(16)別れの晩餐
国王と王太子主導による綿密な計画と準備を進め、翌日にはアメリアが人間の国に向けて旅立つ日。王城の食堂では国王夫妻とエマリール、ルティウスとレティーが顔を揃え、アメリアとの別れを惜しんでいた。
「アメリア。いよいよ明日出発だな」
「はい、母様。準備万端整っていますから、安心してください」
「幾ら完璧に準備したとしても、不安は消えぬのだがな……」
朗らかに告げるアメリアとは対照的に、エマリールの表情は暗かった。そんな姉を、ルティウスが穏やかに宥める。
「姉上、そう仰らずに。サラザールが詳細な調査と移住の下準備を兼ねて、既に一年前から向こうの国で生活しているのですから」
「周囲に溶け込んで特に問題なく生活しているそうで、心強いですわ。アメリアが向こうに行っても、滅多な事にはならないでしょう」
「あれがそう書き送っているだけだ。寧ろ不安要素が増したぞ。やはり、他の手練れの調査員に任せるべきだったかもしれん」
「…………」
義妹の台詞に反応したエマリールの表情が、益々渋面になる。これは下手に触れたら状況が悪化すると察したアメリアとルディウス達は咄嗟に口を噤んだ。しかし娘の不機嫌さなど歯牙にもかけす、ラリサが言い聞かせてくる。
「確かにサラザールが自ら先行して調査に行くと言い出した時には驚きましたが、自らなすべき事を考えて行動するのは褒めるべきでしょう? それに今更ですから、いい加減腹を括りなさい。息子と娘に比べて、なんて意気地のない母親と周囲に思われますよ?」
「母上……」
あっさりと切り捨てられ、エマリールは不貞腐れた顔つきになった。そこで会話が切れたため、レティーがアメリアに語りかける。
「でも、この時期にアメリアが行ってしまうなんて残念だわ。向こうに行ったら、気軽に里帰りもできないでしょうし。子供が産まれたら、アメリアに見て貰いたかったのに」
「無理を言うな、レティー」
「そうだな。向こうに行くのをもう少し先延ばししたらどうだ?」
「あなた。キリが無くなりますよ?」
困った顔でルディウスが妻を窘め、ここぞとばかりにザルシュも口を挟む。しかしすかさずラリサが夫を制した。そんなやり取りを眺めたアメリアは少し残念そうな表情ながらも、これまで実の娘のように可愛がってくれた義理の叔母に、決意も新たに告げる。
「私も、叔父様と叔母様の子供の顔が見られないのはとても残念だけど、会ったらまた離れづらくなると思うし、予定通り行きます。無事に産まれて健やかに成長してくれるように、お祈りしています」
「ありがとう、アメリア。何かの折りにこちらに戻る事があれば、是非顔を見て頂戴」
「そうだな。ものすごく困ったり本当に無理そうだったら、遠慮しないでいつでも戻ってきなさい」
「はい」
ルディウスが真剣な眼差しで言い聞かせてくるのを聞いて、アメリアは本当にありがたいと思い、これまでこの人達に育ててもらった幸運を一人噛み締めていた。
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