承ノ章5
学校。
育野双葉は一唯翔がまだ登校していないことに気が付いた。
「珍しいな。一唯翔くんが学校に遅刻とは」
遅刻しそうになることは多々あったけれどなんだかんだと間に合わせるのが一唯翔という少年だった。
それが明確に遅刻しているあたり、どうにも不思議だ。
風邪でもひいたのかと考えたけれど、律儀な彼ならば誰かしらに連絡の一つでも入るはずだった。
いままでとは違う何かがあったのか?
そんな益体もないことを考えて、浮かび上がったのは大嵩渚のことだった。
「……」
ふと、双葉は部活のグループラインを開き、そこから渚のアカウントを探して連絡をしてみる。
いつものグループではいの一番に返信を返す彼女からどうにも連絡がない。
「……」
他の後輩に尋ねてみるとどうやら大嵩渚は今日欠席していたらしい。
しかもいきなりの無断欠席でこんなことは初めてだという。
「……」
大嵩渚。手芸部の後輩。
いつの間にか自分にできていた後輩。
気さくで明るくおしゃべりで少々空気が読めなくうざさ強めの後輩女子。
どういうわけか一唯翔に初対面で距離を詰めてきていた。
確か彼女の家は――。
「……神社だった」
そう。珍しいものだから覚えていた。
N市内のわりと大きめの神社の娘なのだ。
ボンヤリとした益体のない考えが妙に繋がっていく感覚になんだかむずむずする。
どうにも座っていられなくて、双葉は席を立った。
※
「リベツ神社って知ってますか? まあ知ってますよね。有名ですから」
重たすぎる頭を持ち上げて、一唯翔はあたりを見回す。
薄暗い社の中らしい場所で椅子に縛られている。
「あ、リベツ神社のリベツは離別のリベツじゃないですよ。そこはお間違いなく」
「きみは……」
一唯翔の向かいで大嵩渚は黒く光る石を弄んでいる。
特に意味がなく暇で手持無沙汰だからいじっている感じだ。
「センパイにちょっとした呪術をかけました。対策を警戒して結構強めのを使ったんでのでしばらくはしんどいといもいますけど我慢してくださいね」
「きみはなにもので、……なんでこんなことを」
弄ぶ手を止めずに「んー」と声を出しながら。
「別にセンパイ個人に恨むつらみはないですよ。ただ、
「……どうして、えりかを……」
えりか? と渚は首を傾げて「ああ」と石を弄ぶ手を止めた。
「ここにいれたアレのことですね」
「……っ……」
「ねぇセンパイ。百年以上前にいた巫女のことって知ってます?」
一唯翔は震える体でどうにか頷く。
「じゃあ知ってると思うんですけど。巫女が
「……それはつまり、……復讐が目的ということ? えりかのせいで、自分が嫌な役回りを背負うことになったから?」
「え? そう聞こえました? あー、いや別にそんな御大層なものでもないですよ。でもやっぱそういうお役目的なものってめんどいし、なくなったら楽だなーって……。そんな感じですけど。あ、もういい時間ですね」
そういうと渚は懐から小さな水晶を取り出した。
淡く輝く見るからに脆そうなその水晶を渚は人差し指と親指の間に挟む。
「なにを……」
「ハンバードさんに、連絡を入れるんですよ」
「なっ……!」
ハンバード。
ハンバード・レェ。
さゆりさんの話で聞いた男。
当時の彼女たちを攫い、魂を分断った百年以上の時を生きる得体の知れない男。
大嵩渚は、何故巫女が消息を絶ったのかを間違いなく知らない。
知っていたら彼の男にそんな気楽に連絡を取らないだろう。
「ま、待って……!」
「ハンバードさんはすごいんですよ。海外のすごい学者の方でこの幽霊を渡せば、あたしの役目も終わらせられるって言ってくれて。いやー、超かっこよくてぇ」
そういって、渚は指先の力を入れて。
バガンと扉が破壊されて、蹴り飛ばされた。
「ぎゃ!」
床に転がる大嵩渚の手から、黒い石が転がり割れて、えりかが飛び出した。
「な、何⁉ どういう、」
「えりか、一唯翔さん。今助けに来ました」
低い女性の声。
渚を蹴り飛ばしたさゆりさんの声だった。
彼女は二人の安否を確認した後、すぐに蹴り飛ばした渚を見る。
「……っ」
その手にあった水晶は既に砕かれていた。
次の瞬間。眩い闇があった。
ぐらりと、空間が揺らぎ、いなかったはずのものが現れる。
斯くて、ハンバードがその場に出現する。
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