起ノ章4.5
昨晩から降り出した雨は数十年ぶりの大雨になりN川の氾濫を招くこととなる。
梅雨にはまだはやい記録的な豪雨により、その日の学校は臨時休校になった。
「……」
窓の外、硝子を打ち付けるようなその雨粒をえりかはじっと見つめていた。
雨音だけが部屋の中を支配している。
静かだった。
雨を静かに見つめるえりかの顔を、一唯翔は見ていた。
いつもの、無邪気な少女の笑顔とは違う、どこか浮世離れした憂いのあるよこがお。
一唯翔は、目の前の少女のことをよく知らない。
彼女が幽霊で、もともとは百年以上昔にいたこと、巫女のようなナニカであったこと、何の因果か、石の中に封じられていたこと。
それから、普段は明るい女の子であること。
それはあまりに具体性のない、どこかボンヤリとした理解である。
ふいに、よこがおが動いた。
その時、自分が彼女に見惚れていたことに、一唯翔は気がついた。
「カイト」
彼女が名前を呼ぶ。甘い鈴のような声。
「雨、もうすぐ止むね」
まだ大粒の雨は降りしきるばかりである。
どこかその表情は安堵が滲んでいるように見えた。
一唯翔はえりかを、良く知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます