#3 再来

「結月くん、お待たせしてすみません。」


黒髪ロングに、すらっとしたスタイル、街中を歩いていたら2人に1人は振り向くであろう美少女にそんな事を言われたら、誰だってテンションが上がるだろう。


だがしかし、俺はテンションだだ下がり中である。

美少女なのは認める、認めるが性格がヤンデレとは。盗撮や盗聴、自称幼馴染発言はまだ許せるが、監禁&婚姻届(名前記入済み)は流石にラインを越えている。


見渡す限り何もない白い部屋、あるのは俺を縛るために用意された椅子と、婚姻届が置かれたテーブルだけだろうか 。

そしてご丁寧に印鑑まで置いてある。


「俺印鑑なんか作った覚えないぞ!」


「ちゃんと作りましたよ、あ・な・た」


「残念だったな、俺にはたくさんの発信機が仕掛けられているのだ。この事はすぐに可憐に伝えられて・・・・・・」


「ご安心下さい、その発信機なら今、自家用ジェットで沖縄に向かっています。」


そういって、タブレット端末を見せてくる。

そこには複数の発信機のような物が映っており、それがものすごい速さで南西へと進んで行っている。

なんといか、自家用ジェットの無駄遣いとはこの事だ。

ってあれ?


「おい、なんか止まったぞ?」


「止まった?おかしいですね、機械の故障でしょうか。」


一瞬可憐が自家用ジェットを素手で止めているのを思い浮かべたが恐らく気のせいだろう。

それはそうと、俺は今究極な二択を迫られている。

押すか、押さないか。

もちろん俺だって、押さないという選択肢を取りたい。だがそんな事をしてしまった・・・


「私はあくまで、貴方の意志によって印鑑を押す事を望んでいます。」


「えっと・・・断ったとしたら?」


恐る恐る聞いてみると、なんだかものすごい笑顔で返された。素直に怖い。


「聞きたいでしょうか。」


「やっぱいいです。」


危ない危ない、やはり鬼は怒らせるべきではないな。

もし仮にあの時NOを選択したらどんな目にあっていたか、考えるだけで恐ろしい。

ではどうするべきか、素直に従う?いやそんなことをしたら後が怖い。

俺のボディーガード兼ストーカーの可憐の救助は期待できない。


となると次に頼りになるのは親父とかだが・・・・・・


「あぁご安心下さい。結都お父様と咲耶お母様なら私の両親と一緒に旅行に行っていますよ。」


「親父ーーー!っというかお前の親じゃねぇだろ!」


「いえいえ、これから結婚するのですから呼び方はお父様とお母様ですよ。」


平然とした顔で意味のわからない発言をする。真顔で何を言っているのだろうか。

結婚相手ぐらい自分で選ばせろや。


「いや結婚はしなっ!」

「してくれるんですよね?」


「しますします、絶対にします。」


言葉が遮られて、圧力をかけられた俺は圧力に屈した。

所詮は弱肉強食、弱い者は強い者に従う運命なのか。

渋々印鑑を持ち上げた俺は最期の反抗に出る。


うぉぉおおぉぉおーー!!


うぉおおおおー!


うぉぉ・・・


・・・


あれ?折れない。



「硬すぎだろこれ!」


「以前どこかで、印鑑は硬ければ硬いほど愛の力が硬くなると聞いて特注で作りました。」


「そんなとこにお金かけんなや!」


「お金は使うためにあるのです。それが2人の愛のためならば喜んで使いましょう。」


「金持ちめ!」


「何をおっしゃるのですか、結月くん。私の家よりも市野家の方が数倍大きいではありませんか。」


「うちはお前とは違って無駄遣いはしない主義なんだよ。」


実際そうなのだ、うちは代々能力が他の人間とは桁違いにレベルが高い。

そのため、有名な企業や政治家が親戚だなんて話は当たり前、何個かの子会社を持っているらしい。

母が全て管理しているから俺も詳しくは知らないが、世界トップレベルの財力と権力とコネがある。

宇宙船なんかも何隻も保有しており、小さい国となら占領できるほどの力を持っている。


ちなみに親父の方はそういう話はからっきしで相変わらずの脳筋担当だ。


なんて、自分の家を自慢しても、この状況が好転するわけではないのだが・・・・・・

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