一日一編集『臙脂に染まる』

聞こえる音

あるアパートに住んでいる自分は

一階に住んでおり

週に一回は、上の住人

その部屋から女性たちの笑い合う声がする

とても楽しそうなので

週に一回ぐらいは、と

心に思う

大抵は休日で、自分も休日

昼間で寝込み

起き上がっては静か

だいたいは夕方近くにやってくる

声を聞きながら

自分はパソコンをつけてプレイリストを押す

そうすれば小さいパーソナルなスペースを確保した

大声でもないし

笑い声が聞こえるだけで不愉快ではない

と、言っておこう

むしろ有り難い

どうも両隣は静かで困る

生活音がしないのだ

生きた心地がするのは上のご婦人だけだ

前は斜め上のご老人がギターを弾いていたり

ポストを見に行けば煙草の臭いがした

いつの間にかしなくなったが

ああ、今日も上から声が聞こえる

日常っぽくていい

そういえば、ご婦人の前は三十代っぽい

女性が住んでいた

なにか通販でもしていたみたいで

小さな段ボールを手にして階段を降りるところを何度も見た

しかし、いつのまにやら空室になったらしく

大家が部屋の換気のために忙しなくアパートに来ていた

そりゃもうガタンガタンと窓を開けたり閉めたり

すごい音だった

不安になって二階に行ったこともある

（ここで大家とクリーニング業者だと知った）

自分が「静かにしてほしい」と言っても

大家は入り口に立つ自分を見て知らんぷりをきめていた

一応、住人であるからに、その無視はムカついた

腹を立てたはいいものの、それ以上、何も言えない

とぼとぼ部屋に帰ってパソコンと音楽にスイッチを入れた

そういえば、うちのアパートは幽霊屋敷を改造して出来た代物らしい

らしいって言うのは不動産屋が口にしていただけで

本当のところは分からない

自分が住んで、その手のことは起こっていないけれども

だから両隣は静かなのかもしれない。でも、すぐに引っ越すし

何かあるのかも知れない

できれば、ご婦人は長く続くといいなあ、と思っている