第26話 まさに絵に描いた・・・(前編)

「まさに絵に描いた餅ですね」

「何だ。食べたいのか、東雲は」

「いや、そういう意味じゃないです」

 私がある絵を見た感想を述べると高瀬先輩は私を揶揄ってきたのをきっぱりと否定する。その絵は所謂同人BL漫画の表紙。男性同士が絡み合いが素晴らしい構図。今にも本の中から飛び出してきそうな感じ。私にとってはどんな有名画家よりも尊敬できるものに見えた。

「君がこれを?」

 私の横には高瀬先輩が座り、漫画研究部の部長海藤渚さんの隣の女子生徒に高瀬先輩は質問していた。

「はぃ」

 女子生徒は恥ずかしいのか返事が消え入りそうな声で反応し、私たちは聞き取るのが精いっぱいだった。声が小さいな。

「この子は1年の漫研部の期待の星。橋野真希さんよ。最近この橋野さんの周辺で変な事が起きていて、漫画執筆に集中できていないの」

「それでどうして欲しいんだ、海籐は?」

「執筆に集中する為、助けて欲しい。来週末には同人誌即売会がある。それに参加する予定なのだ。出版会社の締め切りが近い。だから、橋野の執筆してもらわないと困るんだ。執筆に集中できない理由を探り、解決して欲しい」

 海藤部長は漫研部の部長で前にも文芸部に解決を依頼をしてきた経緯があるのを思い出す。でも、今回の依頼は・・・。

「あのちょっと何言ってるか分かりません。うち、文芸部であって探偵部や黒魔術部じゃないですよ」

 私は海藤部長の依頼に拒否をする。依頼の意味がよく分からない。餅は餅屋と言う言葉がある。その手の依頼を言うはお門違いですし、うち文芸部でそんな事やって無いですよ。しかも、ここにいるのは小説を愛する人達なわけで。まぁ、BL小説ですけどね。

「頼む。この通り」

 海藤部長は高瀬先輩と私に土下座してきた。そこまでしますか?と思い、私は流石に驚く。その姿は困ると海藤部長に頭をあげてもらう。

「よし。閃いた。お前たちで対処するんだ。東雲、それに芳賀でな」

「はぁ?何でそうなるんですか⁉」

 私は高瀬先輩をぎょっと見る。高瀬先輩も何言いだしてるんですかっ。

「面白そうだからな」 

「それ、答えになってないです」

 高瀬先輩は笑いながら答え、私はそれに対してツッコむ。

「僕がどうしましたか?」

「なに、何。どうしたの?面白い事?」

 丁度いいタイミングで芳賀君、凛花さんが部室に入ってきた。芳賀君は芳賀康太で同じ部活の部員で私の彼氏(仮)。それと凛花さんは私のクラスメイト。凛花さんは春奈凛花と言って売り出し中アイドルユニット”アーデルハイド”クララさんもやっている。それに加え百合で私を好きと来たもんだから大変な人。

 ここで、高瀬先輩が部室に入ってきた二人に今までの経緯を説明してくれた。普通の人だったら、怖くて断ると思うのだけど。この二人は違っていた。

「やりましょう、東雲さん」

「面白そうねぇ、ちょっと事務所のレッスン休むって連絡してくる」

 二人の意見は即決OKだった。即答ですか。芳賀君は目をランランとさせやる気に満ち溢れていた。凛花さんは事務所に連絡する為、スマホで電話をかけていた。何となく解ってたことだけど、少しは考える仕草位して欲しい。

 そんなこんなで私たち4人は橋野真希さんの自宅に上がらせてもらう事になった。あれ、4人?私は目に見える人数を数える。1、2、3、4?

「あれ?一人多くない?」

 と私が気に掛けると芳賀君の後ろに植田さんがついてきていた。植田さんは同じ学校の同級生。名前は植田奈津子で料理研究部に入っている。芳賀君を好きな女の子。

「何であなたがここにいるの?」

 私は植田さんに聞く。植田さんはさも当たり前のように言った。

「だって、私。芳賀君の事好きですし。それに最近、出番が少ないような気がしたので出てきました」

「また、メタな事を・・・」

 私はその理由に呆れた。確かに最近、新しい人との出会いが多かったからなぁと私は実感する。でもそんなことで出てくる植田さんの行動力も中々である。

「それに、芳賀さんのハガニウム吸わないと死んでしまいますから」

「もう、何処から突っ込み入れていいか分からないわ」

 私は植田さんの言葉に何を言っているのか分からず混乱する。まぁ、邪魔をしなければいいか。しかし、ハガニウムって危ないガスかなと心配になってしまう。

 一応、植田さんの件に関して、私は芳賀君、凛花さんに確認を取る。

「別にいいですよ」

「良いんじゃない。私と東雲さんの邪魔しなければなんだっていいわよ」

「おいっ‼」

 芳賀君もOKで凛花さんもOKだけど、さりげなく凛花さんは変な事言ってるし。私も凛花さんのその言葉に突っ込む。

「どさくさに紛れて、変な事言わないで下さい」

 そんなくだらないやり取りをしながら歩いていたら、に到着。私は家の外見で橋野真希さんの家はごく普通の一般家屋で安心する。前の高瀬先輩の家は規模が違ったから度肝を抜かれたけど。

 そして、私含め(2人+1人)の4人は橋野真希さんの家に入ることになった。


 私たちは真希さんの案内で部屋に通される。

 真希さんの部屋は特に変わったところのない女子高校生の部屋だった。すべての物が綺麗で、本棚は漫画の本と勉強用の参考書が綺麗に並べられ清潔感が感じられていた。しかし、一つだけ言うのなら一枚のポスターに目を引かれる。美男子と美少女は顔が近い感じで今にもキスしそうなポスター。周囲には花が散りばめられまさに少女漫画の構図が同じポスターだった。美しいの一言。植田さん、凛花さんもその絵に関心していた。

 一方で芳賀君は「そうですか?」と言いたそうな顔をしている。

「ポスター綺麗だけど、あれ何かな?真希さん」

「あれは、近所の骨董市で見つけて、一目惚れで買ってしまったもので・・・」

 私の質問に真希さんは恥ずかしそうに消え入りそうな声で話す。しかし、声が小さすぎる。

「これ、何の漫画?見たこと無いわね」

「私も無いです。特撮でもないみたいですね」

 植田さんも凛花さんもこの絵は見たことないの一言。私もネットサーフィンしているけど、こんな綺麗な絵だったら、知っているはずだし。SNSの話題に成るはずだ。

「私も気になって調べたんですが、何処にもなくて・・・」

「そうなんだ」

「これはBLの呪いですね」

 芳賀君がいきなり変な事を言い出す。何、言いだすの子は?

「いや、この構図。本来BLのですよ」

 芳賀君の言い分はこうだった。

 この絵は顔の近さが微妙に少女漫画と違うらしい。後、受け側にいる女の子が何か違和感があるとも言っていた。別に特に変わったところ無いけどと私はポスターを眺めているとある一つの論点にたどり着く。これって、もしかして・・・

「これって、男の娘って奴じゃない?」

 凛花さんが顎に手を当てポスターを眺めながら、ぼそっと呟く。

「どうしたんですか?急に」

「いやねぇ。こんなかわいい女の子なら絵でも興奮するんだけど、絵は上手いし凄いと思うんだけど私の感情の高ぶりが来ないのよねぇ。こうピーンとくるものが」

「妖怪アンテナというやつというよりか、女の子アンテナですね」

 私は凛花さんの言葉に感心する。それに負けじと植田さんも何かを言おうとしているが何を言っているかさっぱり意味が分からなかった。

「これは、もしかして」

 そんな時だった。芳賀君がいきなり発言する。何かに気付いたみたいで急に部屋の外に出てスマホでどこかに電話を始めた。

「急にどうしたんですか、芳賀さん?」

「さぁ」

「なにか分かったのかな」

 私たちはポスターを眺めながら呟いていた。どうしたんだろう。


  数分後・・・


「解りましたよ」

 芳賀君がスマホの通話ボタン押し、会話を終了した上で私たちの所に意気揚々と戻ってきた。

「どこに電話してたの?何かわかったの?」

「母の所に電話してました」

「あぁ・・・・・・あのお母さんね」

 私は久しぶりに芳賀君のお母さんの事を聞き、にが笑う。というのも私は芳賀君のお母さん公認の彼女に勝手にされ、結婚までしてもいいわよと豪快な発言をしてきた。後、超がつくほどのBL好き、しかもBL界隈では結構な重鎮の作家さんと知り合いで精通している貴婦人。もとい貴腐人。

