第4話
定期的に捧げものを貰いながら、たまに村を助けてやる。
例えば重い病気を患った患者を助けてやったり、魔物の攻撃から守ってやったり。
村に起こるどんな困難であってもドラゴンの力をもってすれば解決は容易だった。
とは言っても俺の助けがいるような困難など頻繁に起こるものではない。
ではその暇な間俺は何をしていたのか?
もちろん惰眠をむさぼって、怠惰な生活を……というのは冗談で、真面目に自己研鑽に励んでいた。
人間でない俺は法にも権力にも縛られることはない。しかしそれと同時に守られることもない。自由気ままな生活を送るには誰よりも強い力が必要なのだ。
具体的には魔法に対する理解や、尻尾や翼という前世にはなかったであろうパーツの動かし方など、とにかくやることはあった。
「龍神様」
おっとそうか。今日は貢物がもらえる日だったな。
体感月一くらいのペースで村の人間たちは酒や料理を置いていく。
今日は……いないか。
何気に子供がおいしくて、あれから何度か貢がれているうちにすっかりはまってしまった。
しかし、毎回用意されているわけではなく、むしろ用意されていないことの方が多い。
まあしょうがないな。そう簡単に何人も何人もって用意できるものでもないだろうし。それにたまに食べるって方が特別感があっておいしいってもんよ。
「あの龍神様……二週間後、村で龍神祭を開こうと思うのです」
『龍神祭? 今までそのようなことをしていたか?』
俺は新たにやり方を覚えた『念話』とかいうスキルを使ってローブの人間に話しかける。初めて使った時は天啓だなんだとそれはもう大騒ぎだったが、今では普通に会話できる程度には慣れてくれたようだ。
「いえ、ですが新たな試みとして。村興しの意味も込めて開催をするというように話を進めているのです」
なるほどな。まあ、見世物にされるのはごめんだが、名前ぐらいは貸してやらんこともない。……と上から目線の思考が一瞬浮かんだが、そういえば俺勝手に龍神名乗ってるだけの、その実住所不定の無職ドラゴンだったわ。
「……よろしければ龍神様も村にお越しいただけませんか?」
恐る恐るといったように俺にパーティーのお誘いをしてくるローブの人間。
『いいだろう。丁度暇していたところだ。……俺を退屈させるなよ』
俺の荘厳な雰囲気に気圧されて、恭しく頭を下げながら人間たちは去っていった。
あーたまんねぇ。龍神ロールプレイたまんねぇ。
村人たちが聞いたら幻滅しそうなことを考えながらその背中を見送る。
さて二週間後か……
ふとあること思い出し、洞窟に戻って壁や床をぐるりと見まわす。
うちの家カレンダーも時計もないけど? ……流石に前日とかに呼びに来てくれるだろう。
にしても前任の龍神様とやらはどこに行ったのだろうか?今頃帰ってきてもそれはそれで困るんだが。
まあ飽きてどっか行ったとかだろう。俺だって適当なタイミングでここを出ていくつもりだし。ここに永住というのは考えられない。
俺は人間たちのママンではない。村の危機を救うなど思わせぶりな態度をとったりしているが、この村の人間たちに特別愛着を持っているわけではないのだ。
……というか龍神祭って結構出ていくにはいいタイミングかもな。最後に楽しい思い出作ってバイバイ。正直長居すればするほどお互いに依存度が高まってズルズルと関係を続けていくことになりそうだし。
次会ったらあのローブの人間にこっそりと言ってみるか。
俺はとりあえず思考をやめて、目の前の料理に舌鼓を打つことにした。……ゴブリン煮込みもこれが最後か……良い味だったぜおばちゃん。
容器を全て空っぽにして洞窟に戻る。さあて旅立ちに向けて、再び自己研鑽に励むとするか。
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