(15)アメリアの現状

 保護者達が話題にしていた頃、アメリアは愛用の大剣を手に、王都郊外の森の外れで仁王立ちになっていた。すると山の裾野に広がる森の奥から二匹の竜が勢いよく飛び上がり、アメリアに向かって魔術で空気を振るわせて声を伝えてくる。


「よぉぉっし、アメリア! 言われた通り、全部そっちに追い込んだぞ!!」

「一頭たりとも逃がすなよ!? 訓練の一環だからな! 討ち漏らしたら俺達が狩っちまうぞ!」

「ありがとう!! 任せて!! 一頭たりとも討ち漏らしたりしないから!」

 子供の頃から遊び相手兼、武芸一般の修行相手に名乗りを挙げてくれていたジェイクとリヒターに大声で礼を言い、アメリアはすっかり手に馴染んでいる大剣を両手で握り締める。


「さあ、ステーキに煮込みに燻製に串焼きちゃん! 綺麗に丸ごと美味しくいただいてあげるから、安心して心置きなく食べられてちょうだい!!」

 アメリアがそう宣言している間に、目の前にある森の中から巨大な猪の集団が突進してきた。それが興奮状態のまま、一直線にアメリアに向かってくる。しかし彼女は全く怖気づいたりせず、寧ろ喜色を浮かべながらそれに向かって駆け出した。


「とりゃあぁぁ――――っ!!」

 勇ましい掛け声を放ちながら跳び上がったアメリアは、狙いを付けた先頭の大猪の首筋に向けて、勢い良く大剣を振り下ろした。その一撃で首を半分切られたそれが、声も上げずに倒れる。周囲の猪が倒れたそれにバランスを崩されたり、踏みつけてしまった事で次々と倒れる中、アメリアは素早く状況を判断し、次々に目当ての猪に飛び移っては首に切りつけ、または真正面から足を切りつけて群れの動きを止め続けていた。


「おうぅ、今日も剣の切れ味が冴えわたってるな。あの剣、師匠から渡された物だろ?」

「ああ。アメリアの少ない魔力を増幅させる、精巧な魔術が付与された物らしいな」

 上空から竜の姿のままジェイクとリヒターが観察していると、既に半分近くを仕留められて動きを止めた猪達が、はっきりとアメリアを敵認定してゆっくりと取り囲んだ。通常の人間ではとても突破できないと思われる状況だったが、竜の二人は涼しい声で会話を続ける。


「同様に魔術を施した槍と弓も渡したって聞いているが、本当か?」

「そうらしいな。まさか人間の国で大立ち回りする事態にはならないだろうが、念のためって事らしい」

「そういう物をアメリアに渡した時点で、トラブルに巻き込まれるのが必至のような気がするんだが……」

「不吉な事を言うな。当面サラザールも一緒に生活するし、そうそう滅多な事にはならないだろう」

「サラザールが一緒っていうのが、不安事項の一つなんだが。あいつ腕が立つのは認めるし、エマリール様の方針で清貧生活にも慣れているが、基本的にお坊ちゃんで変な所で甘ちゃんだからなぁ……」

「頼むからやめてくれ。不安が増してきた」

 いとも容易く猪の集団を斬り倒しているアメリアを中空から眺めながら、彼女の友人達は若干不安を隠せない表情になっていた。


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