第8話
前の村ではほぼほぼ引きこもりで、こんな風に村の中を散策なんてしたことなかったな。
何か面白いものがあるわけでもなく、誰もが忙しそうに働いている。
昼間から特にすることもなく労働者を眺める。まさに愉悦。ドラゴン万歳。
機嫌よく歩いていると目の前にひときわ大きな家が見えてくる。もしかしなくても村長の家だろう。中からさっきの子供やエリカの笑い声が聞こえてくるし。
扉を開けるとびくりと体を震わせてこっちを見る村長さんとその奥さんらしきこれまた優しそうなおばあさん。ノックくらいした方が良かったか。
「あ、聖龍さん。ごめんなさい置いて行っちゃって……」
人化した俺に特にツッコミはなく、普通に話しかけてくるエリカ。念話でも特に驚いていなかったし、聖龍なら人化も当たり前ということだろう。
「せ、聖龍様……!? 失礼しました! 私この村の村長を務めております、ジムロンと申します」
おっと、ここでも聖龍の肩書は通用するらしい。なんかこの様子だと人間の間では割とメジャーな宗教っぽいな?
「改めまして、勇者様聖龍様。わが村へようこそ。今宵は村一丸となってささやかですが歓迎の宴をと思いますので、どうぞ夜までごゆるりとお過ごしくださいませ」
土下座状態から少し頭を上げてそういう村長。まーた宴か。どんだけパリピ多いんだこの世界は。
「わー楽しみですね聖龍さん!」
エリカ、まさか自分の使命を忘れてないだろうな? お前の目的はこの村をエリカ魔王化計画の第一拠点として治めることだぞ? ……どうでもいいけどエリカ魔王化ってリズムいいな。なんとなく魔法少女アニメ感ある。うん本当にどうでもいいな。
ごゆるりとお過ごしくださいと言われたのだからごゆるりと夜まで過ごすことにしよう。村長の奥さんが出してくれたお茶を飲みながらぼんやりとエリカたちを眺める。相変わらずうまそうな子供だ。食ったら流石にエリカに殺されるので手出しはできないが。
「そういえば……近頃、一つの村が龍に滅ぼされたなんて話があったわねぇ」
突然に村長の奥様がそんなことをのたまう。エーナニソレボクシラナーイ。
「せっかく魔王を倒したのに……まだまだ物騒ですね」
「しかもこれは噂なんですけどね、どうやら……聖龍が村を滅ぼしたなんて言われてるんですよ」
「ふん、最近の若い者は礼儀がなってない! もしその噂が本当だとして、大方聖龍様に失礼極まりない態度をとったのだろう」
そう! あいつら礼儀がなってなかった。うん、俺は悪くないね。だってあいつら礼儀がなってなかったもんね!
「……聖龍さん、何か知ってますか? ご知り合いだったりします?」
ヒェ……どっちだエリカ。お前はどこまで知っている? 俺を試しているのか?
「おっと、聖龍様がいるのにこのようなお話をしてしまいまことに申し訳ございません。おい、お茶のおかわり」
慌てて村長の奥さんが席を立つ。あの、拭くものももらってよろしいか? 別に動揺してたとかでは全然全くこれっぽちの一ミクロンもない。けど何となくお茶がおいしかったから膝に飲ませてあげたい気分でね。でも僕ちんの膝ったら猫舌でね。ぜーんぶ床に吐き出しちゃった。ハハッ、膝は後できつーく叱っておくよ。
エリカの方を盗み見ると村長娘と楽し気に遊んでいた。もしさっき俺が知らないと答えていたらどうなっていただろう。なんとなく脳内にひぐらしの鳴き声が連想される。
それから俺はタオルとお茶のおかわりを貰ってごゆるりと過ごした。ごゆるりしすぎたせいか、手元と口元がごゆるりしてしまい、それから何度かお茶が消えた。そのたびに村長奥さんが甲斐甲斐しく世話をしてくれた。面目ないのぉ。
しまいには村長娘にまで面倒みられてしまう始末。うお近い。耐えろ。耐えるんだ俺。これはよだれではないお茶だ。お茶だお茶だお茶だ……。
「聖龍さん子供みたいですね。村を滅ぼしたっていう聖龍さんもこの可愛げを見習ってほしいです」
笑いながらエリカが言う。
まあ子供の方が平気で残酷なことするしな、つまりそういうことだ。知らんけど。
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