第28話 そういえば・・・後日談 

  リレー小説から数日後


 いつもの文芸部の部室に私と芳賀君で二人で各々の小説を書いていた。他の部員はクラスの仕事をしてからくると言っていたので今は私たち二人だけだった。私はノートPCのタイピングをしながら考えていた。

「そういえばさ、あの銃剣乱舞の二次創作の小説」

「はい?」

 芳賀君は私の言葉に反応しタイピングを止め、こちらを見てきた。

「芳賀君が書いたラストの主役キャラを物理的に食べちゃうってあったよね?」

「そうですね」

「あの話って。何かの話のオマージュ?」

 芳賀君は私の質問に少し考える仕草をする。数分が経過した時に芳賀君の口が開いた。

「オマージュと言えばオマージュですかね。僕の小学校時代に読んだ小説で宮沢賢治の『注文の多い料理店』です。あの話は小学生の時、国語の教科書にも載ってて面白くて読んでたんですよ」

「へぇ、意外ね。BLにしか興味ないのかと思った」

「まだ、BLのBの字も知らない幼気な少年でしたからね」

「自分で言うか・・・そういえば私も何か読んだことあったけど、どんな話だっけ?」

 私はつい本音を溢してしまった。話の腰を折らないように小声だけど。

「ネットでも書いてありますから簡単に言いますけど、青年二人がその注文の多い西洋料理店に入るんです。その料理店はお客さんにいろいろ注文をしてくるんですけど、全て二人を料理の素材として食べるための下準備のための注文だったんですよ。だから、この西洋料理店は、「来た客に西洋料理を食べさせる店」ではなく、「来た客を西洋料理として食ってしまう店」で二人は・・・」

