起ノ章4.5

 昨晩から降り出した雨は数十年ぶりの大雨になりN川の氾濫を招くこととなる。

 梅雨にはまだはやい記録的な豪雨により、その日の学校は臨時休校になった。

「……」

 窓の外、硝子を打ち付けるようなその雨粒をえりかはじっと見つめていた。

 雨音だけが部屋の中を支配している。

 静かだった。

 雨を静かに見つめるえりかの顔を、一唯翔は見ていた。

 いつもの、無邪気な少女の笑顔とは違う、どこか浮世離れした憂いのあるよこがお。

 一唯翔は、目の前の少女のことをよく知らない。

 彼女が幽霊で、もともとは百年以上昔にいたこと、巫女のようなナニカであったこと、何の因果か、石の中に封じられていたこと。

 それから、普段は明るい女の子であること。

 それはあまりに具体性のない、どこかボンヤリとした理解である。

 ふいに、よこがおが動いた。

 その時、自分が彼女に見惚れていたことに、一唯翔は気がついた。

「カイト」

 彼女が名前を呼ぶ。甘い鈴のような声。

「雨、もうすぐ止むね」

 まだ大粒の雨は降りしきるばかりである。

 どこかその表情は安堵が滲んでいるように見えた。


 一唯翔はえりかを、良く知らない。

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