#16 変化
「ん・・・・・・ここは・・・」
当たりを見回すが、ここがどこだかわからない。
ただ真っ白な部屋。
周りには何もなく、何も感じない。
「俺の名前は・・・よかった、覚えている。ということは記憶喪失じゃないみたい。」
ここがどこなのかを考えていると、前方に黄色い暖かい光が集まってきた。
そして、人の形をかたどる。
それは自分自身であった。はっきりとではないが、なんとなく自分のような気がする。
「よぉ、元気そうだな。」
「まぁ元気は元気だが・・・・・・いやさっきまで死にそうだったから元気じゃないか。」
「まぁいい、それにしてもお前はあれか?アホなのか?」
声質は俺じゃない、と思う。確信はできない。自分の実際の声は脳が勝手にいじるから聞こえないという話を聞いた事があるからだ。
だが少なくとも、口調は別人だ。
「いやいや、初対面の人にアホとか言うなよ。」
「ぁあーーっまっいいや。今はその認識でいい。」
相変わらず、訳の分からない事を言いやがる。せめて自己紹介ぐらいしろや。っと心の中で愚痴る。
すると、当然聞こえてはいないはずなのに・・・
「してもいいがどうせ忘れるから関係ないだろ。」
返事が返ってきた。どうやら俺の考えている事は透かされているらしい。
「忘れるってどう言う事だよ。」
「そのまんまの意味だ。綺麗さっぱり記憶を消すから何も問題ないと言う事だ。まぁいい、確認したい事はもう確認できた、じゃあお前はそろそろ戻れ。」
「おい、ちょっと待て」
急に話を終わらせてきた男の肩を掴む。だが、それに実体はなかった。
すり抜け、まるでそこにいないんじゃないかと錯覚してしまう。
「おい!!!待てよ!!!」
そんな言葉が届くはずもなく、視界が白く染まっていく。
「待てよ!!!」
「大丈夫?お兄ちゃん!怖い夢でも見たの?」
気がつくと、上に伸ばした右手は可憐に握られていた。
そして、ふと気づく。俺は一体何を待っていたのか。いや、そもそもそこも怪しい。
もしかしたら待って欲しかったのではなく、待っていたのかもしれない。
「いや、大丈夫だ。問題ない。」
俺は、そう告げると起きあがろうとする。だが、身体が思うように起き上がらない。
手足は十分に動くのに、身体だけは可憐の膝に張り付いて動かない。
普通なら神経がおかしくなってしまったのではないかと疑う場面であるが、目の前にいる人物によってその可能性は否定される。
「『能力』を解いてくれ、可憐。」
「え?なんのことですか?お兄ちゃん」
「『マイナス加速』と『減速』を解いてくれって言っているんだ。」
「え?何の事ですか?」
『何も知らない』かのように首を傾げる。
まるで、本当に何も知らないかのようにだ。
一瞬、可憐の言葉を信じてしまいそうになる、しかし・・・・・・
「可憐、ゆーくんに嘘は良くないんじゃないかな。」
「あっ!!ごめんなさい、お兄ちゃん!」
俺が寝ているベッドの脇に座っていた桐生が声をあげた。どうやらここは病院らしく、あの爆発に巻き込まれた俺は気を失ったらしい。向かいに置いてあるTVにはその事件についての報道が行われていた。
それにしても・・・
「ゆーくん?」
「あ、これは違うの間違い、間違いだから!!!」
「あ、そうですか・・・」
「ゴホン、ともかくだ。無事で何よりだ、結月。」
「ご迷惑をおかけしました。」
暫くして、両親が海外からやってきて、めっちゃ心配してくれた。
桐生さんは、両親に深々と頭を下げた後、別室でこの事件の経緯を話した。
そして、俺はというと・・・
「おはよ、お兄ちゃん。今日もいい天気だね。」
「あぁいい天気だな・・・・・・で何でお前がここにいるんだよ。」
「妹たるもの、常にお兄ちゃんの傍にいるのです。」
「昨日鍵かけたよな。」
「いえ、鍵はかかっていませんでしたよ?」
何事もなかったかのように平然と噓を付く可憐。
「噓つけ!!!」
今日も日常はかわらない。
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読んでいただきありがとうございます。
前作『序列1位の最強魔法師に明日はあるのか』もよろしくお願いします!
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