「昔、BL同人界隈で有名な作家さんの絵でした」

「はぁ、そうなんだ」

 私は芳賀君の言葉に一つ疑問が生まれる。

「でも、そんなに有名ならネット検索すれば情報位出てくるんじゃない?」

「母から聞いたのですが実はこの作家さん、亡くなってるんです。昔、同人というのが認知されていない時に同人誌即売会である出版社にスカウトされたのが始まりでした。ある少女漫画での連載に至ったのですが。その出版社が曰く付きで、契約が厳しいことで有名でした。その契約内容が今後一切、BL漫画を一切描かないこと。しかも、自費出版での作家活動も一切してはいけないという契約でした」

「それは、きついわね・・・」

 私は芳賀君の語った話が鬼の所業過ぎて、同情してしまう。

「そして、事件は起きました。BL同人を出したくて発作を起こしてしまったのです。そして、その欲求は爆発してしまい、同人誌即売会で偽名を使い少女漫画を出したんです」

「少女漫画だったらいいんじゃないんですか?」

 植田さんの質問に私も納得してしまう。

「いえ違います。漫画の中では少女に見えて実は男の娘だったのです。だから、男の娘であることで少女漫画に見えるBL漫画を表現していました」

「隠れキリシタンかい・・・」

「しかし、その信者の中にその表現を見つけた方がいました。その情報を出版社に提供してしまう者が出ました。昔はネット環境が無かったので出版社も半信半疑でしたが、その作家さんはそれがバレてしまい全書籍の回収と賠償問題になりました。その作家さんは悩み苦しみ、投身自殺してしまったのです」

「可哀そうね。自分のやりたいことが出来ないなんて」

 私も自分が同じ立場になったら、死んでしまいたくなる。BL小説でこんなことされたら私は発狂してしまうと思う。

「で、その後どうなったの?」

「その後、その出版社の少女漫画の企業は世間からのバッシングに合い、事実上倒産しました。その事件は闇の中に葬られました」

 凛花さんの質問に芳賀君は答える。私は実に胸糞悪い事件だと思う。

「ですが、事件はここで終わりませんでした。同人誌即売会での売られてたものは未だに世に出回っています。その一部のアイテムが呪い(怨念)があるとファンの中では言われていると母は言ってました」

 私は芳賀君の言葉を聞き、背筋がぞっとする。呪い(怨念)って本当なの?怖いんですけど。芳賀君に植田さんは間髪入れずに「もしそうだとしたら、どうするんです?」と聞いてきた。

「これはやらせでは無く、本物の幽霊の仕業と思います。もちろん、今日僕が祓います」

「?ちょっと、何言ってるのか分からないわ。私たち素人よ。素人がやって払えるわけないでしょ。下手に手を出してケガするのが目にみえてるわよ」

 芳賀君の無茶な行動をしように制止する。

「あたしがやろっか?」

凛花さんもおかしな事を言い出した。

「あたしさ。そういうの見えるし、退治できるんだ」

「は?」

 私は口をあんぐり開けて驚いてしまう。まさかそんな事出来るんですか、凛花さん。アイドルもやって、護身術もやってて、霊感あるとか・・・

「実はさ、まだそんなに有名じゃない時に、ネット動画配信でアイドルでガチの肝試し企画やったのね。その時、マジで幽霊見えちゃってさ。あ、これ。あたしイケるかも?と思って、頑張って修行したの」

「イケるかもって、何がですか?」

 私が聞く前に植田さんが凛花さんに質問した。

「女の子が怖さのあまり勝手にあたしに抱き付いてきてくれるのに気付いたの」

 凛花さんは目をキラキラさせ自慢げに話してきた。動機が不純すぎる凛花さんらしいと云えばそうかもだけど。そんなんで最初は見るだけだと思ってたのが急遽幽霊退治に切り替わる。私たち文芸部ですけどいいんですかね。

 次の日が運よく土曜日だったのもあって学校も休み。各自、家に帰ってから、真希さんの家に集合となった。真希さんやご両親の許可も貰っている。これで後は夜を待つだけ。

 私たちの長くて怖い夜が始まる。


 

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