第7話

 鬱蒼とした森を歩く勇者。その後ろをついていく聖龍。


 地面には木の根がうねうねと伸び、かなり足場が悪いがそんなことはお構いなしにすいすいと勇者は進んでいく。


 それに対して木の根に躓き、垂れ下がる蔓に角をひっかけ、意図せず体で森林伐採をしてしまう聖龍。


『エリカ、乗れ』


 ドラゴンが森の中を快適に歩けるわけがない。当然だ。


 遠慮がちだがしっかり乗ったことを確認して一気に空へと駆け上がる。勇者なら特に気を使わなくても落下したりしないだろう。


「風が気持ちいですね!」


 そうだろう?……うむ、そう言ってもらえると気分がいいなもっとバイブス上げろ。


 歩きとは比べ物にならない速度でぐんぐんと進む。


『ちなみにどこか行きたいところはあるか?』

「……特に当てもなく旅をしてたのでないですね。……あ、でも私が過去に助けた村はどうなったのかとか見て見たいです」


 なるほど。確かに王都以外なら勇者は普通に歓迎されるかもしれない。それにエリカ魔王化計画の第一歩。急に王都付近で始めるよりも辺境の村から徐々に支配下に置くのは有効そうだ。


 エリカの持つコンパスのようなものによるとこのまま、ずーっとまっすぐ行けばその村とやらに行けるらしいので指示通りに飛ぶ。……指示通りっていうのは俺が部下みたいで嫌だな。……勇者を誘拐する。よしこれでいこう。俺は邪龍だガハハ。


「せ、聖龍さん! 突然邪龍の気配が……かなり近いです!」

『あーうん、心配すんな』



 *****


 二回ほど日が昇って沈んでを繰り返した。俺はようやくその村を見つけた。


「お疲れ様です聖龍さん!」


 まあ実際疲れてはいない。割とマジで体力の底が自分でもわからんな。文字通り一生飛んでられそうだ。


 村の中央に着地するわけにゃいかんだろう。のっそのそ四足歩行であるいていくぞ。


「あの聖龍さん……私降りましょうか?」

『ん? ああそうだな』


 どうせ村行ったら降りるんだし、なにより勇者の使い魔とか思われたくない。絶対に。


 エリカはひょいと身軽に飛び降りて俺の横を歩き始める。


 流石に聖龍と勇者のパーティーに喧嘩を売る魔物はいない。実に快適に村まで到着した。


 早速衛兵に止められる。当然だ。内心かなり怖いだろうけどこれが彼の仕事だからな。


「な、何者だ!」

「お久しぶりです! ちょっと前に寄ったんですけど……覚えてませんか? エリカです! 勇者のエリカです!」


 エリカの声をきいて顔を見て、衛兵の顔は一気に安心した顔になる。きっと俺のインパクトが強すぎてエリカのことが視界に入っていなかったんだろう。


「おお! 勇者様! お元気そうでなによりです! 今すぐ村長を呼んできますね!」


 言うが早いか村の中へと衛兵は走っていった。


「この村では村長の娘さんが病気になっちゃって……私は近くの洞窟の奥地にしか咲かない万病に効く花を取ってきたんです。娘さんすっごく可愛いんですよ!」

『そうなのか! それは楽しみだな! 俺は子供が大好きだからな!』

「そうなんですか! フフッ、子供が好きだなんて正龍さんってやっぱり優しいんですね!」

『……? そうか?』


 よくわからんけど子供好きは優しいらしい。なんでだ?


 そんなこんな言ってたら白髪に長い白髭をたくわえた、とっても優しそうなおじいちゃんが出てきた。一目でわかる。この人村長だ。


「これはこれは勇者様。再びこの村に足を運んでいただきありがとうございます。何にもない村ですが村人一同歓迎いたしますぞ」


 フォッフォッフォッと笑うおじいさん。


「お久しぶりですおじいちゃん! 娘さんあれからどうですか? 私もあの時はばたばたしていたのでもう一回ちゃんとお話ししたくて来ちゃいました!」

「元気にしてますよ……っと噂をすれば……」


 遠くから小さい女の子がてってと走ってくる。うん美少女だ。味見したいなぁ。


「おねぇちゃーん!!」


 そのままミサイルのようにエリカに飛びつく。ほほえましい光景だ。


 そこからは本当に色々と話したいことがあったのだろう、二人で歩きながら何やら話し込んでしまった。


 んで、取り残された俺。


 しゃーなし、俺は俺で早速子供を狙ってハンティングでもしますかな。


「あ、あの建物が壊れるので……ここで待っていてもらってもよろしいでしょうか?


 ほう、人間。この俺に待てと申すか。…………よかろう。


 まあ俺は微塵も関係ないただの一般通過ドラゴンだしな。せっかくの再会を邪魔しようものなら非難轟々エリカブチ切れ俺死亡エンドというのは火を見るよりも明らかだ。俺は優秀なのだ。待てができるのだガハハ。


「…………」

『…………』


 暇……だな。


 というかなんだよ建物が壊れるからって。前の村の人は普通に入れてくれたぞ? ここ規制厳しくない?


 ……これは前世知識だが、神とかドラゴンは変身ができた気がするな。人間はもちろん、鷲とか他の生物に変身して下界に紛れていた気がするぞ。……俺もできんじゃね?


 そうと決まればさっそく実践だ! 魔力を体内で操作して……どんな操作すればいいんだよ! ああもう面倒だ! 変身!


 体が急速に縮まっていく感覚。目を開くとさっきよりも視点がかなり低くなったことに気付く。


 目の前には驚いている衛兵君。うん? 衛兵君の頭が上にある。とすると俺はかなり身長低いのか?自分の身体を見回す。


 全身を白いローブで覆っている。肌は真っ白だ。まあ元が真っ白なドラゴンだったからなこの辺は特に驚きもない。髪の毛は男にしては少し長いか? これも真っ白。どんだけ白が好きなんだ。俺よ。汚れ目立ちそうだな。


「これで村に入っても問題ないだろ?」


 声が高いな。低身長でこの声なら俺はもしかして子供なのか? ……ってまだこの世界に転生してきて一年もたってないしな。当たり前と言えば当たり前……なのか?


「あ、えっと……どうぞ」


 難なく衛兵君を突破し、村の中に入る。


 さぁーてエリカたちはどこかな?

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