クラスではお調子者キャラな俺でも、真剣にこの子を好きになってもいいのだろうか。
バスの終点前でピンポン押すやつ頭おかしすぎない?だって次着くの確定してるのに運転手にプレッシャー与えるためだけにピンポン押すんだぜ? おかしいよな。ピンポーン……ピンポーン……次、終点です。
バスの終点前でピンポン押すやつ頭おかしすぎない?だって次着くの確定してるのに運転手にプレッシャー与えるためだけにピンポン押すんだぜ? おかしいよな。ピンポーン……ピンポーン……次、終点です。
「先輩って出身はどこですか」
あ、先輩になった。
「湘南」
「あら」
「人からは“湘南のハマ”ってそう、呼ばれてる」
「ほんとうは?」
「……浜松」
「静岡県でしたか」
これも嘘である。普通に都内。
「ヒーローさんみたいな人に会ったことがなかったので気になりました」
「そりゃそうだろうな」
「はい?」
「僕らは……今まで会ったことなかったからね!☆」
「そうですね」
彼女は俺に慣れてきたのかスルーすることが多くなってきた。
「君はどこなんだい」
「当ててください」
「佐渡島」
「ちがいます」
「屋久島」
「ちがいます」
「小豆島」
「ぶっぶー」
「奄美大島」
「なんで島中心なんですか」
ちがったようだ。
「島ぐらしのアリエッティじゃなかったのか……」
「島ぐらしのアリエッティだなんてわたし一言でもいいましたか?」
「悲しみ蓮根大根丸を地元で育てているって」
「なんですかそれ。育てていません。ちゃかさないでくださいよ」
彼女はそう言って少し笑った。
「先輩は不思議なひとです」
……。
「後輩も不思議だと思うけど」
「なんでですか」
「こんな俺と関わろうとしてくれているから」
言ってミルクを吸う。
彼女はじっとこちらを見ている。
「関わっちゃだめなんですか」
「うん。だって俺、国から危険視されてる“サイコメトリー”だし」
「さいこめとりー」
「アダムの木から産まれてアマゾンの奥地で修行を重ねてきた“デスストラクション”の門番だから」
「ですすとらくしょん」
「必殺技は“バーニングファイヤー”」
「ばーにんぐふぁいやー」
「“ドライブコントローラー”によって動かされている“タイムトレイン”っていうのかな? あ、ごめん。これみんなには内緒ね?」
「どらいぶこん……なるほど」
俺が右手を前に出して左手で目を隠すと、彼女はおおーとその様子を見ていた。
そして頷く。
「やっぱり先輩ってすごいです。物知りですし、色んな言葉をしってるし。なによりずっとおもしろいです。もっともっとおしえてください」
「…………なにを」
「先輩のことを、です」
とは言われてもただボケているだけである。
「すいかって実は野菜だって知ってた?」
「え、そうなんですか」
「そうなんだって。でも俺はずっと違うと思ってた」
「果物だとおもいますよね」
「いや、てっきり乗車カードかと」
「……はい?」
彼女がぽかーんとしている。
俺はドヤ顔を続けている。滑ったとしても臆してはならない。これはボケるときのルールである。
「──“Suica”だけに」
「あ、はい」
パッと手を開いて微笑みかけたが、彼女は未だにぽかーんとしている。全然わかっていないらしい。
「……いや、その」
胸ポケットから定期券を出してきて「これこれ……」と小さく呟くと「あー」と口を開いた。
「わかったところで、って感じですね」
……。
※ ※ ※
「でもおもしろいって思う人はいるかもしれないですね」
いねーよ。
「わたしにはぜんぜんわからなかっただけで、先輩のおもしろさは折り紙付きですし」
やめて。
「クラスではいつもみんなのにんきものですし」
……やめて。
「愛されきゃらですもんね?」
どこがやねん。女子から全然好かれてないわい!
「かっこいいとおもいます」
……はずい。
「ありがトーマス……ぽっぽー」
照れ臭くなるといつも茶化す。
こんなことでしかコミュニケーションを取れない。
「先輩のことをいっぱいしりたいきもちはあります」
「あざす」
「でも先輩は逆にわたしのことを全然きいてこないですよね?」
「え、」
「それはなぜですか」
彼女が流し目でそう言ってくる。
照れ臭いからだよ!言わせんな!
「わたしに興味がないんですか」
「いや、その……」
「わたしにみりょくがないから?」
「じゃなくて、その……」
恥ずかしいだけです。
「じゃあ、ええっと……お名前は?」
そういえば名前すらも聞いてなかった。
「はぁ」
言うと彼女は立ち上がった。俺の前でくるりと回って、にやっと笑う。
「くるみ ねこ」
……?
「
……ねこ。
「ねこちゃんって呼んでくださいね? 先輩」
ねこちゃんのスカートがひらりと揺れた。
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