第2話

 飛んでいるとふと眼下に小さな村を見つけた。


 いきなり人里近くに住むというのはかなりリスクが高そうだが……まあいい。争いになったら逃げるなり殺すなりすればいいだろう。


 村の少し離れたところに大きな山脈がある。中でも一際高くそびえる山に俺の本能センサーが『駅近並みの優良物件』とビンビンに反応している。


 ……急に話は変わるが、ここがまだ地球という可能性もゼロではない。


 記憶はないが前世で死んで転生したということは分かる。ただ今のところ異世界らしいものは何一つ見ていない。つまりこの記憶が勘違いという可能性だってあるわけだ。


 人間が知らないだけで、地球にドラゴンがいる可能性もきっとゼロではないだろう。


 というか本当にここが地球なら俺の存在自体がロマンの塊だ。大きく新聞の一面を飾ればモテモテになれるな。そして主に束縛とDVの激しい怪しげな白衣の彼ピッピたちと同棲することになるな。なにそれやだ怖い。


 とまあ、馬鹿な妄想をしながら村に目を向ける。すると何やら様子がおかしいことに気付く。


 家が破壊され、何人か倒れている人が見える。


 距離はかなりあるわけだが、意識を向けると詳細に見ることができる。スキル的なやつだろうか。


 そうして俺の目が捉えたのは、何かと戦う村人たちだった。


 農具で戦うおじさんや、お鍋の蓋とお玉で武装したおばちゃん。まともな兵士はおらんのか。……おばちゃん強すぎるだろ勇者かよ……


 対するは……前世知識を信じるならゴブリンだ。


 体格は小柄だが数が多く、次々村人に飛びついていく。


 まあまて、これでもまだここが地球じゃないと決まったわけではない。人間が知らないだけで世界のどこかにはゴブリンとぶつかり稽古をする民族があるかもしれない。


 さらに観察を続けていると、ローブ姿の人が手をかざし、その手のひらからそこそこ大きい氷の塊が射出される。


 まあまて、これでもまだここが地球じゃないと決まったわけではない。人間が知らないだけで世界のどこかには……さすがに苦しい。認めよう。


 ここは異世界だ。


 ってそんなことはどうでもいいんだよ。問題は見殺しにするか助けるかだ。


 本能でわかる。俺にはゴブリンたちを蹴散らす力があると。


 正直どうでもいい。


 確かに前世人間ではあるが、どんな人間だったのかという記憶の部分がぽっかり空いている。そして今の自我を構成しているのはドラゴンの俺なので、趣味嗜好はドラゴンよりなのかもしれない。


 ……これからご近所さんなわけだし、貸しをつくっといた方が得だな。


 俺は一気に速度を上げる。


 村がぐんぐんと近づいてくる。


 大地を揺らしながら、俺は村の中心に着地した。衝撃で近くの家が崩れるが気にしない。ヒーローは遅れても建物壊しても怒られないと相場が決まってる。


 俺を見上げるゴブリンを的確に爪で貫き、薙ぎ払い、足で踏みつぶす。


 意識を集中させるとはっきりとゴブリンの気配を感じることができる。取り逃す心配はなさそうだ。


 ものの数秒で全てのゴブリンを始末し、一息つく。


「龍神……様?」


 先ほどのローブの人間が恐る恐るといったように俺に話しかけてくる。


 龍神? この世界には龍を神として崇める宗教でもあるのか?なら丁度いいな。利用しよう。


 俺ははっきりと頷いて見せた。


 すると村から一気に歓声が上がる。うん、いい気分だ。


 そうして復興作業はそっちのけで、今夜は宴となった。なんだこのパリピ集団。


 ちなみに倒れていた人間たちだが、奇跡的に即死した者はいなかった。なので全て俺の治癒魔法で回復した。


 魔法を使うのは初めてなのだが、そこは本能でやり方を理解することができた。まあ、自分の能力なのに使い方がわからんってのも変な話だしな。


 そして俺はこの世界で初めての食事を迎える。


 といっても俺自身、特に美味しいものに対するこだわりとかは感じない。腹が膨れればいいと思ってる。……おばちゃんがお玉でゴブリンをコトコト煮込んでいる。絵面が強すぎる。


 俺はローブの人間が勧める酒や料理を飲み食いしながら、龍神様に捧げる演舞とやらをみた。なかなか楽しい時間ではあった。


「ところで龍神様はどこでお休みになるのでしょうか?」


 夜も更けてきて、そろそろお開きにという雰囲気になったところでローブの人間にそう聞かれる。


 上空で確認した山を指さした。


「やはりナムノ山ですか! ですが……ご先祖様が山に建てた龍神様の神殿が、現在ゴブリンどもに占拠されてしまっているのです……」


 なぬ?つまり俺の家(予定)が不法占拠されていると?それは許せんな。


「そこを拠点にゴブリンたちの活動が活発になっておりまして……」


 ああ……はいはい。掃除してくれって話ね。


 どうせ何言われても強引にあそこに住むつもりだったから構わない。俺は適当に頷いてから早速山へと飛んだ。


 ……あんまり人間に肩入れすると魔王幹部ルート無くなるか?


 ……まあいい、今は神殿を救い出してあげるのが先だ。待っててね俺のマイホームちゃん!




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