#13 エピローグ
俺はいつのまにか意識を失い、倒れていたらしい。
その時の前後はよく覚えていない。覚えているのは、可憐を助けたいという一心で動いた事と新たな能力に目覚めた事だけ。
気づいたら病院のベッドの上で寝ていた。身体にはどこも異常はなく、すっきりしていた。起き上がると、側で様子を見ていた可憐に抱きつかれた。
涙を流しながらありがとう、と囁かれた時、不思議と悪い気はしなかった。
何があったのかを親父に聞くと、親父は能力の行使によるオーバーヒートだと言っていた。
後から、新しい能力である『エネルギー変換』を試しに使ってみると、脳への負荷がとても大きく、これが原因だなと改めてわかった。
でもこれで、俺は以前よりだいぶ動けるようになった。
「じゃあ行くよーお兄ちゃん!」
「あぁ、いつでもいいぞー!」
「それっ!」
合図とともに、可憐が消しゴムを投げる。
鉛筆で実験しても良かったが、ミスったら痛いので今はまだ消しゴムだ。
「『変換』」
飛んでくる消しゴムの持つ慣性力に干渉して、別のエネルギーへと変換する。
力の向きを変える事は出来ないが、この小さなエネルギーを熱エネルギーに変える事によって、消しゴムは空中で静止し垂直方向に自由落下をした。
「おぉー!成功だ!」
能力の行使開始から完了までおよそ1.0秒、これでもし敵から消しゴムを投げつけられてもドヤ顔で回避する事ができる!
・・・・・・しょぼ。
ちなみに、エネルギーの量や干渉する物質の数によって難易度が変わる。そのため、銃弾などはもちろんまだ防げない。
改良が必要だ。
「じゃあお兄ちゃん、次は同時に10個投げるねー」
「おい、ちょっと待て!多すぎだろ!せめて5個ぐらいから段階を上げて・・・おい、待てって言ってるだろ!」
「これぐらいは簡単に防いでもらわないとな〜大丈夫!私のお兄ちゃんならきっとできるよ!」
「基準をお前レベルにするなよ!」
「じゃあ次は『加速』をかけてみるね〜」
「おい、待て!ほんとに待て!死ぬぞ!死因消しゴムとかしょぼすぎだろ!」
「頑張れー」
俺の救助を求める声は闇に消え、容赦なく発射された消しゴムは、俺の額に直撃した。
あーあ、この演算を自動でやってくれる能力欲しいなーっという事を切に願った。
✳︎
「まさか、活動限界があったとはな。」
「結月の話ですか?」
「あぁもちろん。はっきり言って、無敵だと思われていた結月にも弱点があった。もう既に、彼の守護神である『自立演算』が修正したと思うがな。」
「もう修正を終えたのですか?いくらなんでも早すぎるのでは?」
人工島での襲撃事件の際、街の修復を完了させた結月、いや『自立演算』はオーバーヒートを引き起こし結月本人も同時に気絶した。
しかし、考えてみれば当然の結果であった。
あの時、彼らは分子レベルにまで干渉し分解と結合を行った。
例えば水1gの中でも、いったいどれほど複雑なエネルギーが働いているか、想像するのは難しいだろう。
それを十数分間行使し続けたのだ。
急速に進んだ世界中のAIを集結させても、これを計算するのはほぼ不可能だろう。
おそらく『自立演算』も、過去一難しい演算を行ったのだろう。むしろ、オーバーヒートしたのは当然の結果と言える。
「あぁ、例えば終戦直後に作られた、新たなAIを作り出すAIがいい例だ。あの瞬間からAIの進化は止まらなくなり、すぐに人間を抜き去った。」
しかし、2度目はない。
とてつもなく膨大なデータを得た今の『自立演算』は、おそらく急激な発展を遂げただろう。例えば、許容範囲の一部をクールダウンに使うだけで、どれほど変わるだろうか。他にも、色々な手が考えられる。
今回の一件で、人類の結月への対抗手段は一切なくなった。
「でも、それなら・・・・・・結月は現実のAIのように停止させられてしまうのでしょうか。」
「大丈夫だ、それを守るために俺やお前が、それにあのお方もいる。」
「はい、一緒に支え合いましょう。」
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