしました、相田君?」

 そう言葉を発したのは芳賀殿だった。我は芳賀殿が正気に戻ったで、嬉しすぎて思わず抱き着いてしまった。

「良かったでござる」

「抱きつくの辞めて下さい。相田君」

「本当に良かったでござる」

 我が安心していると周りで湯船につかっているじーさん達が「良かったじゃねーか、若ーの」と鼻を啜っていた。

 そこ、喜ぶところじゃないと我は心の中でツッコむ。もしかしたら、あんた達が次の犠牲者になっていたかもしれないのにと想像しただけで、悍ましい。

 我は本当にほっと胸を撫でおろす。

とりあえず、あの二人は何もしてないのに風呂に入る前に変なのに巻き込まれて可哀そうだったと思う。只、子供とぶつかって注意しただけなのに。

 そんなこんなで、銭湯での訳のわからないドタバタは終わった。

 我々はその後、湯冷めしてしまうのはいけないと思いもう一回湯船につかり、芳賀殿がおかしくならない様に長湯は避けた。

 そして、体も温まったので我々は大浴場を後にする。

「温まったでござるな」

「そうですね。でも何で相田君は僕に水をかけたんですか?」

「足が滑って掛かってしまったござるよ、あははは」

 我は服を着ながら、芳賀殿と他愛もない話をした。その時の芳賀殿の表情は穏やかだった。

 しかし、芳賀殿のあの奇行は絶対誰にも言えない。言えるわけがない。我の心の中だけにしまっておこうと自身の中で誓った。

 そして、我々はこの銭湯を後にすることにした。

 



 

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