其の五
†5†
昼休み、
二段になっている弁当箱の上段は焼いた鮭の切り身にマカロニサラダで、小さくパック分けされたタルタルソースまで入っている。一方で下段には焼きのりを乗せたご飯が入っていて、どこか定食のような印象を受けた。
「小豆のお弁当、今日も個性的だねー」
「味噌汁もあるわよ。ったく、定食屋じゃあるまいし」
友人たちに答えながら、小豆は味噌汁を持ち上げて見せる。
広口の保温ポットで持ってきたお湯にインスタントの味噌汁を溶かしたものだ。
小豆個人としては味付けが濃くて好きではないのだが、飲めないわけではないし、と我慢している。
一緒に食べている友人たちは、あるいは自分で作ったファンシーなお弁当だったり、もしくは購買部で買ってきたパンだったりとまちまちなものを持ち寄っていて、母親の弁当を持ってきているのは小豆くらいなものだ。本気で嫌っているわけではないが、なんとなく毒づきたくなるのは年頃のせいだろうか。
「そういえば小豆さ、彼とはどうなの?」
「どうって何よ? それに彼って誰?」
「いやぁ、だから部活で一緒の彼だよ」
友人に追求されて、小豆は思わず声が高くなった。
「
「本当に?」
「本当よ、本当」
「怪しいなぁ? そもそも小豆、絵が描けないじゃん」
「うぐ……。か、関係ないじゃない!」
思わず声が大きくなる。
「あー、やっぱりなんかあるんだー」
盛り上がる友人たちに、小豆は正直ついていけないと肩をすくめた。
友人たちはお互いの恋愛事情で盛り上がっていたが、ふいに一人が気になることを口にした。
「そういえばさ、
「聞いた聞いた。今朝、
「なんでも足を挫いたところを朽木先輩に助けられたんだって」
「えぇ、いっそ
「ふうん。世の中妙なミラクルがあるものね」
小豆は
純も純で、彼女の友人たちと弁当を食べながら話している。
少し頬が
その純の肩のあたりに、小さな影が見えた。
「……?」
小豆は目を凝らして影をよく見ようとしたが、影はぴょん、と飛び跳ねて瞬時に姿を
「何だったのかしら? 大したものでもなさそうだったけど……」
「どうした小豆ー? また何か変なものでも見えた?」
「別に何でもないわ」
そう答えはするものの、ひょっとしたらあれは純が言っていたお守りと関係があるのかもしれない。
小豆はそう疑っていた。
確証はないが、もしそうだったとすれば以前彼女が話していた「いい先輩」という人物は本当に善意でお守りをくれたのだろうか。
考えれば考えるほどに疑惑に囚われていく。
小豆は弁当を食べ終わると、純の席に近づいていった。
「筒井さん、今朝はとんだ災難だったみたいね」
「え、うん。でも大丈夫だよ。ちょっとシップ貼っとけば治る程度だし、それに、朽木先輩と知り合いになれたし」
「あら、災い転じて福となす、ね。がんばって」
「はわっ!? う、うん」
純の顔がどんどん赤くなっていく。
「あら、ごめんなさい。てっきり朽木先輩のことが好きなのかと」
何気ない風を装って話してはいるが、小豆の目は油断なく純の周囲を走っている。
「はわわわわっ!? そんなことないデスヨ!?」
「あら、楽しい反応だこと」
小豆はひとしきり純をからかいながらさっき見た影を探したが、見つからなかった。
「そ、それじゃあ
「あら、あたし? あたしは別になんにもないわよ」
「えぇー? この前の彼と付き合ってるんでしょ?」
「つっ、付き合ってなんかないわよ!」
小豆は思わず声を荒らげた。だが、すぐにそれが墓穴を掘る行為だったと気付く。
「へぇ、そうなんだぁー」
「ああ、やっぱりね」
「オトコに興味ないなんて顔して、やるじゃん」
周囲に少しずつざわめきが広がっていく。
「えっ、あ、ちが……ちょっと!」
小豆はあたふたと言い訳を並べたが、誰一人として耳を貸さない。
「んもう、筒井さんのせいで変な噂が広まっちゃうじゃない!」
「はわ? 火のないところに煙は出ないんだよ?」
「あんたが発煙筒焚いてんじゃないの!」
小豆はぐったりとしながら自分の席に帰ったが、そこで待ち受けていた友人たちに再びもみくちゃにされるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます