第30話 今日の昼の休憩時間・・・

 今日の昼の休憩時間の事。

 3時限の終了のチャイムが鳴り、午前の授業の終わりを知らせた。先生は授業の片付けをすると、さっさと職員室へ戻って行った。クラスのみんなは授業の片付けをして、各々の昼食準備に取り掛かっていた。

 ある者は購買へ向かい昼食の確保する者、またある者はコンビニで買ってきたコンビニ弁当を机に広げ、週刊漫画を見ながら弁当を食べている者。

 私こと、東雲亜里沙は自分の席でお母さんに作ってもらったお弁当を開けていた。

 私の目の前では芳賀君がお弁当を食べようとしていた。私はここ最近、芳賀君とお昼を一緒に食べるようになっていた。だが今日はいつもと違う人が私たちの昼食に参加していた。

「何で、相田君がここにいるの?」

 私はしれっと相田君の横に陣取って昼食の準備をしていた。

「僕は芳賀殿の友達でござる。一緒にご飯を取るのは当たり前でござるよ」

「別に一人で取ればいいじゃん。私たち二人で食べたいんだけど」

「一人で食べるご飯は寂しいでござる」

 私が強気で言うと相田君はしょんぼりして答えてきた。

「別にいいじゃないですか、東雲さん。可哀そうですよ。それにみんなで食べるの楽しいじゃないですか」

「ありがとうでござる、芳賀殿。寂しかったでござる」

 相田君は芳賀君の言葉に感動し、泣きすがった。

 【相田君はお昼の弁当を食べる仲間になった】と私にはRPGのゲームのコメントが見えたような気がした。

 私たちはちょっとした寸劇が終えると昼食を食べ始める。芳賀君の昼食は私と同じでお母さんに作ってもらったと思われるお弁当で可愛く仕上がっていた。

「芳賀君、そのお弁当可愛いわね」

「そうですか。母が最初キャラ弁作ってくれたんですけど、それ止めてこれにして貰ったんです」

「そうなの?どんなのよ」

「これです」

 芳賀君はスマホの画像を私に見せてきた。私は口の中に入っている物を吹き出しそうになる。咄嗟に私は口を押えた。

「ぶっ!」

 その画面にはご飯の部分に海苔で作ったと思われる絵が映し出されていた。相田君も私が見ていた画像をのぞき込むと「これは男性と男性の顔が近い海苔アートでござるな。これは上手い」と手に握っていたクリームパンを食べながら感心していた。

