デート中にスマホ充電してるやつって絶対モテないよな。あとシャカシャカチキンを振りすぎて地面に落としてしまうやつも絶対モテないよな。



「女子とカフェにいくのは初めての経験だ……」

 

「じゃあ、先輩のカフェ童貞はわたしが奪っちゃったってわけですね」


「ブボッ!!」


 突然ねこちゃんがそんな下ネタをいうものだからついついブラックコーヒーを吹き出してしまった。

 おしぼりで顔を拭いていると彼女がチーズケーキをフォークで切っているのがみえた。

 アイスクリーム柄のTシャツを着ている。


「たべたいですか?」


「え、」


「あげなーい」


 俺の前でわざとらしく大きな口を開けて、彼女がチーズケーキを頬張った。

 なにこの生き物……可愛すぎるんですけど。


「別にいらないやい!」


「あげませんよー」


 いってまたチーズケーキを口に運んだ。

 ああ、なりたい。チーズケーキになりたい。胃の中に入って腸まで流れていって、出口までいきたい。


「先輩って休日はなにをしてるんですか」

 

 向かい側の彼女がそう言う。

 なにしてるんだろう。なにもしてないかも。


「悟りを開くためにメッカに出向いてる」


「へー」


「ねこちゃんは?」


「わたしもです」

 

「え、メッカに出向いてるの?」


「はい」


「気が合うなあ」


 俺はわざとらしく返事をするが、彼女は退屈そうにチーズケーキを眺めているだけであった。

 機嫌良くないのだろうか。


「先輩って思ったより普通の人ですね」


「……ぎくっ」


「別に悪いいみじゃないですけど」


 悪い意味に聞こえるんですけど。


「ねこちゃん、俺は傷ついたぞ!」


「あら、傷つけるようなことを言ってしまったのならごめんなさいします」


「ごめんなさいしてくれ!」


「ごめんなさい」


「それでいいんだ!!」


 無理にテンションを上げて言うが、彼女はやはりどこか退屈そうだ。

 なんなんだろうか。

 この変な感じは。



「あーなんかつまんないです」



 え、



「おもしろいこといってください」



 いや、え? え?



「こんなに退屈なデートはじめてです。おもしろいこといってくださいよ」



 はい? え、え、こんな感じの子だったっけ?


 

「ねこちゃんさん……?」



 俺がぽかーんとしていると、彼女はニヤリと笑った。ネコのような瞳でこちらをみている。



「先輩って実はおもしろくないんですか。それともまだ今日は本領を発揮できていないだけなんですか。先輩がいいひとってのはわかってるんですけど、でも、わたしにとってのいい人になってほしいなーって気持ちもあります。……これも、ワガママかなぁ?」



 彼女が手を伸ばす。

 俺の手を取って、袖をまくってゆく。

 肘のところまでたくし上げてから、こう言った。



「先輩って腕の毛が濃いですよね。知ってますか。女子って薄いほうがすきなんですよ?」



 ※ ※ ※



 カフェから出て行く。すると、突然彼女は俺の腕に抱きついてきた。身体を預けてくる。


「ね、ねこちゃんさん……?」


「わたし先輩のこと大好き」


「え、、、」


「先輩はわたしのことすきですか」



 夕暮れの帰り道を二人で歩いている。

 光が影を映し出している。



「好きかと言われれば好きだけど……好きじゃないと言われれば好きだし……嫌いじゃないけど、嫌いじゃないけど、嫌いじゃないけど──生理的にむ」


「ここはふざける場面じゃないですよ」


「……もう一度チャンスをください」


「わたしは先輩のことがすきです」


「以下同文……」


「先輩はわたしのことがすきですか?」



 …………。



「照れる場面でもないですよ」



 。。。。。




「す、す、す好きです」


「誰が?」


「おれが」


「誰のことを?」


「ねこちゃんのことを」


「どのくらい?」


「どのくらいと言われましても……」


「証明してくださいよ。ほら、はやく」



 小柄な彼女が俺を見ている。

 動けない。何をどうしたらいいのかわからない。

 戸惑って動けない俺を、彼女ははぁと苦笑した。



「ごめんなさい。初めてでしたよね? きんちょーしているのに変なことを強要しちゃいました」



「いや……大丈夫」



「ちなみに先輩『すき』の反対ってなにかしってますか」



「…………」



 嫌いだろうか。




「……無関心?」





「きす」




 小柄な彼女が背伸びをする。

 踵の裏が地面から離れて──俺と彼女の唇が触れ合う。影が二人を照らしている。



「どうでしたか。初ちゅーの感想は」


「え、え、え、え、」


「感想はって聞いてるんです。先輩得意ですよね? おもしろいことを言う“ちゃんす!”ですよ」



 俺は苦笑する。



「自分がもし蟹だったら……泡吹いて倒れてる」



「あ、今のはおもしろかったです。合格」



 彼女は手をぎゅっと握りしめてきた。




「そういうところがとってもだいすき」




 もうすぐ俺は死ぬのだろうか。

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