第9話
椅子の上でウトウトしていたところでエリカに声をかけられる。
「聖龍さーん? お祭りの準備できたみたいですよー」
ふぉ!? やばい半分寝てた。
急いでよだれを手で拭う。ん? よだれ? 俺もしかて寝ぼけて子供やっちまったか?
「おねーちゃん!! 早く!!」
あ、大丈夫だ。焦った。ほんとに焦った。
「聖龍さんも準備できたら来てくださいねー」
腕を引っ張られながらそう言って退場していくエリカ。
しかし、まさか寝てしまうとは。ドラゴンの時は不眠不休でも問題なかったが人化するとその辺も普通の人間程度になるのか。……いざという時のためにもあんまり人化はしない方が良いな。
とは言ってもこの村の中にいるには人化することが条件なので今は仕方ないが。
昼寝ですっきりしたようなぼんやりしたような、曖昧な感覚で立ち上がり外に出る。
祭りの雰囲気は前の村とはかなり違った。
前の村は俺を崇め奉るお祭りだったが今回は違う。みんなで楽しもうという雰囲気を感じる。これはこれでいいな。
正直今この場で会場をぶっ壊したい欲はわかない。なぜならそれは前回やったし、あとまだ死にたくはない。
それから俺は祭りを普通に楽しんだ。エリカも楽しそうにしていた。
空は真っ暗になり、誰が終わりと言ったわけでもないが自然と祭りは静まっていく。
そこかしこで酒の入った大人たちが口を開けて寝ている。無防備すぎるがそれだけ平和ってことなのだろう。
「聖龍さん……大丈夫ですか」
「……んあ、大丈夫だ」
眠い。とは言ってもドラゴンの姿に戻ればどうということはないのだが。
「……今のうちに出発してしまいましょう」
俺たちは誰にも止められることなく村の外に出る。人化を解除すると案の定眠気は吹き飛んだ。
『エリカ次はどこに行く?』
エリカを背に乗せて真っ暗な夜空へと飛び立つ。
「そうですね……次は……」
エリカの指示を受けて空を飛ぶ。エリカはやはり少し寂しそうな顔をしていた。
それでもエリカはこの地を離れることを選んだ。正直エリカ自身がどこまで本気かわからなかったが、案外エリカ自身も魔王化計画に乗り気なのかもしれない。
エリカ魔王化のためにはまず各地にエリカの印象を残すことが大切だ。いざという時の味方は多い方が良い。一つの地にとどまって楽しく暮らすのも一つの選択だが、今は少しでも多くの場所を訪れるのが先だ。
初めてエリカと出会った時、エリカは俺に旅の思い出を語ってくれた。
そこでは楽しい思い出ばかりではない。邪険にされたというような、あまり心地の良いものではない思い出もあった。
まだ始まりに過ぎない。自分が救った村や町がそれからどうなったのか。そこで自分はどのような扱いを受けているのか。決して今の村のように楽しいことばかりではないだろう。エリカはこれからそれらを確認していくことになる。
……まあ俺は空気の読めないただの一般通過ドラゴンだ。なんにせよ俺は暇つぶしにエリカを魔王に仕立て上げて王に一泡吹かせる手伝いをするだけだ。
なるべく盛大に裏切りたい つい @tsui
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