#2 支配者

オロカを警備兵に引き渡し、ペンタグに火傷の治療をして貰ってから帰宅した。微妙に痛む包帯の内側のせいで中々寝付けなかった。


ーーーーーーーーーー


アダムスキーには教会にて祈祷を行う日課があった。自らの手で首を落とした罪人達へ祈りを捧げる。いつから始めたことかは忘れてしまっていたが、いくら罪人と言えども人を手にかけることに何も感じない筈が無い。故のことだ。


早朝、彼が教会に足を踏み入れると、今日は珍しく3人も先客がいた。普段は神父や修道士が偶にいる程度だったのが、マスクを常々ぶら下げているペンダグが可愛く見える程珍妙な格好をしたそれぞれ白と黒一色の人物2人が腰掛けていて、更に奥にて祈りを捧げる体勢のまま微動だにしない修道女が1人。


邪魔にならないよう自分も席に腰掛けようとした時、祈りを終えたらしい修道女が、立ち上がり、アダムスキーに気が付くと、彼の方へ近付いてきた。


「貴方、生きた目をしていません。何か悩みでも?」

「......、仕事柄」

「左様でございますか。私この通り修行の身ではございますが、耐えられなくなった時は何時でもご相談ください......」

「どうも......。少なくともこの時間では今まで見なかった顔ですが、一体何故?」

「異国の盗人の死刑執行日が1週間後に決定いたしましたので、こうして祈りを捧げに。窃盗に留まらず魔法での殺人未遂。妥当でございましょう」

「(......俺もまだ知らない情報を何で知ってるんだ。それに、妥当って。そういうもんなのか?)」


アダムスキーは修道女の発言全てに違和感を覚えた。


「ルロイさん、もう良いでしょう。時間が追ってます」

「あら、すみません。ただいま」


帽子を被った黒ずくめがルロイと言う名らしい修道女に声を掛けた。


「......彼らは、友人ですか?」

「同僚です」


......とても修道士には見えない。


「白ずくめのトンガリ頭巾のお方がドッガー・キャットマンさん、黒ずくめの帽子のお方がバナド・バーナードさん。そして私は、ルロイでございます」

「......アダムスキー」


ルロイは青みがかった髪を耳に掛けた。


ーーーーーーーーーー


ルロイの言った通りあれから1週間後にオロカの処刑が執り行われることになった。しかもアダムスキーが。


「頑張れよアダム〜」

「はいはい、頑張って来ますよ」


高台の下にいるペンタグと軽い挨拶を済ませ、オロカの登場を待つ。


そして数分もしない内に、オロカが兵に連れられて高台に現れた。さすがに前国王程では無いが、群衆は大いに熱狂している。


「ミゼン王の戴冠から初の処刑が異国人とはな!」

「ミゼン王の為にもスパッと一発で綺麗に切れよー!」


......ミゼン王、革命の主導者。前国王を断頭台に蹴り落とした男。今国民から大人気の男を、前国王は信用するなと言った。唯の負け惜しみと言えばそれまでだ。だが......


アダムスキーはオロカと目が合った。オロカは驚いたような顔をしていたが、そんなことは問題では無い。明るい所でちゃんとオロカの顔を見るのは初めてだ。オロカは生きた目をしていなかった。


兵がオロカを跪かせる。


「では、これより処刑を開始する」

「......」


アダムスキーは剣を振り翳す。オロカは俯いて動かない。


「(......分からない。今まで、俺は、王だって......)」


何故かそれきり剣を振り下ろせない。群衆の声色が、少しずつ変化していく。


「(..................)」


......アダムスキーは、


............アダムスキーは、


剣の側面で、傍の兵を殴り倒していた。


「!?」


群衆、否、この場の全員、有り得ない光景を前に思考を一瞬停止した。


その隙にアダムスキーはオロカを抱えて、


「どけえええェッ!!」


高台から飛び降り群衆の中を突っ切って逃げていったのだった。


ーーーーーーーーーー


2人は森の中にまで逃げていた。


「ハァ......ハァ......、ここまで来れば大丈夫だろ」

「......何故、妾を助けた」

「え?」

「何故妾を助けたのじゃ!!自分が何をしたのか分かっておるのか!!」


「......、分かるけど、分かんねェ......。はは、どうしちまったんだろうな......俺」


オロカは絶句した。


その時、何かがこちらに近付いてくる音がした。


「!」


2人は息を飲む。......そこから現れたのは、


「お、こんなとこにいたのか。探したぜ」

「な......ペンタグ!?お前、どうして......、その馬車は?まさか、俺を捕まえに......」

「違うよ。これ、使えよ」


アダムスキーは絶句した。何を言っているのだお前は。この馬車を使って、逃げろとでも言いたいのか。


「これで逃げろって......?でも、何で......」

「あン?友達だからだよ」

「........................」


突如アダムスキーはペンタグの顔面に拳を叩き込んだ。


「ブッ!?ってえぇッ!!......何すんだ!?」

「お前は俺に脅されて止むを得ず俺に馬車を明け渡した。いいな?」

「......、あぁ、そういうことにしとくよ」


「......妾の故郷を目指す。そこが最も安全じゃ」

「成る程。分かった。花の国へ行こう」


2人は馬車に乗る。


「......あの、お主」

「......何だ?」

「飯を盗んで......すまなかった、のじゃ......」

「今度返せよ」

「え......わ、分かった」

「じゃあな、ペンタグ。......ありがとな」


それを皮切りに、馬車はみるみる小さくなっていった。


「へへ......痛ェな......」


ーーーーーーーーーー


「見失いました。森を利用されれば成す術ありません」

「焦る必要はありませんよバナドさん。彼らは恐らく花の国へ向かうでしょう」

「それじゃあ兵を動員して検問を敷こうルロイさん、逃げ場なんざ無ェよ」


つづく

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