「CASE2首吊り自殺」~息を呪う話~

───ぐらりぐらり、と。

喉の締め付けがこれでもか、と。


喉に纏わりついているのは、縄だろうか?私は身動きも出来ないまま、空中に浮かんでいた。下半身が気色の悪い濡れ方をしていた。たぶん、体の主は失禁している。

部屋に灯りなど無く、いや、あるのかもしれない。ランプの点滅する微光が、レトロな照明として機能してくれている。けれど、照明というのは過大評価。五秒周期に一瞬ほど光だから、世界は一見常に暗転している。私の光があるのではないかという期待が見せる幻覚でしかないのかもしれない。


(…………また、なの───!?)


今度は首吊り自殺の体に魂が宿ったらしい。相変わらず痛覚だけはしっかり働いているらしく、喉の辺りがヒリヒリする。もう笑っちゃいそうだった。おかしな話だ、例え二度目の自殺とはいえ、ここまで冷静になれている自分が恐ろしい。心の底で死にたがっているのかしら。


死に慣れることに得などない。私は今のところ生活に満足しているし、自殺する勇気は無い。だったらコレは無駄な経験でしかない。


(はやく、覚めないかな……)


どうせ、昨日と同じで、このまま苦しんで、時間が経てば目が覚める。そんなトコだろう。と、そう思ってたとこ、視界がグラついてきた。視界が外枠からじわじわと狭まっていく。目に移る物の輪郭も曖昧になっていき、体の意識自体が薄くなっているのだろう。

今回は早いなと思った。まだ自殺者の体で覚醒してから数分ちょっとしか経っていない筈なんだけれど。

ともあれこれで、私は目が覚めて、起きることが出来るだろう。


……。

……。


…………。


(───……あれ!まだ、目覚めない!?)


あれからたぶん一分経ったけれど、意識は未だはっきりとしていて、目の前の世界が、ランプの明かりすら視認出来ないほどに体は腐っていた。どうやらこの自殺者の世界は、まだ私を逃がす気などないらしい。なんかイライラしてきた。恐怖の感情よりも苛立ちが先立つ。何故こうも私に自殺者の追体験をさせるのか。


何故自分という人間がこんな嫌な体験をしないといけないのか、因果関係が分からない。ワカンナイもん!


首は相変わらず痛いままで、とてもとても苦しすぎるままで、私は宙ぶらりん。もうとっくに体は死んでいる筈なのに、私の魂は未だ死体に残り続けている。


いつになったらこの悪夢から覚めるのだろうか。あまりに明晰過ぎる夢の世界から、どうしたら脱出できるのであろう。思索を練りたいところではあるのだけど、生憎と、死体が覚える苦痛が頭の辺りにまで効いている。まともな思考ができないくらいに魂は唸っていた。


まるで、魂が死に続けているみたいだった。

いくら苦しんで意識が途切れ途切れになろうと、暫くしたら元に戻る。呼吸機能がいくらかマシになったかと思いきや再度呼吸機能の精度が下がり───何度もソレを繰り返す。

魂が、死に続けている感覚に陥ってしまった。


こんな状態、さっさと終わってほしかった。快楽と正反対の無間地獄は私の心を殺し続けていく。

「私は、はたして何の為に生きているのか?」

左様な疑問が思い浮かんで止まないレベルで、私は死ぬという感覚に慣れ過ぎてしまっていた。おかしな話もあったものだ。この世界で死に続けていると、どうしてか私は自殺という行為を肯定してしまいたくなる。


私はソレがキモイと思ったから、ソレを全力で否定しようと強がる。あと何回死ねばこの苦しみから解放されるのかしら?どこまで悲しめば私は夢の世界に許してもらえるのだろうか。

頼むからタスケテほしかった。誰でもいいから。この際、妹に起こしてもらいたかった。早朝に起きるだなんて不快でしかなかった私だけれど、今この時だけは現実での私の体を揺さぶってほしい、と想った。

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