落ち込んだ時はハッピーライフスタイルを読んで元気もらってるやつ、ワイ以外におる?
「先輩、週末おひまですか。カフェいきませんか」
ねこちゃんがそうやって誘ってきたのは金曜日の昼休みのことであった。
デートである。即ちデートである。
でででででデート!? この俺がデート!?
いや、そんなはずはない!
なにか裏があるはずだ!
そうにちがいない!!
「なぁ後輩くん」
「ねこちゃんです」
「君は……」
「ねこちゃんって呼ばないと返事しませんよ?」
……。
「ね、ねこちゃんは」
「よろしい」
「もしかしてなんだけど」
「なんでしょう」
「なにかこう……陶磁器とか興味あったりする?」
「とうじき?」
「要するに……壺なんだけど」
「つぼ」
「もしそのお誘いを受けてカフェに行ったとして、ねずみ講さながら『高い壺を買わないか?』とせがんだりはしないかなと思いまして」
「……」
いつものようにジョークをこぼす。
するとねこちゃんは口を閉じ俯いた。
だが、すぐに「あっ」と顔を上げた。
「別に先輩がいやだったら大丈夫ですよ」
「え、」
「疑っているんだったら結構ですよ。わたしとカフェに行くのが嫌で全然行きたく無いと思うのであれば別にこれ以上、誘ったりしませんし?」
「あ、いや……その」
「週末おひまじゃないですね? わかりました! じゃあ、授業あるんで戻りますねー。では」
「あ、ちょっと……!」
立ち上がって去ろうとする彼女を俺は呼び止める。怒らせるつもりなんて全然なかった。
ただ俺と一緒に行って周りからの目を気にしないのかなと思っただけである。
「……待ってくれ。行きたいんだ、カフェに」
「いきたいんですか? でもさっきわたしが陶磁器を売ったりするの警戒していましたよね。カフェにいったら後ろから変な男たちが現れてねずみ講の勧誘とかされるんじゃないかと思ってるんじゃないんですか?」
「……」
「怖がられている相手といっても楽しくないと思うんで結構ですよ。先輩が嫌ならばもうここに来ませんし、迷惑だと思うなら今後話しかけたりもしませんし。というか、カフェだって一緒に歩いて探すつもりだったんですけどね」
…………。
「わたしは先輩と喋っていっぱい仲良くなりたい、たくさん色んなことをしりたいと思っているのに、先輩はわたしと一緒にどこかにいくのがこわいんですね。みられたくないんですね。まだ疑っているんですか」
……。
「人を疑っているのは傷つきたくないからですよね。気づいてないと思ってましたか? 気づいてますよ。先輩がずぅーっとわたしを警戒してるのをわたしが気づいてないわけないじゃないですか」
……。
「どうすれば信じてもらえるんですか、だなんて言いたくもないですよ。わたしから近づいてきているんだからわたしの問題ですし。でも、ですよ。でもわたしだって傷つくんですよ? 先輩がわたしのことをなにも聞かないのはこわいからだってしってます。ただ、わたしだって聞かれたいし知られたい。これってワガママですか?」
「いや……その」
ねこちゃんが語尾を強くしてはじめて本音を見せた。
俺は答えれない。
何を言えばいいかわからない。
「……わかってますよ。ワガママだってことくらい。気にしません。でも、先輩にもちょっとくらい思っていることを言ってほしいです。ちっぽけな願いです」
彼女はそう言って俯く。
「えっと」となんとか言葉を繋ぐが、なにも出てこない。
はじめて彼女を見かけたとき、彼女は元カレのショーさんに
それをずっと引きずっているのかもしれない。
そう、忘れていたが、彼女は失恋直後なのだ。
だから俺を求めているのかもしれない。
そんな弱々しい女子をどうして俺は更に傷つけようとしているのか。
「……ワガママなんかじゃないぜ」
静かに肩に手を置く。
「お、おれは……自分に自信がないんだ。だだだ、だから、思っていることも言えないし、に、人間不信だし……すぐに逃げてしまう……。ギャグやボケを多用しているのは……弱い自分を隠すためだ……」
ガタガタと震えながら言葉を吐く。
「小学生の頃にいじめられてから……俺は、人が怖くなった。昼休みいつもここにいるのは……一人じゃないと落ち着かないから……。で、でも、一人が好きってわけじゃない。本当は……色んな人に囲まれたい。だから、教室では……お調子者キャラを演じてる」
彼女の目をしっかり見つめる。
誰かに本音を告げたのは初めてだ。
「女子にはよく気持ち悪いと言われる……。気にしないようにはしてるけど、気になってしょうがない。だから、君と一緒にいたら君も気持ち悪がられるんじゃないかなと思って……。嫌なんじゃないかなって。だって、俺……顔だって不細工だし、ぽっちゃりだし」
「かんがえすぎですよ。きにしてません」
ねこちゃんはすぐに拒否した。
「あ、ありがとう……。だから、ええっと」
「はい」
「いやじゃないんだ。……だから、その」
「はい」
額からは汗が落ちてゆく。
俺は「はぁ、はぁ」と呼吸を荒くしながら、彼女に向かってちっぽけな願いを吐く。
「俺と……週末、カフェにいってくれないか」
いうとねこちゃんは笑った。
「しょうがないですね。先輩がそこまでいうのなら、いってあげてもいいですよ?」
俺もつられて笑った。
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