(17)アメリアの考え
「アメリア。不愉快な話を聞きながらだと食事が不味くなるから今まで控えていたが、お前がここを離れる前に言っておかなければならない事がある」
食事を終えて最後のお茶を飲むタイミングで、エマリールが重々しく話を切り出した。対するアメリアは、不思議そうに母に視線を向ける。
「母様? なんですか?」
「お前の素性についてだ。現時点で推測を含めて、分かっている範囲で伝えておく」
「え?」
今まで全く耳にしなかった情報を与えられることになったアメリアは、目を丸くして固まった。そんな娘を気遣いながら、エマリールは慎重に話を進める。
「そういうわけでお前の両親の祖国と思われるガーディラン国は、お前の移住先とは大陸上では反対側に位置する。しかしその国は、この十五年の間に周辺国からの侵略と内紛の末、国土を以前の半分以下に減らしており、大した驚異にはならないだろう」
エマリールがそう話を締めくくると、話の間、伏し目がちにして考え込んでいたアメリアは、ゆっくりと顔を上げた。そして気持ちを落ち着かせるように軽く息を整えてから、静かに口を開く。
「そんな事があったの……。今まで教えてもらわなかったから、全然知らなかった。それなら兄様は、私の命の恩人なのね。向こうに着いたら、改めてお礼を言わないと」
「あれが好きでした事だから、礼は不要だろう。それで今の話を踏まえて、お前に確認しておきたいのだが。万が一、かつてお前の父親を追い詰めた連中の同胞と、向こうで遭遇したらどうする?」
「え? それは……」
予想外の展開と問いかけに、アメリアは本気で困惑した。と同時に、室内にいる全員が、自分に気づかわしげな視線を向けているのを察する。それでアメリアはどう答えるのが正しいのか分からないまま、正直に自分の思いを告げた。
「母様。それは、実際に遭遇した時に考える。仮定の話をしても仕方がないし、私を守って死んだらしい父親の敵討ちとかするべきかもしれないけど、実感が湧かないもの。その場その場で、きちんと対応するから。そうできるように、皆に育てて貰ったから大丈夫よ」
真顔でアメリアが口にした内容を聞いて、エマリールは満足そうに笑って頷く。
「ああ、それで良い。自分自身を信じて全力を尽くし、どんな事があってもどんな者にも後れを取らないように」
「分かりました、母様」
エマリールの薫陶で晩餐は幕を閉じ、各自は挨拶をしながら自室へと引き上げていった。
「最後の最後で、本当に驚いたなぁ……。あんな事情があったんだ。私って、単なる迷子か捨て子だと思ってたのに。私が実は竜でないと知った時の、次くらいの衝撃だった……」
アメリアは自室に戻ってから、明日の旅立ちに備えて荷物の最終点検を済ませた。そして先程食堂でエマリールから受け取ったばかりの、実母の形見であるペンダントを手に取って眺める。
「本当のお父さんとお母さんか……。守ってくれてありがとう。二人の分まで、しっかり生きていくからね」
実の両親が既にこの世にいない事実に、アメリアは少し悲しさと寂しさを感じていたが、彼女はそれを打ち消すだけの希望と意欲に満ち溢れていた。
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