「思い出した。あったわね、そんな話」

 私は芳賀君の話のあらすじを聞き、何となくだけど『注文の多い料理店』の事を思い出す。懐かしい。

「結局、二人は何とか食べられずにその場を逃げたのですが、この一件で体に異変が起きて二人は痛い目にあったと云う話ですね。尚、ウキペディア参照です」

 芳賀君は非常に楽しそうに私に教えてくれた。何か、BLの事を話してる感じより、こっちの方が私は好きな感じだ。

「宮沢賢治かぁ、小学校の読書感想文で書いたなぁ。何かの夜だったと思うけど、なんだったけかな?」

 私は小学生の時、読んだはずなのに思い出せずにいる。

「あぁ、十五の夜ですね」

 私はいきなり答えてきた芳賀君の言葉に目を見開く。

「古っ。それ尾崎豊。夜に盗んだバイクで走り出しそうな感じ。何か純文学に近いものが不良な感じになるわ」

「良く知ってますね」

「母親がよく聞いてて、覚えてたのよ」

 私のツッコミに芳賀君は考える人になっていた。私も一緒になって考え込む。

「あぁ、そうだ。思い出しましたよ。銀河鉄道の夜」

「そー、それ」

 私は芳賀君の言葉で心のもやもやしていた何かが取れた気がした。

「銀河鉄道の夜よ。でも、あれって宮沢賢治が小説書いてる途中で亡くなって未定稿のまま遺された作品じゃなかったかなぁ」

「そうでしたっけ?」

「だから、未定稿の部分を自分で今なら書けるかなって思うのよ」

「当然BLになるんですよね?」

 芳賀君は私に当然のごとく言ってくる。

「ん~」

 私は芳賀君の言葉に深く考え、頭を悩ませる。が、「はい」とは言わず、その言葉にうなずく。芳賀君に見ぬかれらた事が何か、悔しい。

「解りますよ。僕もBLにしますし」

「そうよね~」

 まぁ、BL小説の同志というか私の彼氏(仮)だけあって考える事一緒。芳賀君も私と同じ穴の狢と言う事を実感する。

「まっ。この話はここで終・わ・り」

「もう、終わっちゃうんですか?」

 芳賀君は私の作業終了の言葉に驚いていた。

「何か、もう小説書くの疲れた。今の私の脳細胞には甘いものを欲しているわ」

「なら、今日は部活終わらせて、甘味処にでも行きますか?」

「えっ?」

 芳賀君の唐突な誘いの言葉に私は驚く。

「奢ってくれるの?」

「良いですよ」

 芳賀君は快諾してくれた。いつもは普通に二人でBL雑談して帰るだけだから、「珍しいわね」と私は思った。

「甘味処『明治軒』のみたらし団子なんてどうです?」

「みたらし、良いわね」

 芳賀君にしては良いチョイスをしてきて私は感心する。あそこのみたらし団子はここら辺の高校の女の子たち学校帰りに好んで食べている。大体、夕方は女子高生が並んで買っているのを横目で何度か見たことがある。

 そこの店の売れ筋はたい焼き、大判焼き、みたらし団子になっている。ここのあんこはほどよい甘さで何個も大判焼きを食べてしまい、太ってしまったというクラスの女子たちの噂話も耳にしたことがある。特に女子の雑談で聞こえてくるのはあそこのあんこは悪魔的な味で中毒者が出ているとも言われてるほどだ。

「たい焼きもいいかも」

「何でもいいですよ」

「んっ?」

 芳賀君の気前の良さに私は一筋の疑念が生まれる。私の顔がおかしかったのか芳賀君の顔も「どうしたんですか?」と言いたそうな顔をしていた。

「芳賀君さ、何で今日、そんなに気前が良いの?」

 芳賀君は私の質問に「あぁ、そんな事ですか」と言った後に意外な言葉が出てきて私は焦る。

「だって、仮にも僕たちは彼氏彼女の関係ですよね。東雲さんがお腹空いたと言えば、僕が奢るのが当たり前じゃないですか」

 私は芳賀君の何気ない言葉に胸がキュンとする。この子、こういう事を平気で言うから困ります。

「どうしたんですか、東雲さん?」

 芳賀君が子犬のような顔で私を見てくる。

「何でも無いわ」

 芳賀君のあどけない仕草に私の顔は真っ赤になるのを感じた。芳賀君の行動を見ないように私は答える。今、私の顔を見られると困る。恐らく、鏡を見るとニヤニヤしてしまっている可能性が非常に高い。彼氏という存在が大きく感じる。

「東雲さん、顔背けないで下さいよ」

「うるさいっ‼良いから見るな」

 私は芳賀君がそれでも見てくるので顔を手で必死に隠す。見せたくない、というか見られたくない。

「わー------」

 私は大声で叫びながら、部室から飛び出る。多分周りからの目線は痛いものだろうと察したが今はそんな事関係ない。

「待ってくださいよぉ」

 私の後ろからは芳賀君が追っかけてくるが分かる。

 このまま、走っていれば顔のゆるみも疲れて無くなっているだろうと私は推測した。私がこのまま、走って甘味処に着くころにはお腹もすくので一石二鳥。

「甘味処まで、競争よ」

「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。東雲さん」

 芳賀君は私を追いかけてきて、捕まえそうになるがひらりと回避。

 私は制服で必死に走る。運動音痴で走るの苦手だし、制服のスカートはひらひらと風に靡いて、下着が見えそうになる。ここはさりげなくスカートを押さえ、ガード。

 今の私を追いかける芳賀君と私の構図。見ようによってはバカなカップルの戯れにしか見えない。例えるとほーら、私を捕まえてみなさい的な感じのやつ。

 考えるだけで恥ずかしい。だから、考えないようにした。

 私の頭の中は今、いろいろな妄想が混在している。

『私たち、彼氏彼女なんだから、偶にはこういったことするのもいいわね』

 と私は一人思う。でも、このセリフは恥ずかしくて芳賀君に言えないというか言いたくない。

 私は甘味処『明治軒』までの道のりを芳賀君との二人だけの空間を楽しむことにした。

 

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