 私も吹き出しそうになった口に入っている物をよく噛み飲み込む。

「これはBLキャラ弁ね。しかも、結構な力作」

「僕が流石にBLが好きとはいえ、流石にこのお弁当をここでは食べれません」

「「まぁ、確かに」」

 私と相田君は芳賀君の言う事に同意せざろうえなかった。しかし、今までの芳賀君とは思えない常識人ぽいところにも私は感心する。

「で。このお弁当はどうなったの?」

「家で母が食べてると思います」

「あっ、そうなんだ」

 私は芳賀君の答えを聞いて、安心する。でも、あのお母さんの事だからお弁当見ながら「我ながら傑作ですね」って言いながら、うっとりしてそうなのが想像できる。

 そして、私たちは再び食事を始める。みんな、先ほどの会話以降、喋らずに黙々と食べて、20分ほど過ぎた頃だった。

 相田君の口が開く。

「僕は恋をしたでござる」

 相田君が思いもよらぬ一言を口走った。

「「?」」

 私と芳賀君は相田君の言葉で昼食の手が止まる。

「相田君。いきなり何を言い出すの」

「どうしたんですか、相田君」

「ゲームセンターで起きた話でござる」

 相田君はそう言うと徐に自分語りを始めた。


 僕は学校帰りのあるゲームセンターで格闘ゲームをしていた。そのゲームは『貧血寺一族 輸血争奪戦』という少しレトロを匂わせるドット絵の格闘ゲーム。

「貧血寺 舞は可愛いでござる」

 僕は一人、格闘ゲームを楽しんでいた。

 その時。

 そこに画面が突然切り替わり、【対戦者、現る⁉】と画面に表示された。

「誰でござるか。僕が一人楽しんでいるのに」

 僕は愚痴を溢しながら、対戦台の相手の顔を覗き込もうとしたが丁度見えなかった。見ようとしていたら、相手は自分の使うキャラクターを選んでいた。

「このキャラクターは」

 僕は相手の使用するキャラクター見て驚く。

「プロレスキャラクターのイーグルマスク。このキャラは上級者向け。なめてるでござる。コテンパンにしてやるでござるよ」 

 僕は制服を腕まくりして、戦闘準備万全だ。


 5分後・・・


「なんですと・・・ば、馬鹿な」

 僕のキャラクターの舞は画面の中でK.Oされた。

 僕の舞はここのゲームセンターでは中々の強さで別名”貧血の眼鏡”の名前で通っている。まさかこんなことがあるなんて・・・ありえない。僕は焦った。

「これは勝たねば」

 僕は対戦台にコインを投入。もう一度、対戦を申し込む。さっきは油断していたが今度は本気で行くしかないと思い、僕はレバーを握りしめゲームに集中した。

 そして・・・


「どうなったの?」

 私は昼食を取りながら、身を乗り出した。

「5戦全敗だったでござる」

 相田君は私の質問に悔しかったのであろうか伏し目がちに答えてくれた。

「気分を悪くしたならごめんなさい」

「別にいいでござる」

「でも、それが何で恋になるのしょう?」

 芳賀君が相田君の話に疑問が浮かび質問した。確かにそうだ、そこからどうやったら恋になるのか私も不思議だった。

「ここからでござる」

 相田君は息を整える。




「誰でござるか」

 僕は連戦連敗で悔しくて、相手の顔を覚えておこうと対戦台の相手の顔を一目見ておこうと覗き込んだ。

 その時、僕の心臓はドクンと唸った。僕の目の前には眼鏡をかけた三つ編みおさげ髪の女子がそこに座っていた。分かるのは私立星光女子高校の制服。しかも、あそこの学校はお嬢様学校で有名な所。

「何ですか?」

 その女子は僕の顔を見つめ聞いてきた。いきなりの質問に焦る。しかも、女子と喋るのは僕にとっては修行。次の言葉を・・・




「ちょっと待って。今、相田君、私と喋れてるよね」

「東雲さんは女子とは程遠き存在」

「おいっ。サラッと酷い事言ったよね」

「まあまあ、東雲さん。まずは続きを聞きましょう」

 芳賀君が私をなだめ、話を先に進めるように相田君に促す。




 次の言葉を考え、僕は頑張った。

「す・す・すいません。ど・ど・どのような方がやられているのか気になっておりまして」

「あ、そうですか。どうですか?私は強いですか?」

「はひ」

 彼女はニコリとして僕を見つめてきた。僕はたじたじになりながら答えを出したが、動きがなぜか縦揺れをしてしまった。これは、どう見ても僕が不審者にしか見えないと思うのだが彼女は毅然とした態度で僕と会話を続けてくれた。

「そうですか。もっと、強い方と戦いたいですね」

「おつぅよいと思われます。ぶひっ」

 僕は緊張のあまり、変な言葉が出てしまった。

「面白い方ですね、ふふっ」

 彼女は僕に優しく微笑んでくれた。

 ズキューーン 

 僕のハートは彼女の笑顔とともに心を矢で打ち抜かれる感覚。何だ、この感覚は。可愛いただその一言。

「ふぉおおおおおお」

「だ、大丈夫ですか?」

 僕の体はのけぞってしまう。それを見た彼女は僕を心配して抱き起してくれた。僕の興奮度は完全に鼻から血が噴き出していた。僕は女子に抱き起されたことが無く、女性への免疫が無いことだった。



「面白い。それからどうしたのよ、相田君」

 私は興奮し食事の手を止め、相田君に身を乗り出して聞いてしまった。女子は基本他人の恋話は好きものである。恋愛小説のネタにもなる。相田君も語りに集中していたが私の食い気味の反応に怯えていた。

