第3話
翼を力強く羽ばたかせると、あっという間にすべての山が見下ろせる高度までついた。
えーっと……お目当ての山は……あれだな。
早速意識を集中して山をみる。
階段や石畳など、人工的なものである程度は道が舗装されていた。舗装された道を目でたどっていくと山頂付近に白い石柱で囲まれた、石畳の広場の様なものが見える。そしてその広場の後ろには山を削ってつくったであろう洞窟が見えた。
その広場で何やら作業をしているゴブリンや、洞窟を出入りしているゴブリンも目で捉える。
ぶっちゃけ彼らには何の恨みもない。さっきだって得がありそうだから人間を助けただけだ。ゴブリンにもゴブリンの生活があるだろうし、俺みたいのが邪魔すんのは迷惑極まりないだろう。
でもまあ……運が悪かったと諦めてもらおう。
弱肉強食は自然のルールって古事記にも書いてあるしね。仕方ないね。
早速石畳の広場に向けて急降下する。
おっとここは俺のマイホームだからな。壊さないよう、着地は慎重に……よし。
周りをぐるりと見渡すとゴブリンたちは逃げたり武器を構えたりと反応は色々だった。
ゴブリン君には悪いが君たちがいくら群れたところで俺には勝てない。爪をブンブン尻尾をブンブン振り回して倒していく。
外の敵が終わったら次は洞窟の中の敵だ。洞窟の入り口に立って、中に向かって光のブレスを放つ。
制圧完了。
ゴブリンの死体はスキルで消すことができる。浄化って言うのかな?光に包まれてきえてなくなるのだ。うーん便利。
さあて念願のマイホームだ。俺の目は厳しいぞ。気に入らなければ即壊して……合格だ。素晴らしい。
なんだろうね。なんかすごく落ち着く。やはり俺の本能は間違っていなかった。
広さは窮屈に感じる一歩手前ぐらいで、それが秘密基地感を出してくれている。
ただし内装はないそうです。……はい。
俺はその場にうずくまる。
疲労感というのは感じていないが、やっと一息つけるのだ。気分的にはひと眠りしたいところだ。
にしてもようやくこれで住所不定ドラゴンから龍神にクラスアップできたわけだ。しばらくはここで龍神をやりながら、自分についてやこの世界について、色々と考えを深めていきたい。
そうして俺はいくつかとりとめのない思考をしているうちに眠りについた。
*****
「……様。……龍神様」
うん? 誰かが俺を呼んでいる。この声は……あのローブの人間だろうか。
洞窟から顔だけ出すとローブの人間とその後ろには村の男たちがいた。
「最近お姿が見えなかったので心配で……お元気そうで何よりです」
ちょっと寝てたくらいで大げさな……と思ったがもしかして何日単位で寝ていたのだろうか。
前世知識だがドラゴンはかなり長生きする生物だったし、時間の感覚が人間とは違う可能性がある。
「こちらささやかですが捧げものです。どうぞお召し上がりください」
そうローブの人間が言うと後ろの男たちが背負っていたかごや壺を地面にそっと置いていく。
「それでは私たちはこれで。これからもか弱き我らをお守りください」
胸の前で手を組んで祈りのポーズをとった後、人間たちは下山していった。
その後ろ姿が完全に見えなくなったところで俺は人間たちが置いていった捧げものとやらに顔を近づける。
ほうほう。酒に料理に豪華だな。
クンクンと嗅いでいるとふと一つのかごから、他とは違った匂いを感じ取る。
何だろうか、甘い匂いだ。スイーツか?
洞窟から身を乗り出して、潰さないように気を付けながら手でかごの蓋を開ける。
そこには幼女が入っていた。
艶めく黒髪に長いマツゲ。肌は雪より白く手足も限りなく細い。顔は丸みを帯びていて、ほっぺはぷにぷにと柔らかそうだ。色々と言ったが一言で表すなら、絶世の美少女だった。
汚れひとつない真っ白なワンピースを身に纏い、胸の前で手を組みながらあお向けに横になっている。
胸がほんの少し上下しており、耳を済ませればかすかに息遣いを感じる。
死んでるわけではないな……まさかこの幼女も食用の捧げものなのだろうか。
もう一度顔を近づけて匂いを嗅いでみる。合法的に幼女をクンカクンカしたい人は是非転生してドラゴンになることをおすすめするぞ。
俺に対して驚いたり恐怖したりしている様子は一切ない。とてもリラックスしているようだ。
これどうしようか……さすがに人間を……幼女を食べるのはなあ。
少し待ってみたが幼女は何もアクションを起こしてくれない。ただ眼を閉じて待っている。
……仕方ないか。
俺は意を決して幼女を殺さないように注意してかごから取り出す。
そしてそのまま口に運ぶ。
うむうまい。肉が柔らかくて、歯が要らないとはまさにこのことだな。
据え膳食わぬはドラゴンの恥だから食った。……というのは冗談で、神などへの捧げものに子供を使うというのは、前世の地球でも昔は実際に行われていた気がする。
この世界でもそういう習慣があっても不思議ではない。
ここで村に帰したりするとお気に召さないだの、お怒りだなんだって面倒なことになりそうだしな。あとは単純に食べたらどうなるんだろうという好奇心もあったが。
……人間って意外とうまいな。世の怪物や神々が供物に人間を要求する理由が分かった気がする。
この料理たちは腐ったりしないんだろうか?酒は何となく数日くらい持ちそうなイメージがあるが、他は分からんな……まあ俺の身体は丈夫だし、多少腐っていても平気か。
捧げものなんてもらい始めたらいよいよ龍神としての地位が確立してきたということだ。……まあ村に何かあったら守ってやらんこともない。
こうして俺はしばらくの安寧の生活環境を手に入れた。
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