#11 上陸阻止作戦
「嘘ん・・・・・・マジじゃん、マジなやつじゃん。」
ビルから煙がもくもくと立ちのぼる様子を見れば、これが現実で起こっている事がわかる。
催眠か偽装系の能力によって間違った物を見せられている可能性はほぼ0に等しいだろう。
遠くの方で、人々が順次避難しているのが見えるが、それを嘲笑うかのように砲撃が続いた。ただの民間人に、音速の数倍で飛んでくる敵の銃弾を防ぐ手段はもちろんない。
「日本軍は何をやってんだよ・・・・・・」
思わずそんな事をぼやく。駐留部隊は何をやっていたのだろうか。敵戦艦による砲撃は止まらない。
だが、被害は抑えられた。
1人の少女が空中に静止しながら、飛んできた砲弾を正面から受け止めた。
「可憐!」
名前を呼ばれた可憐はこちらに振り返ると、ニコッと笑って再び敵戦艦と相対した。
おそらく砲弾に対して『減速』と『マイナス加速』を作用させて砲弾を防いでいるのだろう。
すごい・・・・・・
我が妹ながらその活躍はカッコよかった。
だが、それと同時にある事に気づいた。
「あいつ、やばいんじゃないのか・・・・・・」
遠くから、「早く避難しろ」という声が聞こえるが、それどころじゃなかった。
可憐の『加速』と『減速』には1つ、致命的な欠陥があるのだ。
✳︎
人工島を背に、全ての砲弾を正面から受け止めた可憐は、少しずつだが焦りを感じていた。側から見ていれば、可憐が完璧に抑えているように見える。
しかし、とてつもない量の魔力を保有する可憐でも、当然のことながらその魔力量は有限であった。
「うっ・・・・・・」
近距離ではほぼ無敵の力を振るう事ができる可憐だが、自分から遠い位置にある物体に能力を作用させる場合魔力の消費が激しいという弱点を持つ。
敵の動きを止めたり、自分が速く動く事は得意だが、放たれた砲弾を防御するのはすごく効率が悪い。つまり、拠点防衛能力が低いと言うわけだ。
かと言って、この状況を放置するわけにもいかない。
「やばいかも・・・・・・」
今すぐ、お兄ちゃん助けて!っと大声で叫びたい。しかし盟約上、トリガーをこちら側から無理やり起動させる方法はない。
そう考えている間にも、砲弾は次々と撃ち込まれている。
ちらっと後ろを見てみると、既に市民のシェルターへの避難は済んでいるようであった。
そんな中、ただ1人愛するお兄ちゃんだけは、心配そうにこちらを見ていた。
「そっか、私にはお兄ちゃんが付いているんだった。これなら・・・・・・」
この場で私がとるべき最善の選択は・・・・・・
これしかない。
✳︎
可憐の魔力がゴリゴリと削られていくのを感じる。俺でもわかる勢いで減っていっている。
可憐の能力の射程は魔力がある限り無限だが、有効射程となると半径1kmほどが限界である。それ以上になると魔力の消費を考えながら戦わなければならなくなるのだ。
「あいつ、どうするつもりだ?」
親父はおそらく別の所への対処に回っているだろう。そして、艦隊の姿もない。
「このままじゃ・・・・・・」
かといって俺に出来そうな事は何は一つない。
魔力は相変わらず10しか無い。
能力も全く役に立たない。
運動ができるわけでもなく、勉強ができるわけでもない。
「がはっ!!!」
直後、1発の砲弾が可憐に命中した。
正面に飛んできた砲弾に上手く反応する事が出来ず、『減速』はかけれたものの『マイナス加速』をかける前に可憐の腹部へと直撃した。
同時に、吹き飛ばされ、背後にあったビルにねじ込められた。
魔力を使って身体を強化していたとはいえ、今のダメージは大きいはずだ。
「可憐ー!!!」
思わず大声で叫ぶ、今裸足であった事を忘れ、一目散に駆け寄った。
背後から飛んでくる砲撃を無視して、彼女のもとへと駆け寄る。
砲弾の威力を殺す事には成功したものの、慣性力によって吹き飛ばされ、背中を打った可憐は口から血を流していた。
え?血?
どうする?どうすればいい?
俺は何ができる?何をすべき?
初めて見る姿に困惑する。
頭の中に色々な選択肢が錯乱した。
俺は今何を考えているのだろうか。
いつまでぬるま湯に浸かっているつもりなのだろうか。
強すぎる力は、何のためにあるのか。
そんなの決まっている。
【精神の暴走を確認】
【セーフティー解除】
【血の盟約を一方的に放棄します。】
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