「ど、どうしたでござるか、東雲さん」

「その先の展開はどうだったのって聞いてるの」

「話的に小説のネタになると思ったのではないでしょうか」

 芳賀君は私の思考が分かったのか相田君に説明をしていた。流石「同じ穴の狢」と言いたいところだけど、何か思考が読まれているのが恥ずかしくもあった。

「う、うるさいわよ、芳賀君。で、どうなったの、相田君?」

「あ、頭が・・・」

「で。どうだったのよ?」

 急に相田君が私から目をそらしたのを見て、私は追及した。その先の展開が気になって箸が進まない。芳賀君は興味ないのか、昼食を黙々と食べていた。

「そ・そんなに見つめないで下さいでござる。恥ずかしい」

 相田君は手で顔を覆う。私はじらされて、イライラしてきた。

「おい。早く教えなさい」

 私のイライラに気が付いた相田君の頭からは汗が滲み出てきていた。

「何で、汗かいてるの、相田君?」

「じ・・・実は。・・・・・・・・・・・・・・・・・・今日の夢の話です。はい」

「はぁ?夢」

 私は長い沈黙の後の相田君の言葉に目が点になる。

「はい、誠に申し訳ございませんでした」

 相田君はいきなりその場で土下座を始めた。えっ、何やってんの?私は相田君の行動を見て、驚いてしまった。

「いきなり、何?」

「理想の女の子の写真を枕の下に入れて寝てたら女の子とイチャイチャする夢を見れたでござる」

「小学生かい。えっ、ちょっと待って。まさかの夢なの」

「はいっ」

 相田君はすぐ返事をして、さらに小さくなり再び土下座。周りの生徒達も昼食を楽しんでいたが、昼食の手が止まり注目される。私への相田君の土下座で、教室がどよめいた。何かみんなの視線が痛いんですけど。

「ちょっと、顔上げてよ。この絵図ら、どう見ても私が相田君を虐めてるみたいじゃない」

「本当にごめんなさい」

 相田君はさらに土下座で床に頭をこすりつける。状況はさらに悪化。

「お願いだから、顔をあげて」

「ダメでござる。嘘をついてしまったでござる。噓つきは泥棒の始まりでござる。何でもしますから」

「何もしなくていいから頭上げて。変な誤解が・・・」

 私は無理やり、相田君の顔を引き上げようとするが力が強い土下座を阻止できない。

「もう、これは夢落ちってことですね」

 芳賀君が焼きそばパンとコーヒー牛乳を両手に持ち、どや顔で答えてきた。何かそれ無理やり落としにきてない?芳賀君の言い方に凄く、腹立つんですけど。

「東雲さんもありませんか?二次元の男子とイチャイチャした夢を見たこと」

 芳賀君は私に質問してきた内容に妙に棘がある言い方がイラっとした。

「無いわよっ!あるのは私がイケメンたちがBLしてるのをデバガメしてる夢だけよ。その情景を覚えてて前、小説にしたわ。ふんっ」

「いや、それ威張って言える事ではないのでは・・・」

「何っ」

「な、何でも無いでござる」

 私は相田君が言いたい事を睨みで静止した。相田君はさらに土下座の時より小さくなるのが分かった。

「やってる事同じじゃないですか。相田君が可哀そうです。っていうか、相田君の夢の話より東雲さんの方が夢の内容、卑猥ですよ。しかも、タダでは起きあがらない所とか変に逞しいし」

「う、うるさいわね。小説書くものとしては当然でしょ」

 芳賀君は私に正論をぶつけられ、狼狽えてしまった。

「まぁ、夢オチも悪くないですよ。もしかしたら、今ここの出来事も夢だったりして・・・」

 芳賀君は笑いながら、私に言ってきた。何かいつもの芳賀君のキャラじゃない事に私は気付く。しかも、いつものお昼休みの教室の五月蠅さがこの一言でクラスの会話が止まり、芳賀君にみんなの視線が集中していたことが分かった。

 私もそれに気づき、芳賀君を見つめるみんなの視線が怖かった。

「えっ、何。みんな急にどうしたの?」

 私はこんな視線を見たことない。どうなってるの。ってか、どうした?

