第5話
ローブの人間が俺のもとに来て、明日の夜がいよいよ龍神祭だと伝えてくれた。
『そうか』
俺は安定の龍神ロールプレイで答える。
「村一丸となって準備しましたので、お楽しみください!」
そう弾んだ声で言う。
『悪いが俺はその龍神祭が終わり次第、ここを出ていこうと思う。そしてここに戻ってくるつもりはない』
俺は遠回しな言い方はせずにストレートに言葉を紡いだ。
「そ……そんな」
さっきの弾んだ声から一転、困惑や悲壮感の入り混じった声でローブの人間は言う。
分かっていた反応だが申し訳ない気分にはなるな。まあだからって考えを変えることはしないが。
「考え直しては……いただけませんか?」
俺は首を横に振って意思を伝え、洞窟に戻る。
少し時間をおいてローブの人間が山から下山していく気配を感じる。俺が洞窟に戻った後にもしっかりと祈りのポーズをとっていたのだろう。律儀な奴だな。
*****
空が緋色に染まる。
俺は約束通り龍神祭へ参加するため、洞窟を出て村へと飛んだ。
多数設置されたかがり火の、オレンジの光が村全体を照らしてた。
村人たちは俺の姿を見つけると歓声を上げる。この様子だとあのローブの人間は俺がこの地を去ることをまだ村人に話していないのだろう。
わらと羊毛で作られた鳥の巣のような、俺専用の席が設けられていた。洞窟の堅い地面に比べてなかなかいい座り心地だ。
祭りは唐突に始まった。
太鼓の演奏に始まり、各々酒と料理をつまみながら演奏を楽しんだり近場の人と話したり、または俺のもとに来ては話かけるものもいる。おっと子供はまずい。下手したら食っちまいそうだ。
祭り自体は楽しいものであった。料理も酒もうまい。材料がないのか、ゴブリン煮込みがないのが残念だが、それ以外にもうまいものはたくさんある。
演奏などのパフォーマンスも楽しい。普通にレベルの高いものもあり、こんな田舎で一発芸程度の扱いがもったいないくらいだ。
総じて満足度は高いのだ。それなのに俺はどこか冷めていた。
いまいち気持ちが盛り上がらない。何が不満なのだろうか。
…………いや、本当は分かっている。自分が何をしたいのか。そんなの自分でわかっていて当然だ。
『この会場を滅茶苦茶にしてやりたい』
それが今俺がやりたいことだった。
無論やる意味はない。しかし、やっても問題ない。
村人共は俺のことを信頼しきって酒に酔い騒いでいる。もし俺が今唐突に暴れ始めたらどんな顔をするのだろう。
人間に対する執着はない。というかこいつらってゴブリンと何が違うんだ? やってることは大差ないように思う。
「龍神様? どうかされましたか?」
うん。ちょっと試してみるか。
俺は話かけてきたローブの人間の首を、爪を振るって撥ねる。真っ赤な血を滴らせながら飛び、地面にごろりと転がる。初めて顔見たな。こいつ女だったのか。
やっぱりゴブリンどもを殺した時と変わらない。数秒で近くの人間どもを殺した。人数の問題じゃないな。やっぱり人間とゴブリンって俺にとっては同じものだな。
よーし子供食うぞー! ここまで来たら遠慮はいらねぇ。そもそもなんで人間の祭りに参加してんだ俺。自由に生きようぜ。
俺が暴れだすとあんなに歓迎ムードだったのに急に場は恐怖や怒りに包まれる。
「だから言ったんだ! 危険だって!」
叫ぶおっさん。あんたさっきまで超上機嫌で酒飲んで腹踊りしてただろ。
子供うめぇ。お供えされる奴に比べたら味は劣るがそれでもうめぇ。これ法規制されてないってマジ? え? されてる? まあ俺には法律なんて関係ないのだが。
武器を持って無謀に俺に攻撃を加えようとしてくる男たち。無駄無駄ァ! 人間ごときに後れを取るわけがない。ガハハ。
そんなこんな暴れていたらすっかり周りの人間を殺しつくしてしまった。あとは遠くに逃げたやつらだが……まあ今回の目的は人間の殺戮ではなく単純に祭りぶち壊してみたいって目標だったし追いかけなくてもいいか。
さぁーて次はどこ行くかな? できれば子供がいっぱいいるところがいいな。自分子供好きなんですよね。え? ロリコンじゃないですよ?
本気で地面を蹴った衝撃で半壊だった家々が全壊する。まあ家主はもういないだろうしへーきへーき。
こうして俺はオレンジと赤で彩られた村をでて、闇の中を飛んで行った。
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