「芳賀君、みんな何かおかしいんだけど」

 私は芳賀君にこの視線のおかしさを言おうと芳賀君の方に向き直った。その時だった。

「・・・・」

 私は自分の視線の先の光景に絶句。

 芳賀君の頭があらぬ方向に向いていた。

「顔、どうしちゃったのよ」

「どうもしてないですよ。東雲さん、今日おかしいですよ」

 芳賀君の目はイっている。明らかにおかしい。今日は一体どうしたのよ。

「あなたがおかしいのよ・・・あっ!」

 私は気付いてしまう。今日の芳賀君の言葉遣いがおかしいところがあった事に気付く。いつもは真面目にボケてるのに今日に限って私と普通の会話を交わしていることを。

 ガタッ

 そして、クラスのみんなは音を立て、椅子から立ち上がる。

「なに、ナニ、何。みんなどうしたの。急に立ち上がって怖いよ」

 私はその音にびっくりし、同じ言葉を三度も繰り返してしまう。ホントどうしたのよ。

「ホ・モォ~」

「ホモ~」

「お前もホモにしてやろうかぁ」

 そして、クラスのみんなはわけのわからない事を叫びながら、私に襲いかかってきた。その目は逝っていた。

「わぁ、止めてよ。みんなどうしたのっ」

 私はクラスのみんなが襲い掛かってくる寸前で回避する。回避したことでクラスのみんなが倒れ、ドミノ倒し状態になる。何なのよ、これ。

 そして、後ろから・・・

「僕と一緒にホモになりましょう」

 手が後ろから手が現れると私に抱きつく。私は確認すると芳賀君だった。

「なによ。放して」

 流石、芳賀君の腕力は男の子。振り解けない。

「ダメです。僕とホモになりましょう・・・」

「なれるかー----」

 私はクラスの中心で叫び、目の前が暗闇に包まれた・・・


「あっ‼」

 私ははっと目を開け椅子から立ち上がる。急いで周囲を見渡した。私の目の前には小説のプロットを書いている芳賀君の姿。その周りには文芸部の部員が小説を書き、高瀬先輩も珍しく小説を書いている姿が見える。クラスのみんなが襲い掛かってきていない平和な風景が広がっていた。

「どうしたんですか?東雲さん」

 芳賀君はプロットを書いている手を止め、私を見てきた。その目はキョトンとしていた。

「ここ、何処?」

「どこって、いつもの文芸部の部室ですよ」

 芳賀君は私の質問に答えながら、首をかしげる。

「お昼休憩の教室じゃないの?」

「だから、どう見ても放課後の部室じゃないですか」

 私は芳賀君にそう言われ、壁掛け時計を見る。その時計が示していた時刻はPM4:00を過ぎようとしてたところだった。

「あ、ホントだ。何だ、夢だったんだ」

 私はホッとし胸を撫でおろす。私は夢だと気づくと気が抜け、椅子に座り直した。

「どうしたんだ。東雲」

 私の焦る声を聞いた高瀬先輩が近づいてきた。私はさっき見た夢の話を芳賀君、高瀬先輩と部員のみんなに話すことにした。

「あははははは」

「そんな夢を見たんですね」

 私が夢の内容を話すと高瀬先輩と部員のみんなは笑い、芳賀君は呆れていた。その芳賀君は私の肩を叩くと「東雲さん、疲れてるんですよ」と言ってきた。私は、ノートPCをタイピングしながら寝ていたようだ。確かに、最近は夜遅くまでパソコンとにらめっこで寝てない事を思い出す。私は頬に手を当てるとキーボードのキーの跡がついていたのが分かった。

「五月蠅いわね」

「でも、寝顔可愛かったですよ」 

 私は芳賀君のその言葉にみるみる顔が赤くなる。こういう事サラッと言う芳賀君は現実だと理解した。

「見てたの?やめてよ」

「大丈夫です。東雲さんの可愛い寝顔は僕の記憶領域に保存しましたから、大丈夫です」

 何故か芳賀君はどや顔で答えてきた。

 さらにその言葉で私は思わず恥ずかしくなり顔を隠してしまう。何を言い出すのこの男は。

「あはははは、大丈夫だ。私たちも東雲の寝顔はばっちり記憶した。というか、写真も撮った」

「高瀬部長もなにやってるんですか」

「え、だって面白いだろ」

「面白いだろ、じゃないです」

 私は顔を隠すのも馬鹿らしくなり、高瀬先輩のスマホを取り上げ画像を確認する。

「げっ。本当に撮ってる」

 私は自分の間抜け面を確認すると、速攻で画像を消去する。だが、高瀬先輩は私の行動に不敵な笑みを浮かべていた。

「もう、すでにネットのクラウドサービスに保存したから大丈夫」

「あんたもかー---。ってか、芳賀君よりやってることがタチが悪い」

 高瀬先輩の言葉に私は先輩後輩関係なく、ツッコミを入れる。この先輩、人としてやっることが最低過ぎる。そんなところで共有しないでよ。

 私は足から崩れ落ちてしまった。どうしよう。私は少しBL寄りの頭で必死に考える。

「まぁ、良いじゃないですか。オチてますし」

「オチて無いわよ。勝手にオトさないでよ」

「だって、夢オチでしょ?」

 話として、漫画やアニメの中での夢オチは読者をがっかりさせてしまう悪手。話の流れではあるけど、このオチは私の小説の中ではやりたくない。

「夢オチの夢オチなんて、サイテーー---」

 私の悲痛な叫びは夕日がさす部室に虚しく木霊した。

 













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